事例紹介▶︎一関市(岩手県) 生成AIを活用した住民向けチャットボット

NEW地方自治

2024.08.09

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2024年6月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

事例紹介▶︎一関市(岩手県) 生成AIを活用した住民向けチャットボット
(特集:自治体におけるAIの活用)

一関市市長公室政策企画課DX推進係主任主事 菅原 正晴

月刊「J-LIS」2024年6月号

はじめに

 一関市AIチャットボットに「一関市の概要」と質問すると、

 一関市は東北地方の中央に位置し、岩手県南部にある市です。首都圏から約450kmの距離にあり、仙台市と盛岡市の中間地点に位置しており、「中東北の拠点都市」として経済・文化・教育の中心を担っています。市内には美しい自然が豊富で、猊鼻渓や厳美渓の名勝地や一関温泉郷などの観光地があります。また、「平泉」の世界遺産登録地や三陸地方への観光拠点としても知られています。四季折々の自然と豊かな歴史を持つ一関市は、教育や学問の地としても名高く、多くの偉人を輩出してきました。

と回答があり、続けて「もっと詳しく」と質問すれば、

 一関市は岩手県の南部に位置し、面積は1,256.42km2で、岩手県内で第2位の規模を誇ります。人口は111,932人(令和2年国勢調査)で、市域は東西に約63km、南北に約46kmに広がります。四季折々の風景を楽しむことができ、市の西側は日本海側の気候の影響を受け、冬には降水量が多くなり雪化粧の風景を見せます。東側は太平洋側の気候であり、冬期間も晴れやすい地域です。交通環境に恵まれており、新幹線や高速道路を利用することで首都圏からの日帰り交流が可能です。猊鼻渓や厳美渓の名勝地や一関温泉郷などの観光スポットがあり、平泉などの歴史的価値の高い地域としても知られています。経済、文化、教育活動が盛んなほか、国際リニアコライダー(ILC)の建設候補地にもなっています。

と回答します。

 一関市AIチャットボットの回答はいかがでしょうか。

仕組みと効果

 一関市AIチャットボットには、三つの革新的な要素があります。

(1)連続したやりとりが可能
 前の質問内容をAIチャットボットが理解しているため、人間と同じように対話形式で連続して質問と回答をすることができます。

 図-1のように、「奨学金の返還に困っている」と質問すると『支援制度と対象条件』について回答します。続けて「市内に住む25歳の保育士」と伝えると『支援制度の対象となる可能性あり、他の要件』について回答します。普段、職員と住民が窓口や電話で応対している状況と同様に、一つの質問と回答で解決することは少なく、質問と回答を繰り返すことで複雑な問題に対処でき、理解を得られることがあります。

図-1 AIチャットボットの回答例

 一連の対話で入力された内容はAIチャットボットに記録しないようにしているため、対話の内容や情報が外部に漏れることはありません。

(2)学習データを一関市のホームページに限定
 一関市では、AIチャットボットのために職員が作業をすることはありません。職員が膨大なFAQを作成する従来のAIチャットボットとは異なり、一関市のホームページを定期的に自動で学習し、豊富な情報の中から生成AIが最適な回答を導いています。

 また、FAQの作成のみならず、FAQの更新作業も不要です。制度や仕組みの変更に伴いホームページ内の記述を更新すれば、変更内容を自動で学習してくれます。

 例えば、一関市では住民票の写しが1通300円、近隣の市町村では1通200円だった場合、生成AIが二つの情報を基に250円と回答する可能性があります。しかし、AIチャットボットが回答するための学習データを一関市のホームページの情報に限定することで、一関市に関する質問に正確な回答をすることができます。

(3)生成AIを活用した回答
 生成AI(ChatGPT)を活用して回答するため「文字のゆらぎ」に対応できます。従来のチャットボットで実際にあった事例として、「住民票はいくらですか?」と質問すると回答できず、「住民票の写しはいくらですか?」と質問すると回答があったということがありました。これは人間がFAQを作成して、その中からAIが回答を探していることが原因と考えられます。人間の作成するFAQには限界があります。質問者が「住民票」と「住民票の写し」のどちらの単語を使用するかは分かりませんが、生成AIが「住民票」と「住民票の写し」を理解しているからこそ、質問に対し的確に回答することができます。

 このChatGPTは多言語対応しているため、一関市AIチャットボットでは、ChatGPTが対応できる言語を使用することができます。ただし、学習データが日本語であることから、正確性を確保するために日本語で回答しています。英語で質問しても日本語で回答しますが、続けて「Please English」と質問すると、回答を英語に翻訳してくれます。職員に外国語のスキルがなくともAIが質問を理解し、回答することができます(図-2)。

図-2 対話型AIチャットボットのポイント

 また、一関市AIチャットボットは、安全・安心に利用できるよう、センシティブな内容を含む質問には答えないように設定されています。例えば、AIチャットボットに「お金がない」と質問すると『生活困窮からの自立に向けた支援の制度について』を回答しますが、「お金がほしい」と質問すると『申し訳ございません、わかりませんでした』と回答します。

背景

 2022年12月に生成AIを初めて体験し、大きな衝撃を受け、庁内の課題解決に活用できないかと考えていました。

 また、2023年2月に全庁を対象とした職員の業務量調査、意識調査をとりまとめたところ、「住民からの電話応対が多く、事務処理に費やす時間がない」との声が多くありました。この結果を受けて、住民の利便性の向上と職員の負担軽減を図るAI チャットボットの導入が必要と判断し、デジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプTYPE1に申請しました。

 申請当初は、FAQを作成する従来のAIチャットボットを想定した内容でしたが、導入に向けた検討を進めていく中で、質問に対する回答を自然な文章で生成する生成AIの技術を活用し、FAQを作成・更新する作業を削減できるAIチャットボットを導入する方針となり、その仕様を作成しました。

 2023年7月にAIチャットボットの公募型プロポーザルを実施しました。当時は、一関市の仕様を満たすAIチャットボットを確認できていなかったため、応募がないかもしれないという不安もありましたが、予想を超える複数の応募があり、デモを含めたプレゼンテーションを経て、合同会社EasyDialogと共同で開発することになりました。

 生成AIに質問した内容が学習されてしまうことと、Yahoo!やGoogleなどの検索履歴が学習されていることは同じではないかと考え、生成AIのみを使用禁止するのではなく、生成AIを安全かつ効果的に活用して大きな効果を得るため、一関市では、生成AIに関するプロジェクトチームを設置しました。当初はプロジェクトチーム員も生成AIに対する不安を抱えており、業務への活用に消極的でした。しかし、実際に生成AIを試用し効果の大きさを実感するにつれ、安全で効果的な使い方を職員が理解し、適切に活用していくための話し合いができるようになりました。また、チーム員は生成AIの初心者であったことから、具体例を交えて解説した職員向けの「ガイドライン(実施手順)」も同時に作成し、職員が理解しやすい内容の生成AIに関する利用ガイドラインを作成しました。

 生成AIの活用には、物理的なアクセス制限、職員のコンプライアンス、適切なリスクアセスメントが重要です。

【生成AIに関する利用ガイドラインの概要】
(1)業務に活用する生成AIの種類

 インターネット環境上で利用する生成AI
 LGWAN上で利用できる生成AI

(2)情報セキュリティの保護
 業務に関係ないサイトへのアクセスを制限
 ●インターネット上にデータ保存や共有する環境を設けない  私的なアカウントでのログインを禁止
 ●一関市情報公開条例に定める不開示情報の入力を禁止

導入後

 2024年3月15日から4月14日までの1ヵ月間の一関市AIチャットボットへの質問数は、1日平均約80件です。質問の約8割にはAIチャットボットが回答をしています。回答できていない約2割は、一関市に関係のない質問や、質問された情報が市ホームページにない、市ホームページに掲載されていても情報が画像データになっているためAIが情報を処理できないといった理由です。画像データの処理に関しては、AIの進化により解決できることでしょう。

 今後は、連続して対話できるAIチャットボットを応用し、音声による会話を行い、窓口案内業務や電話対応業務へ生成AIを活用した音声サービスの実装に向けて取り組む予定です。

 

Profile
菅原 正晴 すがわら・まさはる

民間企業で4年間勤務。2008年4月一関市入庁。国保年金課、花泉支所産業建設課、職員課を経て、2021年4月に情報政策担当部署(現・政策企画課DX推進係)に配属。現在は行政情報化推進、自治体DX推進業務に従事。

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特集:自治体におけるAIの活用

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