
事例紹介▶︎豊田市(愛知県) DX人材育成方針の策定による全庁でのDX人材育成の意識醸成と組織風土の定着
NEW地方自治
2025.11.14
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出典書籍:『月刊 J-LIS』2025年6月号
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事例紹介▶︎豊田市(愛知県)
DX人材育成方針の策定による全庁でのDX人材育成の意識醸成と組織風土の定着
(特集:全庁で進めるデジタル人材育成)
豊田市総務部情報戦略課主査 藤本 光

はじめに
当市は、愛知県のほぼ中央に位置し、面積は約918㎢で、県下最大の面積を保有するまちです。また、全国有数の製造品出荷額を誇る「クルマのまち」として知られ、世界をリードするものづくり中枢都市としての顔を持つ一方、市域のおよそ7割を占める豊かな森林、市域を貫く矢作川、季節の野菜や果物を実らせる田園が広がる恵み多き緑のまちとしての顔を併せ持っており、日本の縮図ともいえる都市構造をしているまちです。
2020年度に当課が発足し、豊田市のDX推進を図るために2021年2月に「豊田市デジタル強靱化戦略」を策定、副市長を本部長とする「デジタル化推進本部」、より具体的な議論を行うため人事部門や企画・財政部門も参画する「デジタル化推進チーム」を、また、2021年度からはCDOを設置しました。このような体制のもと、デジタル技術を活用した施策を積極的に推進し、伴走型でデジタル化による市民サービスの向上や職員の意識改革などを図ってきました。
取り組みの背景や経緯
デジタル強靱化戦略を策定しDXを推進する取り組みの背景としては、まだ記憶に新しい新型コロナウイルス感染症のパンデミックや近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震をはじめとする自然災害など、これまで経験したことのない大きな変化や、人口減少に伴う社会課題の複雑化、将来的な職員数の減少などが懸念される中、業務効率化による市民サービス向上を継続的に図るには、積極的なデジタル技術の活用が必要だとの強い認識があります。
これまでのデジタル強靱化戦略における人材育成の取り組みとしては、DXを全庁的に推進していくための機運醸成を目的としたDX研修や外部有識者との意見交換会を、各部局に配置されているデジタル化推進本部員(副部局長級)、デジタル化推進員(担当長から主査級)、新規採用職員を対象に実施しました。また、外部講師を招いてBPRやデータ分析といったDX推進に必要なスキルの習得を目的とした研修を希望職員に対して実施してきました。
こうしたこれまでの取り組みを踏まえ、デジタル部門の職員だけでなく、各所属の全職員のデジタルスキルの向上やDXへの理解の底上げ、部局や部局を横断する規模でDXを推進できるDX高度人材の育成が急務であると認識しました。人事課、情報システム課、情報戦略課の3課連携による多角的な協議に加え、民間企業から登用しているCDO補佐官からの助言やディスカッションなどを経て、2024年9月に「豊田市DX人材育成方針」の策定に至りました。
豊田市DX人材育成方針の概要
豊田市DX人材育成方針は、「全職員のDXレベル向上」と「庁内でのDX高度人材の育成・輩出」の2点を方針の柱としています(図-1)。
図-1 豊田市のDX人材体系

(1)全職員のDXレベル向上
育成方針の検討にあたり、「全職員のDXレベル向上」に関しては、全庁でDX人材育成の組織風土を根付かせるため、デジタル部門の職員はもちろんのこと、求めるDX人材像を全職員がイメージしやすくすることが重要だと考えました。そのため、現状と将来の職員像を職位別にそれぞれ整理・設定することで、当市が求めるDX人材像の定義を明確にすることを心掛けています(図-2)。
図-2 豊田市におけるDX人材像

加えて、研修で取り扱う7分野(DX意識、ITリテラシー、セキュリティ、ツール群、データサイエンス・EBPM、AI、エンジニアリング(ローコードツールやVBAに必要なコーディングスキル))それぞれでも職位別の研修の狙いやゴールを設定しながら、全職員を対象に研修を実施することとしています。
(2)DX高度人材の育成と輩出
「庁内でのDX高度人材の育成・輩出」は、全職員を対象にDX研修を実施していく中で、概ね6年目以上の中堅職員から管理職級の職員の間で希望者を募り、DX高度人材を育成・輩出していく取り組みです。
全庁でDXを推進していくため、現場業務を熟知し、そこに問題・課題意識を持ち、周りの職員を巻き込みながら主体的に業務推進できる職員を、以下の三つの高度人材として定義しました。今後5年間の各種人材の育成目標数は、デジタル活用人材が約180名、デジタル構築人材が約90名、プロフェッショナル人材が約10名と定めています(図-3)。
図-3 DX高度人材の人材像

①デジタル活用人材
現行業務の見直し・改善によるBPRを前提としたデジタル導入でDXを推進できる人材
②デジタル構築人材
システム構築・運用の経験があり、その知見も踏まえて各所属のデジタル導入やシステム構築を伴走支援できる人材
③プロフェッショナル人材
全庁規模でのDX方針の企画検討や部局横断的にDX事業の推進・牽引を担える人材
総務省が「デジタル人材の計画的な確保・育成の推進」の中で定義しているDX高度専門人材などは民間人材を活用することを前提としている一方で、このように当市がすべての人材を庁内で育成するという考えに至ったのは、当市が長年、住民記録や市県民税管理といった標準化対象業務をはじめ、財務会計といった内部事務で利用する基幹系システムの多くをシステム部門と業務所管部門の職員が連携し設計・構築することで培ってきた内製力を活かしたい思いがあるためです。
これら三つのDX高度人材を育成するため、DX高度人材のうちデジタル活用人材とデジタル構築人材はそれぞれ指定された研修の受講をもって認定するものとしています。
デジタル活用人材はデザイン思考やサービスデザイン、ビジネスアーキテクトといったビジネス推進力の習得を目的として、座学やeラーニング研修による知識やノウハウのインプットと、課題解決型ワークショップ研修によるアウトプットを両輪とする中長期型の研修の実施を検討しています。
また、デジタル構築人材では、システム部門の現在の業務スキルをベースに細分化した、ICTガバナンス、伴走支援、内製(ローコードでの開発)の3類型のスキルのリスキリングを行う研修の実施を検討しています。
また、両人材に共通して求められる技術としてデータサイエンスやEBPMの研修も実施を検討しています(図-4)。
図-4 DX高度人材の育成イメージ

2024年度の取り組み
2024年度に実施したDX関連研修をいくつかご紹介します。
1点目は、技術系若手職員向けのDX研修です。総務省地域情報化アドバイザー派遣制度を利用して講師をお招きして実施したもので、対面・オンラインをあわせ約50人の職員が出席し、最新のデジタル技術の動向を学び、新たな取り組みにチャレンジする機運醸成を図りました。
2点目は、ノーコードツールでの業務アプリ構築技術の習得を目的としたハンズオン研修です。2023年度に実施した同研修の経験を踏まえ、受講者の前提知識の量や研修に求めているものに違いがあることを考慮し、2024年度はツールの概要や基本的な操作を学ぶ基礎研修と、拡張機能を用いてよりカスタマイズ性の高いアプリ構築を目指す発展研修の2部構成とし、約100名の職員が参加しました。受講後アンケートではツールに関する知識を深めることができたという多くの声があり、今後のデジタルツール導入による業務効率化が期待される一方で、庁内普及後も各所属でのアプリ構築を支援できる仕組みの必要性など、システム部門の体制面での今後の課題も明らかになりました。
3点目は、基礎的なITリテラシー習得を目的に、前述のデジタル化推進員160名を対象にしたIT入門研修の開催とITパスポートの取得奨励です。研修開催後には受講者に加え、全庁から募った希望職員を含む計195名の職員がITパスポートを受験し、そのうち145名が合格しました(2025年3月28日時点)。職員の負担などの懸念から、当初、全庁から本取り組みへの理解を得るのは一筋縄ではいきませんでしたが、最終的にこれだけ多くの職員が受験し、そのうち7割強の合格者を輩出できたことは大変喜ばしいことです。職員のDXに関する知識等の向上に資する取り組みとして、2025年度も引き続きIT入門研修の開催やITパスポート受験奨励を検討していきます。
今後の課題と展望
2050年の展望を示す「ミライ構想」と今後5年間の取り組みの方向性を示す「ミライ実現戦略2030」で構成する第9次豊田市総合計画の始動に合わせて、2025年度から第2次豊田市デジタル強靱化戦略がスタートしました。同戦略では、「デジタル技術、データ等の活用・連携を基本とした行政運営への変革による質の高い行政サービスの実現」を向こう5年間で目指す姿としています。その実現のためには、BPRを基盤とした「生産性向上のDX」と「行政サービスのDX」に寄与する人材を市全体で育成・輩出していくことが今後より重要になると考えています。豊田市DX人材育成方針で掲げている目標の達成を目指し、2025年度からはDX高度人材研修の実施と、一般職員向け研修の充実を本格的に行っていきたいと考えています。
豊田市DX人材育成方針は、日進月歩で革新がおこるデジタル技術に合わせて随時見直しを行う必要があります。国の動向や技術発展の状況などを踏まえ、その時々で求められるDX人材像や育成に必要な研修が何かを見極めながらこれからもDX人材育成を進めていきます。
Profile
藤本 光 ふじもと・ひかり
2018年豊田市役所に入庁。情報システム課へ配属され、財務会計や市県民税管理をはじめとする基幹系システムの改修・運用業務に従事。その後、2024年から情報戦略課へ配属。主にDX人材育成や庁内でのICTガバナンス整備、ノーコードツールの利用普及業務に従事。
「事例紹介」は「月刊 J-LIS」で過去に掲載された連載です。
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