議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第76回 「議会人」としての矜持とは何か?
地方自治
2023.03.09
本記事は、月刊『ガバナンス』2022年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
5月に早稲田大学で開催された「全国地方議会サミット2022」(注1)で、「なぜオンラインが必要なのか」とのテーマでの報告依頼を受け登壇した。
注1 ローカル・マニフェスト推進連盟・マニフェスト大賞実行委員会主催、早稲田大学マニフェスト研究所共催、全国市議会議長会・全国町村議会議長会後援。
プログラム上は、大津市議会でのオンライン議会実現へ向けての具体的取り組みを話すところに期待されていたようだが、既に何回か同様のシンポジウムで話してきたこともあり、今回はオンライン議会を一般化するにあたっての課題に焦点を絞って話した。
今号では、その時の話に補足して思うところを述べたい。
■専決処分と議員の矜持の相関性
課題の本質は、コロナ禍でオンライン議会導入の必要性を感じて実用化した議会は、全国的には圧倒的に少数だという現実に象徴される。国は現行自治法でも委員会までならオンライン開催可能との見解を示しているが、実践に必要となる例規整備を済ませた地方議会は135議会で、全国1788地方議会の7.55%。実際にオンライン委員会を開催した地方議会は35議会に過ぎず、全体のわずか1.96%に止まる。(注2)
注2 2022年1月1日現在、総務省調査。
コロナ禍という現実の脅威に直面しながら、「どうしてオンライン議会実現のために行動しないのか?」と、何人かの他議会の議員に聞いてみた。答えは「議会が開けないことなど、めったに起きることではないので、その時は専決処分してもらえばよい」といった主旨のものが多かった。
だが、二元的代表制は憲法93条に根拠を置くが、そこには「平時」だけのものとは規定されていない。したがって、首長は当然のこととして、非常時においても執行責任を果たそうとする一方で、非常時に議会にできることなどないとの意識が従前は確かにあった。しかし、今では「議会BCP」(注3)を策定するなどして、常に議会の権能を果たそうとする意識が、全国で定着したものと思っていた。
注3 議会の業務継続計画。地方議会では大津市議会が全国で初めて策定した。
そのためコロナ禍が収束しない状況下で、最も効果的な対策と思われるオンライン議会実用化の動向が、全国の地方議会でこれほど鈍かったのは正直意外だった。
また、議員のなり手問題などの解決策としても、介護、出産、育児などの事情を抱える議員が、議員の権利を行使することを容易にするオンライン議会は、大きなプレゼンスを示すことができるだろう。
ここにおいて顕在化するのは、手法の是非の議論ではなく、いかなる状況においても議会の構成員として、その権能発揮にこだわる「議員の矜持」の問題だということである。
■局職員は「議会人」ではないのか
さらに、オンライン議会の一般化にあたっては、もうひとつ大きな課題がある。それは、実務を担う局職員の意識である。
ただでさえ議事運営の実務は先例主義が幅を利かせており、先例のないオンライン議会は、リスキーかつ当面の業務量増大も避けられない。そのため「事務局が後ろ向きで議会のDX化が進まない」といった嘆きもよく聞かされる。
確かに議会の構成員は議員だけだが、局職員も傍観して許される立場ではなかろう。議会によって、議決機関として常に権能発揮するために、オンライン議会を実現しようとする熱意に差があるのは、局職員にも議会の責務を全うしようとする、「議会人」としての矜持を持ち合わせているか否かの違いもあるのではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第77回 立法趣旨に適う課題解決の方向性とは? は2023年4月6日(木)公開予定です。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。