【特別企画】対談《前編》総合政策としてのスマートウエルネスシティで創造する都市の健幸(Well-being)最大化|東京都中野区

NEW地方自治

2026.03.23

総合政策としてのスマートウエルネスシティで創造する都市の健幸(Well-being)最大化

――東京都中野区の取組みを中心に

急速な少子高齢化に伴って医療介護需要の増大や健康格差、独居者・後期高齢者の激増、孤立・孤独の問題が深刻化している。そうした中、分野間連携による総合政策で、自然と健幸(Well-being)になれる環境づくりとしてのスマートウエルネスシティ(SWC)が注目されている。そこで、全世代型地域包括ケアとスマートウエルネスシティの推進に取り組んでいる東京都中野区の酒井区長と、内閣府SIPプログラムディレクターを務める筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センター長の久野教授に、これからの健幸施策のあり方について語り合ってもらった。

酒井直人さん、久野譜也さんの写真
左:酒井直人/東京都中野区長
右:久野譜也/筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センター長・内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」プログラムディレクター


東京都中野区:人口約34万3800人(令和8年1月1日現在)、高齢化率19.55%(令和7年1月1日現在)、合計特殊出生率0.96(令和3年時点)

SWC構想を策定し議会とも連携して推進

久野 スマートウエルネスシティ(SWC)の活動は、2009年のスマートウエルネスシティ首長研究会(*1)発足以降、16年以上の実績を積み重ねてきました。そのような中、東京都中野区は「スマートウェルネスシティ中野構想」(*2)を策定し、取組みを強化しています。構想策定のねらいと取組みの方向性を教えてください。

酒井 中野区では、これまで主に高齢者を対象として進めてきた地域包括ケア体制をさらに発展・充実させ、支援が必要なすべての人を対象にした体制を構築してきました。一定の成果は出ていますが、子どもの頃からの予防的なアプローチや、そもそも健康でい続けられる環境整備が必要ではないか、という問題意識が強まりました。地域包括ケアのさらに手前の予防の観点でポピュレーションアプローチを図っていく上では、SWCの理念がベストだと思い、まちづくりの中核に位置づけました。

久野 様々な分野の関与が必須となるSWCの推進は縦割り組織では難しい面があり、職員の理解が不可欠です。その点はいかがでしたか。

酒井 縦割りの問題は、地域包括ケア体制を構築するにあたり直面しました。かつて私は地域包括ケア担当の初代課長を務め、他の部署に働きかけましたが、当初はなかなか関心を持ってもらえず、横串を刺す政策では同じような経験をしてきました。SWCも直ぐには動かないと思い、担当職員にはSWCの意義を踏まえ、構想の検討段階から他部署を巻き込み、共感してもらいながら進めるように話しました。そのため、構想策定は1年から1年半ぐらいかかりました。

久野 職員に理解してもらう上で力を入れたことは何でしょうか。

酒井 「中野区基本構想」(2021年改定)(コラム①参照)では、「つながる・はじまる・なかの」を打ち出しています。その実現にSWCは不可欠だと説き、様々な機会にかなりしつこく伝え続けました。
 その結果、例えば、まちづくりや公園整備の担当部署の行政計画には「歩きたくなるまちづくり」という言葉が当然のように入るようになり、手応えを感じています。

久野 中野区議会では、「スマートウェルネスシティ調査特別委員会」(*3)をつくっていますね。

酒井 議会もSWCに高い関心を寄せており、特別委員会で議論してもらっています。

久野 執行部と議会が緊張関係を保ちながら、両輪でSWCを進めていく形は、全国でも中野区が初めてではないでしょうか。

酒井 議会と連携しながら、取組みを加速したいと思っています。


*1  首長(区長・市長・町長・村長)が中心となり、「健幸」をまちづくりの軸に据えた「スマートウエルネスシティ(SWC)」の考え方を共有し、政策づくりや実装を進めるための自治体間ネットワーク/研究会。

*2 「健康づくり」、「つながりづくり」、「まちづくり」等の施策の方向性を示したもので、区民に直接働きかける「人へのアプローチ」と、 環境づくりを進める「まちへのアプローチ」への展開を目指している。

*3  区が進めるスマートウエルネスシティに関して、取組み状況や計画、事業の進め方を調査・審査するために議会に設置された特別委員会。施策が 効果的・継続的に進むように、必要に応じて意見や提言につなげることを目的としている。


酒井直人さんの写真
酒井直人区長

コラム① 中野区基本構想

中野区基本構想

中野区が目標とするまちの将来像を示す構想。「つながる はじまる なかの」をコンセプトに、区政全般にわたる分野について、4つのまちの姿を描く。2021年の改定版冊子の表紙には区内の児童生徒の作品を掲載。


「つながる場」、「はじまる場」としての新庁舎がオープン

久野 中野区は、JR中野駅前の再開発を進め、24年5月に新庁舎をオープンさせました(コラム②参照)。駅から非常にいい感じで歩いて来庁でき、1階にはイベントが行えるホールがあります。従来の自治体庁舎とは違う印象を受けましたが、整備にあたって注力したことは何ですか。

酒井 駅からバリアフリーでアクセスできるようにし、また、ホールは区民が集う場だという理念を掲げて整備しました。1階フロアには区の窓口カウンターを置かず、ホールやミーティングルーム、カフェ、コンビニエンスストアを設けています。区役所に用事がなくても立ち寄ってもらえる場所にしました。

久野 そのような庁舎にしようという発想は、どこから生まれたのでしょうか。

酒井 前述の基本構想に掲げた「つながる・はじまる・なかの」という区の目指す姿からです。人と人、団体と団体が出会って、「つながる場」「はじまる場」としてホールを使ってもらいたいという強い思いがありました。

久野 10年ぐらい前に視察したドイツのエアランゲンという人口10万人ぐらいの都市は、シティホール前が公園とイベントスペースになっていて、年間200回以上のイベントが開催されていました。民間やNPOが多彩なイベントを主催し、住民は自分の興味に合わせて集まっています。その姿を見たとき「これだ!」と直感的に思ったものです。中野区の新庁舎にはエアランゲンで見てきた雰囲気があり、「つながる」空間が生まれていると感じます。

酒井 ホールの使用料を低く抑え、イベント会場として活用してもらっています。平日昼間にも民間のイベントが活発に行われており、区が進める歩きやすいまちづくりの拠点になっています。

久野譜也さんの写真
久野譜也教授

コラム② 中野区新庁舎

中野区新庁舎

区民のにぎわいや憩いの場であるパブリックスペース「ナカノのナカニワ」や、来庁者にとって利便性の高い「なかのスマート窓口」などの整備のほか、災害時の対策拠点としての機能も搭載。また子育て世帯の来庁負担を減らす設計にも焦点が当てられており、ベビーカーで移動しやすい動線、授乳室・おむつ替え、多目的トイレ、キッズスペース等も設置されている。


高齢者・子育て世代の施策にも注力

久野 私は内閣府SIP(コラム③参照)の「包摂」のプログラムディレクターを務め、SWCにも取り組んできました。そこで今後は「孤立・孤独」の問題が大きな行政課題になると感じています。中野区が「つながる」という理念のもとSWCを推進している根底には、区長が中野区職員として福祉・健康分野に携わってきた経験があるのでしょうか。

酒井 中野区には高齢者が7万人おり、その半分近くが一人暮らしです。地域社会で安心して暮らすうえでコミュニティは大きな役割を担いますが、そもそもコミュニティにつながっていない人も少なくありません。団塊ジュニア世代が高齢者になる前に手を打っておく必要性を感じています。

久野 そのため、どのような施策に力を入れたいとお考えですか。

酒井 一つには、生涯学習などで地域とつながってもらえないかと考えています。ただ、区では55歳以上の在住者を対象に生涯学習大学を開催していますが、なかなか受講してもらえないのが現状です。ニーズに応えられていないのが要因だと思うので、何が求められているかをしっかり把握して、つながるきっかけづくりに力を入れたいと思っています。

久野 高齢者施策とともに、子どもや子育て世帯を対象にした施策にも力を入れています。区長立候補時の公約に、子どもを対象にした取組みが打ち出されていました。

酒井 「子育て先進区」を標榜し、子どものために何ができるかを考え、取り組んでいきました。

久野 その取組みによって、どのような成果が得られましたか。

酒井 一つの指標ですが、日経クロスウーマンと日本経済新聞社の「共働き子育てしやすい街ランキング」では、首都圏自治体で上位にランクインしました。子育て施策を充実したことで、評価が高まった結果だと考えています。

久野 それにより、区民の満足度も高まっているとお感じでしょうか。

酒井 中野区が子育て施策に力を入れようとしていることは、区民に伝わっており、満足度は高まっていると感じています。24年度から学校給食を無償化しましたが、26年度からは区立小中学校の修学旅行費や教材費などの無償化も実施予定です。また、子どもの権利に関する条例を制定しており、あらゆる施策に子どもの意見を取り入れています。その中で新しく始めたのが、修学旅行や校外学習の行先を子どもたちが決める取組みです。それから、小学校に20万円、中学校に30万円の予算をつけて、その使い道を子どもたちが決めることを始めました。子どもの頃から自分たちで話し合って決める経験をさせることで、将来的な主権者教育になると期待しています。

久野 子どものときからそのような経験が積めるのは貴重だと思います。学校側の反応はいかがですか。

酒井 条例の制定においては、学校現場からもいろいろな意見が出され、それらも踏まえて検討しました。条例施行後4年近くになりますが、学校も協力的です。

コラム③ 内閣府SIP発・伴走型支援DX──13の自治体(地域)で展開中のMOM UP PARK

内閣府SIPは、内閣府が主導する国家的研究開発事業で、5年間のプロジェクトを経て社会実装を目指す。久野教授は第3期課題のうち「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」のプログラムディレクターを務める。その中で展開中の「MOM UP PARK」は、妊娠・子育て期女性を中心に、運動・学び・つながりの機会を提供し、科学的根拠に基づいて健康とWell-being向上を支援する取組み。2025年度「第19回キッズデザイン賞」受賞。母子保健施策等を補完する新しい伴走支援モデルとして、全国市町村等の幅広い参加を呼びかけている。

▼MOM UP PARK(マムアップパーク)紹介ページはこちら
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ポイント事業で健康無関心層を動かす

久野 中野区はSWCの実現に向けて「健幸ポイント事業」(*4)を始めています。そのねらいとこれまでの手応えを教えてください。

酒井 25年度は1000人の参加者を募集しましたが、2000人以上の応募があって反響は大きかったです。ウォーキングでデジタル地域通貨に交換できるポイントがつくことから始め、庁舎1階の測定器を使うとポイントがもらえるので来庁する人が増えています。ポイントがインセンティブとなって、健康無関心層も運動や健康づくりへの関心が高まりつつあることを感じています。

久野 個人の健康だけでなく、参加者同士のつながりなど、複合的な効果も期待されています。

酒井 例えば、区が実施する健幸関連のイベントに参加したらポイントがつくなど、外出してもらう機会を増やすとともに、参加者同士をつなげる視点を意識していきたいと思っています。

久野 千葉県白子町では健幸ポイント事業で歩く住民が増え、それにより不審者が出にくくなった話を聞きました。奈良県には子どもの登下校時間に通学路を歩くとポイントをつける自治体があり、地域全体に効果を及ぼす取組みも広がっています。

酒井 いまのお話はいいヒントになりました。中野区でも今後、複合的な効果が出るようなアイデアを考えていきたいと思います。


【後編に続く】


*4  令和7年度から実施。健康管理アプリ、活動量計及びスマートウォッチを活用し、区民が手軽に楽しく継続的に健康づくりに取り組めることを目的としている。

健康リテラシー向上めざすMOM UP PARK
特別プログラム「20分のホント」がスタート!!

意外にむずかしい健康リテラシー向上の支援コンテンツを開発・提供
「予算ゼロ事業」「連携協定」等で即導入可


 内閣府SIP「MOM UP PARK」では、育児・家事・仕事に忙しい母親層の健康リテラシー向上を支援する自治体向けの特別プログラム「20分のホント」を新たに開始。健康、子育て、メンタルケア、プレコンセプションケアなど、ライフコースに着目した「1回20分」の楽しんで学べる無料オンライン講座で、専門職がわかりやすく解説。パートナーや支援者にも役立つ内容となっている。

 同プログラムは、ハイリスク対応中心になりがちな保健行政を支える伴走型支援DXのうち、とくに健康リテラシー向上支援ツールとして開発されたもので、後述のように、自治体側の負担は最小限で、既存事業と組み合わせれば、効率的に子育て世代の健康リテラシー向上が図れるとして期待されている。

■ママ・パパ等=LINE登録のみ→無料でオンライン参加可能
■自治体等=LINE登録案内のみ(運営や講師選定等は事務局が担う)

既存事業 + 予算ゼロ事業・連携協定等 健康リテラシーup

 新たな予算を確保せずに導入できるとして注目を浴びている。普及啓発や住民支援等の支援ツールとして検討してはいかがだろうか。

▼MOM UP PARK(マムアップパーク)「特別プログラム」紹介ページはこちら
MOM UP PARK(マムアップパーク)「特別プログラム」紹介ページへのQRコード

【企画提供】
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
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