【特別企画】地域住民との連携で 地域課題の解決を図る

NEW地方自治

2025.01.09

(『月刊ガバナンス』2025年1月号)

【特別企画】
地域住民との連携地域課題の解決を図る ――SDGs未来都市による持続可能な地域づくり

内閣府は、持続可能なまちづくりや地域活性化に向けた取り組みの推進に当たり、SDGsの理念を取り込むことで、政策の全体最適化、地域課題解決の加速化という相乗効果が期待できることから、SDGsを原動力とした地方創生(地方創生SDGs)を推進している。その一環として、2018年度から優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体を「SDGs未来都市」として選定。その中で特に優れた先導的取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定して支援し、成功事例の普及促進を図っている。そこで、自治体SDGsモデル事業に選定された事例の中から、市民対話会や島内高校生によるイノベーションプログラムを実施している長崎県壱岐市と、 市民ファンドで地域課題解決に取り組む市民団体等を支援している富山県南砺市の取り組みを紹介する。

市民のアイデアを市民と共に実現する対話型のまちづくり――長崎県壱岐市

 長崎県壱岐市は2018年6月、内閣府の「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選出された。未来都市計画の中には経済・社会・環境の側面からの様々な取り組みがあるが、中でも特徴的なのが「市民対話会」と「イノベーションプログラム」だ。壱岐市の未来都市計画の概要と、特徴的な2つの取り組みについて、長崎県壱岐市SDGs未来課の中村勇貴さんに取材した。

2015年、市民対話会が始動

 長崎県壱岐市は、九州本土と朝鮮半島の間に浮かぶ離島で、人口は2万4000人弱。近年は少子高齢化による人口減少が著しく、年間400〜500人程度のペースで人口が減り続けている。デジタル社会の到来とともに離島という地理的な条件不利性は一定程度解消されつつあるものの、労働力不足による経済力低下が課題だ。市では市民と課題を共有し、「自分ごと」として主体的にまちづくりに参加してもらうため、㈱富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション㈱)と連携協定を結び、「市民対話会」の仕組みを2015年10月に導入した。

「導入の背景には、行政として〝物言わぬ多数派〞の市民の声を聞きたいという思いがありました。富士ゼロックスが東日本震災の復興支援に活用した対話会の技術があれば、広く市民の声が拾えると考え、ぜひ壱岐市でも使いたいと要請しました」とSDGs未来課係長の中村勇貴さんは話す。

「壱岐なみらい創りプロジェクト」と題した市民対話会を開催し、実際に地域の課題やまちづくりのアイデアを話し合ってみると、参加者から様々な意見が出てきた。遊休施設を有効活用し、テレワークセンターや短期滞在者向けシェアハウスを整備する事業も、市民対話会から生まれたものだ。

中村勇貴さんの顔写真
壱岐市SDGs未来課係長・中村勇貴さん。

2018年度のSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に選定

 2018年度には、「壱岐活き対話型社会『壱岐(粋)なSociety5.0』」をテーマにした提案が評価され、第1回の「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定された。

「壱岐市は一次産業が盛んな町なので、一次産業に重点を置いて未来都市計画を考えました。同時に選定された自治体のほとんどが環境に重点を置く中、壱岐市が経済中心の事業モデルであったことが評価されたのだと思います」と中村さんは語る。

 未来都市計画では、アスパラガスのスマート農業、農水産物の規格外品等の活用、外部人材の活用、再生可能エネルギー導入、市民対話会の実施、イノベーションプログラム、SDGs教育などがある。

 アスパラガスのスマート農業では、気候や土壌の水分量などをデータ化し、畑に水を撒くタイミングや散水量をAI制御するシステムを開発。農家の人手不足を補うとともに生産性向上や新規就農の促進を図るのが目的だ。再生可能エネルギーについては、壱岐市は2019年に国内の自治体初となる気候非常事態宣言」を発出し、2050年までに再生可能エネルギー100%の島をめざす。

「未来都市計画のいずれの事業もその分野の企業とパートナーシップを結んで進めています。島の人口が減ってリソースも限られる中、専門の技術や知見をもつ外部の人たちの力は欠かせません。SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に選定されたことで、色々な企業から『うちと協働しませんか』という問合せが増えました。島外の人や企業とのご縁が広がったことが、一番嬉しいです」と中村さんは笑顔を見せる。

市民のアイデアが次々に実現する仕組み

 2015年にスタートし、未来都市計画にも組み込まれている市民対話会は、すっかり市民の間に定着した。対話会には誰でも参加でき、島内外から毎回50人〜100人が集まる。この場で出てきたアイデアは、グループディスカッションで様々な角度から検討し、良いものは事業化へとステップアップする。

「対話会は富士ゼロックスによるコミュニケーションプログラムに沿って進行しますが、堅苦しさはなく、和やかな雰囲気の中で活発な発言、本音の意見が飛び交います」と中村さん。

 年3回開催だが、今後は回数を増やす案も出ている。会場に行けない人のためにオンラインで参加できるプラットフォームも導入済みだ。

市民対話会の様子
市民対話会の様子。

 もう一つの特徴的な取り組みである「イノベーションプログラム」は、島内高校生による部活動で、SDGsの視点から地域の課題と向き合い、それを解決するアイデアを創造し発表する。夏にはイノベーションサマープログラムを開催し、地元出身の大学生がメンターとなって、未来につながるアイデアを3日間の合宿形式で考える。

 高校生たちが考えたアイデアは市民対話会でプレゼンし、大人が知恵を出したり、企業とのマッチングの可能性を探ったりなどして実現可能なものに練り上げていく。  市民対話会とイノベーションプログラムが組み合わさることで、これまで数々の企画が誕生した。

 高校生が発案した「食べてほしーる」は、消費期限間近の食品にシールを貼り、購入するとポイントがもらえる食品ロス削減の取り組みで、消費者庁長官賞を受賞。

 壱岐が神社の多い島であることに着目し、高校生が神社巡りのルートを考えた「壱岐島四十二社巡り」の観光キャンペーンも組まれた。他にも、空き家を自分たちでDIYし、移住者向け賃貸に再生するなど、高校生目線・市民目線の柔軟でユニークな取り組みばかりだ。

「壱岐島四十二社巡り」のキャンペーン
島内の神社巡りのルート「壱岐島四十二社巡り」のキャンペーン。

食べてほしーるの写真
食品ロス削減の取り組み「食べてほしーる」。

 自分たちでつくる町だからこそ愛着が深まる。さらにコミュニティ促進にも役立つと中村さんは言う。「高校生からは『大人と話すのってこんなに面白いんだ』との声が聞かれます。大人からも『高校生のアイデアに感心する』『若者と話すと元気になる』などの声があり、お互いにいい刺激になっているようです」

 壱岐市の未来都市計画は最終年度の2030年に向けて、ちょうど折り返しにいる。市では企業や大学とのネットワークをさらに広げるため「壱岐市エンゲージメントパートナー制度」を新設した。

「決まった事業のために結ぶパートナーシップ制度とは異なり、これから何か一緒にできるかもしれないという可能性を感じる相手と結ぶのがエンゲージパートナー制度です。行政と企業の関係性だけにとどまらず、市民対話会に招くなどして市民の活動ともマッチングができればと考えています」

 壱岐市のまちづくりは加速度を増していく。

 

エコビレッジ構想を深化させ、持続可能な「一流の田舎」をめざす――富山県南砺市

 人口減少・少子高齢化が進展している富山県南砺市は、地域資源を活用して持続可能な地域をめざす「エコビレッジ構想」と地域住民自ら地域課題を解決する小規模多機能自治を推進。「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定され、中間支援組織の支援センターと市民ファンドで住民自治を支え、エコビレッジの更なる深化を図っている。

エコビレッジ構想を策定

 4町4村の合併で2004年に誕生した南砺市は、面積約669㎢で、人口は現在約4万6000人。市内には、散居村が広がる田園地域から世界遺産の五箇山合掌造り集落のある山間部まで、多彩な日本の原風景と暮らしが息づいている。旧町村の特色を大切にしながら進めてきたまちづくりの転機となったのは、11年に発生した東日本大震災であった。人と人とのつながりや自然との関係性を問い直して真の豊かさを追求するローカルサミットを開催。その後、公募市民や庁内のプロジェクトメンバーによる「エコビレッジ志民会議」を立ち上げ、自然との共生や地域資源の活用と地域内循環、人と人との支え合いによる新しい暮らし方について検討し、13年3月に「エコビレッジ構想」を策定した。

「再生可能エネルギーの利活用や農林業の再生と商工観光業との連携、健康医療・介護福祉の充実と連携、次世代の育成、集落の活性化など六つの基本方針を掲げ、自立した持続可能な地域づくりを開始しました」とエコビレッジ推進課SDGs推進係長の井並幹隆さんは話す。

 エコビレッジ実現に向けては、構想の市民への浸透を図るとともに、モデル地区を設定して森林資源や再生可能エネルギーの活用、循環型農業などを推進して市内への横展開を図った。また、市内高校生に循環型農業や環境美化活動などを体験・実践してもらうエコビレッジ部活動を行って次世代を育成する事業や、木材などバイオマス資源を活用したエネルギーの地産地消と新たな産業の創出にも取り組んでいる。

小規模多機能自治に移行

 自立した持続可能な地域づくりでは、コミュニティの再生と住民自治の再構築に向けて小規模多機能自治に移行した。各地区(全31地区)内でそれぞれ活動していた自治会組織の自治振興会と公民館、地区社会福祉協議会を一本化し、公民館の交流センター化と事務局体制の強化によって住民自治を担う地域づくり協議会を組織し、住民自らが課題解決を図る取り組みだ。

「田中幹夫市長が掲げる市民協働のまちづくりとして進めました。地域課題を住民が自分事として捉え、自分たちで考えて解決する仕組みに転換し、地区ごとに提案された事業に対して住民自治推進交付金を交付して活動してもらう取り組みです。エコビレッジ構想との両輪で持続可能な地域づくりをめざしています」と市民協働部次長兼南砺で暮らしません課長の大浦幸恵さん。19年度に28地区でスタートし、20年度には全31地区で実施していると話す。

 市民や地域の活動支援では、市民や事業者からの寄付・出資や休眠預金制度の活用などで資金を調達して地域活動を資金面で支える市民ファンドとして、19年2月に「一般財団法人南砺幸せ未来基金」(同年12月に公益財団法人化)を設立。また、19年4月に地域づくり協議会や市民団体等と行政をつなぐ中間支援組織として「一般社団法人なんと未来支援センター」を設立し、地域づくり協議会や市民団体等の活動支援や人材の育成指導などを開始した。

「一流の田舎」をめざす

 エコビレッジ構想と小規模多機能自治による地域課題解決の取り組みが評価された南砺市は、19年7月に「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」に選定された。

「市民とともに進めてきた持続可能な地域づくりがSDGs未来都市のめざす方向性と合致していたことから、それまでの取り組みのアドバンテージを活かしてSDGs未来都市に応募。エコビレッジ構想を地域内で横展開し、更なる深化を図って南砺市版地域循環共生圏の実装をめざしました」と井並さんは話す。

井並幹隆さんの写真
南砺市エコビレッジ推進課SDGs推進係長・井並幹隆さん。

 選定を受けて、「SDGs 未来都市計画」と「SDGs未来都市推進実施計画」を策定。30年のあるべき姿として、「自然と共生し、地域資源を最大限に活用した様々な小さな循環が相互に連動し、支え合いながら自立するコミュニティモデル」を確立し、世界にも発信する「南砺版エコビレッジ」(世界につながる一流の田舎)を掲げた。その実現のため、SDGs の側面から①[経済]伝統ある地場産業とコンテンツ産業による地域経済の活性化、②[社会]地域の伝統文化と〝南砺らしさ〞を正しく継承し、全ての人が健康で安心して暮らせる社会の構築、③[環境]豊富な地域資源を最大限活用した循環型社会の形成――を明記。その三側面を土徳文化(自然に感謝し相手を思いやる南砺の精神的風土)と小規模多機能自治、南砺幸せ未来基金を統合的に結んで事業を展開することとした。

中間支援の下で課題解決

 具体的には、なんと未来支援センターと南砺幸せ未来基金による中間支援を受けた地域づくり協議会や活動団体等が、市との協働の下で地域課題の解決に取り組んでいる(参照)。「なんと未来支援センターでは地域づくり協議会の活動の発表会を行っており、地域間の情報の交換・共有や地域課題解決に向けた活動の活性化につなげています」と大浦さん。

図 南砺市の地域課題の解決に向けた住民協働の取り組み

 一方、南砺幸せ未来基金は、企業や市民から寄付を募り、寄付金や休眠預金活用制度を活用して、暮らしや自然・環境、ものづくり、食と農業、子ども・若者、再生可能エネルギー、歴史・文化を支える活動を行う地域づくり協議会や市民活動団体などの取り組みを支援している。

 20年3月〜24年9月現在の寄付金総額は約2974万円(140件)で、助成額は自主事業約727万円(29件)、休眠預金事業約9989万円(8件)となっている。

「プログラムやテーマを設けて公募し、審査の上、助成しています。子どもの居場所づくりや外国人支援、高齢者の移動支援、世代間交流、子育て家庭相談、空き家対策、営農組織の活性化、防災意識の向上など、地域課題の解決に直結する取り組みが活発化。助成団体からは活動推進の原動力となり、地域内の交流が促進されたといった声が上がっています」と井並さんは手応えを話す。

 また、企業・団体・個人を対象に「なんとSDGsパートナー」を募集し、ゴール達成に向けた行動の実践を後押ししている。

 今後に向けて井並さんは、「SDGsパートナーの活動の見える化や南砺幸せ未来基金の成果の発信に努めたい。活動団体や組織同士を有機的につなげ、持続可能な地域づくりへ向けて課題解決活動の相乗効果を高めたいと思います」と話す。その上で、自治体SDGsモデル事業に選定されたことを踏まえ、「全国の自治体も様々な課題に直面していると思いますが、その解決に向けてともにチャレンジし、取り組みのノウハウや成果を共有して、自治体同士の支え合いのネットワークを広げていきたい」と抱負を語っている。

「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」

 内閣府では、地方創生SDGsの達成に向け、2018年度から、経済・社会・環境の三側面の統合的取り組みによる相乗効果、新しい価値の創出を通して、持続可能な開発に取り組む地方自治体を「SDGs未来都市」として選定。その中でも、特に地域における自律的好循環の形成が見込める優れた先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定して支援し、事例の普及を促進している。2024年度においては「SDGs未来都市」24都市、「自治体SDGsモデル事業」10事業を選定。これまで7か年で「SDGs未来都市」206都市、「自治体SDGsモデル事業」70事業を選定している。

詳しくはこちら
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo
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(企画提供/内閣府)

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