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事例紹介▶︎京都市(京都府) 高画質管口カメラ調査×AIで下水道管の劣化判定を効率的に~老朽化と人手不足に立ち向かう次世代下水道管管理~

NEW地方自治

2026.03.25

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この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2026年1月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

事例紹介▶︎京都市(京都府)
高画質管口カメラ調査×AIで下水道管の劣化判定を効率的に ~老朽化と人手不足に立ち向かう次世代下水道管管理~

京都市上下水道局下水道部計画課担当係長
大槻 健

「事例紹介 京都市(京都府)」データ

取り組みを始めた背景と経緯:増大する老朽管と四つの課題

 我が国のインフラは、高度経済成長期に集中的に整備されたものが多く、今後急速な老朽化が見込まれています。下水道管においても同様であり、人口減少下において、どのように対応していくのかは大きな課題となっています。

 京都市が管理する下水道管の総延長は約4,300キロメートル、そのうち標準耐用年数である50年を超過している割合は現在約2割となっています。仮に更新を行わなかった場合、20年後には50年超過下水道管の割合が約8割まで急増します。

 下水道サービスを安定的に提供するためには、当然のことですが、これら下水道管を健全な状態に保持し、機能を確実に発揮させることが重要になります。昨今の厳しい財政状況下において、事故を未然に防ぎつつ、できる限り長期間下水道管を使用することが求められていますが、すべての下水道管の状態を既存の調査技術(自走式TVカメラ車を用いた詳細調査)で把握するには膨大な費用と時間がかかるため、これまでとは全く違った発想で効率的・効果的に調査していくことが求められています。

 また担い手不足も深刻です。人口が減ることで技術者が減るだけでなく、調査に係る技術を継承し、人材を育成していく必要がありますが、一朝一夕に習得できるものではなく、また経験則による部分も少なくないため判定結果にばらつきが生じることも課題です。

 つまり、
①老朽管延長の増大
②高額な調査費用
③調査の担い手不足
④判定結果のばらつき

という課題について、対応していくことが求められているのです。

 課題①②の解決策として、これまでは目的に特化したいわば下水道仕様の特別な製品を導入してきましたが、本市では広く市場に流通している汎用品の市販のアクションカメラ(高画質カメラ、2,000万画素)、LEDライトを組み合わせ、安価で視認効果が高い高画質管口カメラ調査の導入を図りました(図-1)。本手法はスパン長(マンホール間の距離)30m程度までは視認可能であり、そして詳細調査に使用するTVカメラ調査結果と比較して、改築更新の対象となる「緊急度Ⅱ以上」と「緊急度Ⅲ以下」を概ね85%の整合率で判別することができます。また、硫化水素等が発生している可能性のある下水道管内に現地調査員が入らず、地上から安全に調査が可能であり、従来調査手法よりも安価な機材を活用することで、調査のスピードアップとコストダウンを実現しました。

図-1 高画質管口カメラ
管口カメラの写真

 しかし、この高画質管口カメラ調査においても、撮影や劣化判定には知識と経験が必要なため、人材の確保・育成に時間を要することが課題でした(課題③)。また、判定基準はあるものの、専門技術者間でも知識や経験の差から判定結果にばらつきが生じる可能性が残されていました(課題④)。

 これらの課題を克服するため、高画質管口カメラ調査にAI画像判定技術を組み合わせる取り組みを開始しました。

ツールの概要:「管内画像良否判定」と「管内劣化判定」の二段構え

 AI画像判定技術の導入を試みた目的は、作業のさらなる効率化と判定精度の向上を図り、効果的にストックマネジメントを推進することにあります。開発されたAI画像判定ツールは、下水道管を調査する際の高画質管口カメラ調査フローに沿って、主に以下の2種類で構成されています(図-2)

図-2 AI×高画質管口カメラ調査の作業フロー
作業フローイメージ図

①管内画像良否判定ツール(現場支援)
 本ツールは、現場での高画質管口カメラによる画像撮影を支援し、撮影画像の品質を確保する役割を担います。画像が劣化判定に使用できない例として、照明不足で管の奥が視認できない場合や、構図のズレで管の中心を捉えていない場合などが挙げられます。

 AIが撮影直後にこれらの画像の良否を判定し、仮に不良であった場合、照明不足や構図のズレといった項目を具体的に提示することで再撮影を促し、「画像は撮影できたけれども、劣化の判定には使えない」といった状況を減らすことが狙いです。これにより、経験年数の浅い調査員であっても、再撮影を行う際の注意点を知ることができ、一定の品質をもった画像を取得することが可能となります。

②管内劣化判定ツール(判定支援)
 本ツールは、撮影された画像データに基づき、下水道管の劣化判定を支援します。具体的には、「腐食」「クラック」など6種類の評価項目に対して、5ランクの評価をAIが提示します(表-1)

表-1 高画質管口カメラ調査劣化判定基準
判定基準一覧

 AI画像判定技術を活用することで、これまで知識や経験に基づき行われ、個人差によるばらつきが生じていた劣化判定を、定量的に評価することが可能となります。この判定結果は、一律かつ数値化された適切な判定を確立する上で大きな効果を発揮します(図-3)

図-3 管内劣化判定ツールのアウトプット
判定の画像例

 なお、本取り組みは、多くの事業体が抱える課題解決に寄与する新たな調査手法として評価を受け、令和7年度(第18回)国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」(アセットマネジメント部門)を受賞しました。

共同研究者との連携および導入までの苦労

 本取り組みは、京都市上下水道局の下水道部計画課がAIモデルの評価を担当し、研究パートナーであるパシフィックコンサルタンツ株式会社(劣化判定、教師データの作成を担当)、株式会社Rist(AI技術開発を担当)と連携し、2022年に共同研究を開始しました。

 AI画像判定技術の導入において、苦労した点はAI画像判定の精度向上です。高画質管口カメラを用いた調査の実績は少なく、AIの精度向上に必須となる教師データを十分に収集するのは難しい状況です。また、下水道管の内部画像は、マンホール内から管渠内を撮影するため、照明や構図の影響を受けやすく、特に管奥部分では判定精度が下がりやすいという特性があります。

 この困難を克服するため、研究パートナーのノウハウを結集し、均一で高精度な教師データを作成することに注力しました。

導入後に得られた成果と技術継承

 AI×高画質管口カメラ調査の導入は、下水道管調査が抱える複数の課題に対し、具体的な効果をもたらしました(表-2)。調査が安価かつ迅速になったことで、広範囲の下水道管の調査が可能となり、より広範囲の下水道管の不具合の発見に寄与します。この高画質管口カメラ調査でスクリーニングを行うことで、予防保全型の維持管理、すなわち必要な箇所への詳細調査を効率的に実施することにも役立てることができます。

表-2 AI×高画質管口カメラ調査の導入効果
導入効果一覧

 さらに、本取り組みの大きな特徴は、技術継承への貢献が挙げられます。AIによる定量的な判定結果は、劣化判定の学びにつながり、人材育成の効果を期待しています。これまで現場の経験などを補完する技術継承の取り組みが不十分でしたが、AI画像判定を活用することで、下水道管の劣化判定における知識向上に直結させることができます。

今後の展望:知恵と協創でインフラ管理の未来を切り拓く

 京都市上下水道局では、高画質管口カメラ調査×AIの取り組み以外にも、現場の課題解決に直結する技術開発を積極的に進めてきました。

 例えば、大口径下水道管の調査技術開発においては、高価な専門機器ではなく、ホームセンターなどで販売されているスイムボードにアクションカメラやライトを載せた調査器具を製作し、実証実験を開始しました。また、下水道管の水位モニタリングについても、従来の業務委託に頼らず、同様の課題を共有する政令市の仲間たちと一緒に、職員自らが設置できる低コスト水位計を開発しました。

 これらの事例が示すように、私たちは、高価な自治体向け製品だけでなく、安価で身近なものを組み合わせても実用に耐えうるものが手に入る技術的に恵まれた時代にいます。

 アイデア次第で、世の中に無いものを生み出し、課題解決することができるのです。「無ければ作る!」という熱意と創造性が重要です。その際、今回ご紹介したAIツールの共同研究のように、民間との協創は課題解決を加速させる大事な要素となります。

 さらに、現代はアンテナさえ立てていれば、いくらでも情報が入ってくる時代です。私たちは、デジタル技術を賢く使いこなし、京都市で培った知恵と工夫を他自治体と共有しながら、老朽化と人口減少という難題に立ち向かい、次世代へ健全なインフラを引き継いでまいります。

Profile

大槻 健 おおつき・たけし
2004年に京都市上下水道局に入庁。下水道管路の維持管理部署、設計部署を経て、2023年4月から計画部門にて技術開発を担当。将来を見据えた下水道事業の課題克服に寄与するべく研究調査を行っている。

 

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