自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

防災庁設置準備アドバイザー会議報告書を読む~被災者支援を中心に~│自治体の防災マネジメント 第112回

NEW地方自治

2026.02.18

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※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2025年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 2025年6月4日、防災庁設置準備アドバイザー会議の報告書が赤澤担当大臣に提出された。この報告書からは、全体に目配りしつつも凝縮された内容と緊迫感が伝わってくる。防災関係者はもちろん、全国民に読んでいただきたい内容となっている。有識者委員、内閣官房防災庁設置準備室のご尽力に心から敬意を表したい。

 メディアでは、専任の大臣や事務次官級の防災監を設置し、各省庁への勧告権を持つ司令塔機能を果たすなど、組織や権限について報道しているものが多い。一方、被災者支援についても充実した内容となっているので、解説を試みたい。

第一章 防災庁の必要性

 これまでの大規模災害時には、被災地のニーズに即応できない、縦割り行政による調整の遅れといった課題が指摘されてきた。

 報告書は、防災庁設置の意義について、おおよそ次のように述べている。

・課題を克服し、「国難級」と呼ばれる大規模災害に対しても一元的かつ機動的に対応できる司令塔機能を確立する。 ・防災庁は災害対応のみならず、平時からの事前防災、発災時の初動、そして復旧・復興までを一貫して担うことで、災害対応の全体最適化を図る。

 また、防災庁の基本理念を「防災庁は、国民の生命・人権の保護を最優先に、自然災害による被害の最小化を図るとともに、国家・社会の機能を維持することにより、早期の復旧とより良い復興を成し遂げ、安全・安心、持続可能で豊かな社会を実現する」と掲げている。

 最優先するのが生命・人権である。災害対策基本法の目的は「国民の生命、身体及び財産を災害から保護する」であるが、報告書では「人権」の文言が光っている。

 被災者支援について、我が国の災害被害の深刻さとともに、高齢化や地域コミュニティの脆弱化により、被災者が避難生活やその後の生活再建で多様な困難に直面することが指摘されている。

 特に、熊本地震や能登半島地震の教訓として、被災者が健康危機や生活困難、社会的孤立に陥ることなく尊厳ある暮らしを送れるよう、女性、高齢者、こども、障がい者、外国人などジェンダーや多様性の視点から、避難所という「場所」ではなく、「人」に着目した被災者支援の必要性が強調されている(報告書本文p.2参照)。

 このように、被災者支援において「モレ・ムラ」をなくし、支援が届かない被災者を減らすことが、災害関連死の防止や被災者の尊厳ある暮らしの確保につながるという視点が示された。

第二章 防災庁の基本理念と果たすべき役割

 ここでは、防災庁の基本理念として「国民の生命・人権の保護」を掲げ、被災者支援を含む災害対応全体の司令塔機能を果たすことが記されている。特に、「発災時から復旧・復興までの司令塔」として、被災地の「ワンストップ窓口」機能を持ち、被災者支援を迅速かつ的確に実施することが示されている(p.4参照)。

 このように防災庁による一貫した支援体制は、発災時の混乱の中でも、被災者の多様なニーズを把握し対応するために極めて重要だ。なお、防災庁職員が備えるべき行動原則のトップも「人命・人権最優先」。頼もしい限りだ。

第三章 防災政策の方向性と具体的な施策

 第三章には、防災庁が推進すべき具体的施策として、被災者支援に関する項目が複数盛り込まれている。特に、次の3つのポイントが重要だ。

(1)迅速な被災者支援の実現に向けた体制構築と事前準備

 ここでは、課題検討の場と実践すべき項目があげられている。具体的には、次のとおりである。

・女性、高齢者、こども、障がい者、外国人などジェンダーや多様性の視点から在宅避難、家屋保全、食と栄養等の様々な視点での被災者支援のあり方を検討する場の設置 ・保健・医療・福祉関係者や専門性を持つNPO/NGOやボランティアとの連携体制構築 ・災害支援物資等の標準化検討 ・避難所運営等の標準化、訓練実施 ・スフィア基準等を踏まえた備蓄、設備の強化 ・要配慮者に係る避難支援等の体制強化

 また、災害時を見据えたフェーズフリーな社会保障関連施策の推進、及び災害ケースマネジメントを平時から構築し、被災者支援をすることが求められている。特に、重層的支援体制整備事業の拡充が意識されていると思われる(p.6参照)。

(2)適時適切な被災者支援の実施

 発災時には、被災地の状況や多様な避難形態(在宅避難、車中泊、広域避難等)を的確に把握し、保健・医療・福祉、NPO・ボランティア等との協働により「モレ・ムラ」のない人権に配慮した被災者支援を実現することを目指すとしている。

 特に、要配慮者への対応については、情報レジストリといったデジタル技術を徹底的に活用して、災害ケースマネジメント等を通じた心身の健康維持や生活再建支援を切れ目なく実施することが重要とされている(p.7参照)。

 これは、従来の避難所という“場所での支援”から、個別化・多様化する被災者という“人への支援”の必要性を述べたものとなっている。

(3)被災地の早期復旧・より良い復興に向けた生活支援

 住まいや生業の再建だけでなく、地域コミュニティの持続的復興に向けて、産官学民連携で支援を進めることが記述されている。

 特に、「原形復旧にとらわれない被災地の早期復旧と『より良い復興』の実現に向け」と強調されている。これまでの災害で、原形復旧の厚い壁に阻まれてきたことを踏まえて、今度こそ「より良い復興」を目指すことが被災者支援の目標であると位置づけられている(p.8参照)。このため、平時からの訓練やシミュレーション、そして防災人材の育成が重要視され、支援の質を担保するための基盤整備が不可欠とされている。

 また、様々な関係者の連携体制の構築も必要とされている。まず国、自治体、NPO/NGO、ボランティア、民間企業、研究機関など、産官学民の様々な関係者がそれぞれの災害対応力を抜本的に強化することを求めている。

 さらに、防災庁が中核となって、多様な専門支援者の総力を結集し、相互の緊密なコミュニケーションを通じてコーディネートを行うことで「餅は餅屋」の災害対応となるよう連携強化を図るとしている。

第四章 防災庁の組織体制

 防災庁の組織体制のあり方として、各府省庁の専門性を最大限に活かしつつ、防災庁が被災者支援を含む災害対応の全体調整機能を果たすことが求められている(p.12参照)。

 これまでの、内閣府防災担当の業務運営では、毎年のように災害が発生する中で被災者支援を担う人材が慢性的に不足しがちであり、同時に平時の戦略的取り組みが中断しがちであった。このため、専門人材の確保・育成や、現場で働く職員が誇りを持って持続的に働ける環境整備も、被災者支援の質を向上させるうえで重要な基盤として位置づけられた。

防災庁設置と被災者支援の重要性

 報告書において、被災者支援は単なる災害応急期の課題ではなく、平時から復旧・復興まで一貫して取り組むべき社会的責務として位置づけられている。

 防災庁の設置は、こうした支援を司令塔的に統括し、避難生活に多大な困難を抱える被災者への対応を迅速、効果的に行うための大きな契機である。

 被災者支援は、国民の生命・人権の保護という国家の基本責務を全うする要であり、今後、防災庁を中核に産官学民の多様な連携と平時からの具体的な備えを期待したい。

 

著者プロフィール

跡見学園女子大学教授
鍵屋 一 かぎや・はじめ


1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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