議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第82回 現状否定は「暴挙」なのか?
地方自治
2023.09.14
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年1月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
■理論なき実践は暴挙
2022年11月に大阪で開催された主に議員向けのシンポジウム(注1)で、私も今年度末で定年退職することもあり、「現役卒業報告」の趣旨で講演の機会をいただいた。
(注1)ローカルマニフェスト推進連盟・関西勉強会「ごっつい取り組みと成果を学ぶ」。
具体的には、憲法や地方自治法が予定していると解釈できる議会運営と現実のズレを例示して、立法趣旨に則った議会運営に転換する必要性と、その方向性について提案したものである。
北川正恭・早稲田大学名誉教授は講評で、「実践なき理論は空虚であり、理論なき実践は暴挙である」(注2)との格言を引用して、「理屈は後で行動が先」と指摘しつつ、「清水理論は暴挙だが、多少、暴挙でも行け。これぐらいの迫力でないと世の中は変わらない」とも評された。
(注2)イマヌエル・カント「純粋理性批判」を原典とした、ピーター・ドラッカーの格言。
■学生による議会活動評価
「大津市議会ミッションロードマップ」は、「政策立案」と「議会改革」に関する課題を、通任期の行程表に落とし込んだ議会活動の実行計画である。同時に、大津市議会とパートナーシップ協定を締結している3大学(注3)の有識者による外部評価を議員任期の最終年度に組み込んだ、独自の議会活動評価制度でもある。評価から抽出された課題を次任期へと引き継ぎ、新たなミッションロードマップ策定の指針とすることによって、議会活動評価を政策サイクルとリンクさせている(注4)。
(注3)龍谷大学、立命館大学、同志社大学を指す。
(注4) 詳細は、清水克士「『未来を語る議会』であるために~『大津市議会ミッションロードマップ』の目指すもの~」(地方議会人2016年9月号)を参照。
今回の外部評価では新たな試みとして、有識者だけでなく一般市民としての学生からも評価を受けることになり、今里佳奈子・龍谷大学政策学部長のゼミ学生に、議会活動の外部評価を依頼した。
学生には評価に必要となる基礎知識を講義済みであったが、最終講義の依頼を今里教授から受けたので、前述した勉強会での話を聴いてもらうことにした。学生に、「暴挙」と評された話をするのは混乱させるかとも思ったが、議論では何を前提とするかによって、結論が異なってくる。既習の講義でインプットされた「議会の常識」が正しいことを前提に評価してもらうよりも、その常識自体が市民目線から見て妥当なのか、「現状の議会活動の否定」をも視野に入れたゼロベースでの評価を期待したのである。
講義は対面で行い、リアルな反応も見ながらではあったが、正直、どのように受け取られたかはわからない。だが、「昨日、本当に同じ話を議員の前でもしたのか?」との質問からは、議会のタブーに踏み込んだレベルの話だとは理解してくれたようだ。一方、「評価はストレートに表現して良いのか?」との質問からは、「大人の評価」を意識していたことが窺えたが、厳しい評価こそが次に繋がるのであり、甘い評価など何の役にも立たない。少なくともそのような忖度を払しょくできたところに、意義は感じられた。
当日は「大津市議会広報広聴ビジョン・アクションプラン」の説明も行い、学生からは新たな広報ツールとして大津市議会LINE公式アカウントのプロトタイプの提案説明を受けた。今後の展開としては、評価結果と学生から提案のあった公式アカウントに関して、議員との意見交換の場を予定している。
そして、庁内の廊下で見知らぬ職員にも、礼儀正しく挨拶する学生の姿を見て、そんな純真さをとっくに失くしてしまった我が身を恥じながらも、今は「暴挙」の視点での学生からの評価を楽しみにしている。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第83回 議会局による「補佐の射程」はどこまでか? は2023年10月19日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。