政策課題への一考察 第104回 今後の自治体に求められる副市長の役割 ― 副市長公募の実態を踏まえた考察(下)

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2025.01.09

※2024年11月時点の内容です。

政策課題への一考察 第104回
今後の自治体に求められる副市長の役割 ― 副市長公募の実態を踏まえた考察(下)

株式会社日本政策総研研究員
松田 
睦己

「地方財務」2024年12月号

1 はじめに

 前稿では、法制度・任用方法の観点から副市長の役割を整理した。副市長の役割強化に伴い任用方法が多様化し、自治体ごとに求められる副市長像が異なるため、理想像の明確化が重要であることを示した。

 本稿では、生駒市と氷見市の副市長公募事例を基に、副市長公募実施上の留意点や成功条件について論じる。

2 副市長公募の事例

 副市長公募は一般的に、①募集の開始(応募資格・処遇等の公表)、②書類選考、③面接、④庁内協議、⑤議決のプロセスを経て就任が決定する。管見の限り、一般公募により副市長が登用された事例は、図表1のとおりである。これまで公募副市長が実際に登用された自治体は計11自治体(11名)であり、民間出身者が8名、公務員が3名と経歴は多種多様である。

図表1 副市長公募の事例
・兵庫県豊岡市/2009年/真野毅/過去の経歴:クアルコムジャパン株式会社代表取締役 ・三重県松坂氏/2010年/小林益久/過去の経歴:メリルリンチ日本証券(現BofA証券) ・長崎県南島原市/2011年/高田征一/過去の経歴:観光コンサルタント会社経営 ・奈良県生駒市/2011年/小紫雅史/過去の経歴:環境省 ・北海道滝川市/2012年/鈴木光一/過去の経歴:国際支援NPO法人事務局長 ・愛知県豊明市/2012年/小浮正典/過去の経歴:イオン株式会社 ・神奈川県葉山町/2012年/田辺高太郎/過去の経歴:独立行政法人国民生活センター ・大阪府四条畷市/2017年/林有理/過去の経歴:株式会社リクルート ・埼玉県行田市/2019年/石川隆美/過去の経歴:行田市教育委員会 ・富山県氷見市/2020年/篠田伸二/過去の経歴:株式会社TBSテレビ ・静岡県掛川市/2022年/石川紀子/過去の経歴:日本電気株式会社 ・広島県安芸高田市/(議会で否決)/四登夏希/過去の経歴:双日株式会社、一般社団法人RCF ・沖縄県竹富町/(議会で否決)/上野紗季/過去の経歴:竹富町まちづくり課
出典:筆者作成

 以下では、副市長公募の事例として、奈良県生駒市と富山県氷見市の事例を整理する。

(1)奈良県生駒市の事例
 生駒市では2011年3月より副市長の一般公募を開始し、371人の応募があったなか(1)、同年8月に環境省や日本国大使館などで従事した経歴を持つ小紫雅史氏が就任した。採用は生駒市独自に進められ、選考では経歴審査や小論文、面接などを行った(2)。選考の基準に関して、山下市長(当時)は、副市長に「生駒市の発展を志す意欲、リーダーシップ、実務能力、人をまとめる人柄」を求め(3)、小紫氏には部局間の調整と政策立案を期待していた(4)

〔注〕
(1)生駒市議会会議録「平成23年第4回定例会 議会運営委員会」

(2)生駒市議会会議録「平成23年第4回定例会(第5号)」

(3)生駒市議会会議録「平成23年第4回定例会 企画総務委員会」

(4)生駒市議会会議録「平成23年第4回定例会 企画総務委員会」

 小紫氏は「認知症予防事業」や「ジェネリック医薬品の推進」といった市民の健康福祉に直結する施策に加え、まちづくりや空き家対策などの取組も主導した。その他、従来の公務員試験を廃止し、民間企業が導入している適性検査「SPI」をいち早く導入した。

 山下市長の退任後、小紫氏は現職推薦を受け、生駒市長選挙に出馬し当選した。このことから、市長の期待どおりもしくはそれ以上の働きをしており、市民からの一定の支持を得ていたものと考えられる。

(2)富山県氷見市の事例
 氷見市はエン・ジャパン社と連携し2020年2月より副市長の一般公募を開始した。全国から810名の応募があったなか、同年4月に株式会社TBSテレビでプロデューサーを務めた経歴を持つ篠田伸二氏が就任した。公募実施の背景には、地方創生政策の強化に向けて見識や人脈を持ち、新しい発想と行動で変革をもたらす人材を求めていた(5)

〔注〕 (5)氷見市議会会議録「令和2年3月定例会、3月17日-04号」

 篠田氏は主にメディア業界での経験を活かし、市政の広報活動を強化した。具体的には、ケーブルテレビでの広報番組を立ち上げ、市政の情報発信に取り組んだ。その他、「氷見ふるさとエネルギー株式会社」の代表取締役として地域エネルギー政策を推進した。

 その他、林市長(当時)が就任したタイミングで市長及び副市長の指示により、地方創生に関わる政策、施策の推進に関して部局横断的な庁内調整や議会調整など、副市長をサポートする役割(6)を担う「政策統括監」のポストが設置された。なお、当該ポストが結果的に就任直後の副市長の行政経験の不足を補う役割を果たしていたと推測される。

〔注〕 (6)氷見市議会会議録「令和3年12月定例会、12月07日-03号」

 しかし、篠田氏のメディアでの発言が議会で問題視され、副市長の資質が問われる場面も確認されており、行政経験の不足により議会との関係性構築に難航したと推測される。実際に、令和6年3月定例会の「氷見市副市長の選任について」の議題において「市長の補佐・職員の事務の監督など本来の副市長としての働きが見えていない」「広告塔の役割は副市長以外の立場でも担えるのではないか」など、副市長の資質について指摘されている(7)

〔注〕 (7)氷見市議会会議録「令和6年3月定例会、3月19日-04号」

3 副市長公募実施に際して自治体に求められる対応

 「2副市長公募の事例」の内容を踏まえ、副市長公募実施に際して自治体に求められる対応を以下に整理する。

(1)求める人材像(採用要件)の明確化
 自治体が抱える課題に対応できる人材像を明確に定義することが重要である。採用段階で意図していたかは不明だが、生駒市、氷見市ともに人材の経歴やスキルに比較的合致した職務・役割に就くことができたため、両自治体とも政策の効果が上がっていると考えられる。

 このため、まずは自治体が置かれている現状を精緻に分析し、通常の採用(特に中途採用)と同様、地域や庁内が抱える課題からどのような人材が必要かを定義し、必要な経歴やスキルセットまでを分解する必要がある。このことにより、成果を上げられる(ニーズに合致した)人材獲得、選考の効率化及び精度向上(応募要件の基準設定、選考基準の統一による選考のバラつきの低減等)が見込める。

 また、採用時には候補者を見極める「目利き力」が求められる。事例では民間事業者(人材サービス)と連携し広報を強化する取組が確認されたが、周知段階にとどまらず採用要件の明確化や実際の面接・評価まで対応できることが理想である。例えば、自身が有能と考える副首長や民間から公務員に転職した管理職(逆も同様)などを面接官に招き入れることが一案である。その他、副市長は通常公募を用いた選考対象とならないため、適切な評価指標を設定できないことも想定される。このため、庁内の管理職に理想の副市長像を聞き、その結果を選考基準の参考とすることも有効であろう。

(2)行政経験のない人材へのサポート
 事例のとおり、行政経験がない人材が副市長に就任する場合、行政運営の安定性に不安が残る。この点は副市長ポストに限らず自治体における外部人材活用全般において共通する課題である(詳細は若生論考(8)参照)。このため、行政経験の不足を補う仕組みを併せて検討する必要がある。例えば、氷見市の「政策統括官」のように調整を担うポストを設けサポートすることも一案である。その他、副市長の定数は条例で定めることができるため、例えば副市長を2人体制とし片方は外部人材(攻め)、一方は内部登用(守り)とすることも考えられる。実際、広島県安芸高田市では県からの出向者は「守りの要」、外部人材は「攻めの要」とし副市長公募を実施した(9)。このように、「攻め」と「守り」のバランスを考慮した配置により、外部人材の専門的な知見を活用しやすい環境につながる。なお、バランスの検討には、「管理志向型」と「行動志向型」の観点が重要である(詳細は前稿参照(10))。

〔注〕
(8)若生幸也「地方自治体における副業・兼業人材活用の在り方」『地方財務』2022年6月、ぎょうせい。
https://researchmap.jp/twakao/misc/37096840

(9)「38歳の新市長と広島県安芸高田市を変える。「2人目の副市長」公募開始。」株式会社エン・ジャパン。
https://www.enjapan.com/project/akitakata_2101/

(10)松田睦己「今後の自治体に求められる副市長の役割―法制度の変遷・任用方法に着目して(上)」『地方財務』2024年11月、ぎょうせい。

 しかし、市長を補佐する役割を担い、自治体経営のトップ層である副市長にサポートが必要である状態は本来望ましくない。このため、能力を理由に副市長の役割や本来業務を分担するレベルでのサポートは過剰であり、必要なサポートとはあくまで就任直後から組織に適応するまでの補助であると筆者は考える。

 また、公募副市長が効果的に機能するためには、早期に議会や市民との信頼関係を築くことが必要である。特に、外部人材登用には市民や議会の反発が想定される。このため、副市長としての資質もさることながら、選定過程の透明性や市民・議会向けの説明(アピール)・調整等、事務局側のサポートも重要である。この点、「①行政経験の有無」にもつながるが、行政経験を有することは市民・議会からの信頼に一定程度つながると考える。なお、広島県安芸高田市や沖縄県竹富町では副市長公募を実施したが、副市長(候補者)の人事案が議会で否決されている。

(3)副市長登用によらない専門性確保のアプローチ
 氷見市議会でも指摘されているとおり、副市長は自治体経営の中核を担う替えがきかない職である。このため、自治体経営改革の手段として一般公募の実施が適切かを十分に精査する必要がある。特に公募実施の第一の目的に専門性確保が挙げられる場合、特命ポストの設置やアドバイザー派遣の選択肢も想定すべきである。特命ポストの設置では、全国的にも登用が進むDXを推進する「CIO補佐官」や、神戸市のスタートアップ支援や新産業創出を担当する「イノベーション専門官(11)」、札幌市の「海外/国内企業誘致担当(12)」など、専門的な知見を持つ外部人材を登用するケースもある。その他、ここ数年で徐々に広がりつつある、副業・兼業人材活用のスキームを活かしアドバイザー的な立ち位置で専門家の支援を受けることも想定される。

〔注〕
(11)「神戸市、エン・ジャパンを通して神戸/東京の2拠点で「イノベーション専門官」を公募。」株式会社エン・ジャパン。
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2024/37098.html

(12)「札幌市、エン・ジャパンで「海外/国内企業誘致担当」公募」株式会社エン・ジャパン。
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2024/38761.html

 また、「個人」を登用するのではなく、「組織」に委託するというアプローチも考えられる。自治体経営のトップマネジメントを補佐する視点でいえば、自治体経営を支援する民間シンクタンクやコンサルティングファームがある。複数分野の専門性を有する「組織」に委託することで、その関与方法によってはより選択肢は広まる。

4 「副市長公募」は経営改革の一手となり得るか

 前稿含めこれまで見てきたとおり、「副市長」を起点とした自治体経営改革を実現する手段として「副市長公募」が挙げられるが、採用要件の明確化、応募者数の確保(要件に合致した応募者がいない可能性もある)、候補者の目利きなどの困難さから、基本的に自治体や市長の期待どおりの成果を見込める候補者を選定する難易度は相当高いと筆者は考える。市民生活の根幹業務を担う基礎自治体の経営の中枢である副市長が機能しなければ、自治体経営の継続に支障を来すリスクも想定される。以上を踏まえると、課題が山積する自治体には、最低限の安定性は確保しつつも改革を志向するという姿勢が求められる。

 そこで、副市長公募の代替案含め、経営改革のアプローチの全体像を「(求められる課題の)専門分野が多岐にわたる(多い)/限定的(少ない)」、「(課題対応の)緊急度が高い/低い」の軸で整理した(図表2)。基本的には行政運営の安定性を担保しつつ、庁内の職員を育成し専門性を高めることが理想であり、課題対応の緊急度が高い場合でも求められる専門分野が限定的である場合は、スポット的に外部人材を活用することが考えられる(「守りの経営改革」)。このためには副市長が行政実務経験を有していることが望ましい。複数の専門分野が求められ、かつ課題対応の緊急度が高い場合に副市長公募の選択肢が生まれる(「攻めの経営改革」)。なお、これらは各自治体の状況に応じた検討が必要であり、「攻めの経営改革」には行政運営の安定性を損なうリスクがある点に留意する必要がある。

図表2 副市長を起点とした経営改革アプローチの全体像
【専門分野多・緊急性低】行政経験有の副市長登用&人材育成(内部人材) 【専門分野多・緊急性高】<攻めの経営改革>専門性の高い副市長登用(副市長公募含む)or「組織」への委託(民間シンクタンク等) 【専門分野少・緊急性低】<守りの経営改革>行政経験有の副市長登用&人材育成(内部人材) 【専門分野少・緊急性高】行政経験有の副市長登用&特命ポストの設置(外部人材の登用)
出典:筆者作成

 また、公募の実施有無に限らず、副市長に共通して求められる役割・能力として「政策の推進力」を挙げたい。ここでいう「政策」とは副市長が主導する取組以外も含まれる。副市長はトップマネジメントの補佐役であり、厳密にいえば確固とした自身の所管組織を持たないため、自らが各部局に能動的に関わる姿勢が求められる。そのなかで進んでいない政策があれば適宜介入し、推進(ドライブ)することが求められる。このため、能力として広範な専門性もしくはキャッチアップの速さが必要となる。その上、行政組織の力学を理解し、組織や人間関係にとらわれない部局間の調整が求められる。これらの能力は、民間企業にいたからといって身に付くわけではなく、過去どのようなスタンスで仕事をしてきたかに依存する。

 これらのことから、副市長公募が成功する条件が全て揃うケースは非常に限定的であるといえよう。自治体経営改革の手段として「副市長公募」が適切であり、かつ上記で述べた「政策の推進力」を有する人材を登用できた場合、副市長公募が成功すると筆者は考える。

5 おわりに

 副市長公募は、自治体経営に新たな風を吹き込む可能性を秘めている一方で、成功のハードルは非常に高い。副市長登用が博打とならないよう各プロセスで適切な対応が求められる。加えて、「副市長公募」は複数ある経営改革の手段の1つであることを認識し、他に最適な選択肢がないかを十分に検討することが重要である。

 

〔参考文献〕
・若生幸也「地方自治体における外部人材活用の在り方」『地方財務』2022年1月、ぎょうせい。

・若生幸也「地方自治体における副業・兼業人材活用の在り方」『地方財務』2022年6月、ぎょうせい。

・田村秀『自治体ナンバー2の役割日米英の比較から』2006年、第一法規。

・石川正浩「市町村の外部人材活用副市長公募、副業・兼業国の制度の効果は」『日経グローカル』2021年11月15日、日経産業消費研究所。

 

 

*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

 

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