議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第23回 議会報告会が住民参加の「本丸」なのか?

地方自治

2020.09.03

議会局「軍師」論のススメ
第23回 議会報告会が住民参加の「本丸」なのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2018年2月号

*写真は大津市議会局提供。

 昨年11月、第12回マニフェスト大賞(早稲田大学マニフェスト研究所等共催)の優秀賞テーマについてのプレゼン研修会で、登壇の機会を得た。質疑応答では受賞テーマとの関連はなかったが、コメンテーターの中尾修・元北海道栗山町議会事務局長から、議会報告会(意見交換会)に対する私見を問われた。それは、私の論考が、議会報告会に対して否定的と感じてのことであった。

■議会への住民参加の正統性

 私は議会報告会の効用を全否定しているわけではない。住民から遠い存在としか認識されていない議会が、自らアウトリーチ的手法で議会への住民参加を実現しようとすること自体は、大いに意義あることだと思っている。疑問に感じるのは、多くの議会で、議会報告会が議会への住民参加の到達点であると認識されていることである。そして公聴会等の法定制度の活用を最初から考えず、独自制度にばかり傾注する違和感もあるが、議会の本質からもズレていると感じるからだ。

 議事機関の中核的活動は議案審議であり、その場で実現されることが本来の姿ではないのか。本質的な住民参加を実現するまでの経過措置が、目的化しているところに違和感を覚えるのである。

 議会は執行機関と比して、多数の市民の代表で構成されることもあり、より多くの住民意見の反映が期待される立場にある。住民意見の聴取自体が目的ではなく、それを議会が活かしてこその議会報告会だと思うが、その場で聞く住民ニーズの全体最適性や優先順位は必ずしも高くはない。もちろん、やらないよりやるほうが良いが、議会報告会を頻繁に開き、多数の参加者がある議会においても、全人口に対する参加者比率は1%にも満たない。もとより住民の最大公約数的意見を集約する場としては無理があり、議会の政策サイクルの起点とするには、普遍性に欠けるのではないだろうか。

 やはり、重要な行政課題であるからこそ議案として議会に諮られているのであり、議事機関への住民参加の到達点は、議案審議にこそあると考えている。そして、大津市議会でも法定公聴会の実用化へ向けて議会局内で検討を始めたが、実務的課題も多く、導入は必ずしも容易ではないのも事実である。

■法定外(模擬)公聴会の可能性

 あくまで法定公聴会が目標だが次善の策として注目しているのは、長崎県小値賀(おぢか)町議会の模擬公聴会である。これは、本会議休憩中に一般質問に関する意見を傍聴人に求めるというものである。これなら法定されている対象事項や公示手続き等の縛りがなく、自由度は大きい。難点は休憩中に行っているため公式会議録に発言が残らないことと、議案審議に対して行われていないことだ。

 だが、住民参加のあり方としては、会期日程内に議場で行う点から、会期日程外に議会外で行われる議会報告会よりも、はるかに議事機関の本質に適うものであり、発展可能性を感じている。

■中尾氏との約束

 中尾氏との議論は、研修会後の懇親会でも続いた。最後に中尾氏からは「議会報告会に対する考えは違っていても、議会への住民参加の必要性は感じているのだから、その前提を端折らずに伝えてほしい。そうでなければ何もしなくてもいいと勘違いする議会が、必ず現れるから」と言われた。もちろん、それについては同感である。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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