議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第77回 立法趣旨に適う課題解決の方向性とは?

地方自治

2023.04.06

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年8月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 先日「請願」に関するグループディスカッションに、コメンテーターとして参加する機会(注1)があり、今号では、その議論の中で感じたところを記したい。

注1 「輝け議会!地方議会活性化フォーラム」主催の定例勉強会。

■「請願」と「陳情」の違い

 「請願」とは、憲法16条で国民の重要な権利として定められ、地方議会においては地方自治法124条の定めによって、議員の紹介により請願書として提出されるものである。議会には法的に受理義務や誠実な処理義務が生じ、一般議案と同様に本会議で採決される。

 一方、「陳情」には法的根拠がなく、住民が議会に要望する事実上の行為とされる。そのため、「請願」と同様に実質審議される議会から、議員への配布にとどめる議会まで、その対応は千差万別である。

■議論における違和感

 各グループでの議論を聴いて、違和感を覚えたのは、多数の陳情を実質審議している議会ほど、請願形式を重視しない傾向がうかがえたことだ。それは、請願形式を採ると内容にかかわらず、紹介議員の属性によって賛否が決められてしまうからだという。事実、同様の理由で請願提出が敬遠され、陳情審査に偏重する議会は、少なくないようだ。

 住民にとっても請願の紹介議員要件は、提出のハードルを高めるため、その観点からも実質審議に付さるのであれば、どちらでも良いと思われがちである。

 しかし、私の違和感の根源は、陳情で良いとする理由が、住民視点での理由というよりも、議会内部での会派事情が優先されているところにある。確かに、請願内容以外で採択結果が変わる実態は好ましくないが、住民には無関係な理由で、憲法に定める権利行使ではなく、事実上の行為に誘導されてしまうことのほうが問題だと感じたのである。

■「請願」にこだわる理由

 片山善博・大正大学教授は著書(注2)の中で、住民視点から「憲法では『何人も』請願する権利を有するとしているのに、事実上そこから締め出される人がいるとしたら、その制度は憲法違反」だとする。「陳情」で良いのではないかとの考えに対しては、「請願」同様に扱われる法的根拠に欠けるため「憲法14条にある法の下の平等に悖るから、やはり憲法違反の誹りを免れない」とし、「請願」であるべきとの考えを示している。

注2 片山善博『片山善博の自治体自立塾』日本経済新聞出版社。

 そして「本来なら地方自治法を改正して紹介議員要件をなくすのが筋」としながらも、当面は「医師会の当番医や国選弁護人を引き受ける弁護士」のように、議員も当番制を敷いて紹介議員要件を事実上解除することを提案している。

 提案自体は賛否両論かもしれないが、可能な限り「陳情」でなく「請願」で受理すべきとの考えには、筆者も同感である。

■立法趣旨に適う議会活動を

 執行機関が法定制度の適用を安易に断念し、独自制度の運用にばかり注力したなら、議会は問題視するのではないだろうか。しかし、地方議会では、議案審議よりも法定外の一般質問が本会議の中心となっていたり、議案審議に関する法定公聴会は活用されず、法定外の議会報告会が議会広聴の本質であるかのような考えが定着している(注3)。

注3  詳細は、清水克士「議会報告会が住民参加の『本丸』なのか?」(ガバナンス2018年2月号)、「議会の『常識』は真理なのか?」(北海道自治研究2018年2月№589)参照。

 だが、法治国家における議事機関としては、法定制度の運用を第一義に考えるべきであり、法定外制度はあくまで次善の策と認識したうえで、活用すべきではないだろうか。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第78回 議会は「唯我独尊」でいいのか? は2023年5月18日(木)公開予定です。

 

 

早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

「議会事務局に配属になった!何をするんだろう?」そんな疑問に答える1冊!!

オススメ!

自治体の仕事シリーズ 議会事務局のシゴト

2017年7月 発売

本書のご購入はコチラ

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

清水 克士

清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

閉じる