自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[27]熊本地震から2年──益城町による対応の検証報告書(中)「災害対策本部、受援、業務継続」

地方自治

2020.09.02

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[27]熊本地震から2年──益城町による対応の検証報告書(中)「災害対策本部、受援、業務継続」

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2018年6月号) 

 前号に続き、98%を超える住家が被害を受け、住民の約半数が避難した熊本県益城町の対応検証報告書から、重要なポイントを紹介する。

災害対策本部の運営

 町災害対策本部は、庁舎そのものが被災し、狭い代替施設に本部を設置せざるを得なかった。報告書では課題と改善の方向性を挙げているので、一部を抜粋する。

①課題

・すべての判断が災害対策本部長(町長)に集中するなど、災害対策本部機能が麻痺し、統括・指揮できず、庁内部署間や外機関との調整、情報分析ができなかった。

・本部会議が、各部署からの活動実施状況報告が中心となり、全庁的な意思決定の場として十分に機能せず、検討課題については提起されても決定できなかった。

・災害対策本部での決定事項が町職員や応援職員に浸透していなかった。

・災害対策本部での業務決定事項について、業務進捗状況が把握できなかった。

②改善の方向性

・課長級の職員を災害対策本部に常駐させるなど町長を補佐する幹部職員(副町長等)が必要である。

・本部会議を、全庁的な状況認識の共有や意思決定の場として位置づけることが必要である。

・担当部署が関係部署と綿密な事前調整を行い、本部会議において協議し、決定する制度構築が必要である。

・本部会議において実施を決定した業務及び未決事項について、進捗状況管理を報告する機能を整備することが必要である。

・各対策部において、中長期的な活動目標や対応計画の概要を策定し周知させることが必要である。

・災害対策本部員(課長等)が決定事項を確実に部下職員に周知することが必要である。

 災害時はトップダウンと言われるが、その前提には参謀役が情報整理、分析、代替案の比較等を行って、ある程度良い案ができていなければならない。それができれば、通常の手続きを略してトップダウンで迅速に進めるのが効果的だ。災害時は意思決定、実施ともにスピードが非常に重要だからだ。

 しかし、いくら迅速が良いと言っても、人命がかかっている重要事項について、情報不足、分析不足のまま、トップダウンで意思決定をするのは危険である。短時間ではあっても「担当部署が関係部署と綿密な事前調整を行い、本部会議において協議し、決定する」ことが必要である。

 また、災害対策本部の決定事項を迅速に職員に伝えるには、現時点では関係者によるLINEグループを作るのが効果的だ。簡単に構築できること、一斉に送信できること、記録が残ること、などから情報伝達、共有、引継ぎに極めて有効であった。

受援体制の整備

 警察・消防・自衛隊など防災関係機関はもとより、全国の自治体から大勢の支援者が押し寄せたが、その受入調整、業務調整は難航した。受援について、報告書から抜粋する。

①課題

・応援要請計画及び受援計画が未整備であり、場当たり的な応援要請や各方面からのプッシュ型支援に対し、計画的人員配置ができなかった。

・専門的知見を有した職員を適した部署に配置できなかった。

②改善の方向性

・効果的な支援を受けられるよう応援要請計画及び受援計画を策定することが必要である。

・応援要請・受援担当者を災害対策本部に配置することが必要である。

・総合的な応援機関との調整(応援申し出の最初の窓口、活動スペース・宿泊場所などの全庁的な配分)や、庁内部署間の資源配置の適正化などを行うことが必要である。

・応援を受ける各部署においても、応援機関との調整窓口となる受援担当者(当該業務に係る資機材の提供、職員ローテーションの管理など)を明確に位置付けることが必要である。

・応援職員の受入れについては、次の4種別に整理して、応援要請や受援を行うことにより、人数や職位・スキル等の適正配置を行うことが必要である。

ア)各対策部の現場作業での人的資源
 罹災証明発行事務、被害認定調査、避難所運営、保健師巡回など現場において活動する応援職員であり、量的な確保を計画的に行う必要がある。

イ)各対策部のスタッフ業務の人的資源
 現場業務をマネジメントする町職員を補佐する応援職員であり、被災自治体での経験・知識を有する応援職員の派遣を依頼することが有効である。

ウ)本部事務局でのスタッフ業務の人的資源
 本部事務局における全庁的なマネジメントを補佐する応援職員であり、県職員や他市町村の防災部署職員などに依頼することが有効である。また、これらの応援職員は、町の本部室担当職員と同じ執務スペースで業務を行うことが効率的である。

エ)本部長の補佐
 町長を補佐する応援職員であり、県幹部級職員や被災経験のある他市町村の防災部課長などに依頼することが有効である。

 私も現場にいたが、受援については、非常に混乱していた。その経験を踏まえ、非常に貴重で具体的な解決の方向性が示されている。受援計画作成、受援担当職員の配置、応援職員の人数や職位・スキル等の適正配置など、全く同感である。

 総務省の災害マネジメント総括支援員制度は、上記ウ)、エ)を担える都道府県及び政令市職員1名の登録と養成を行い、ア)、イ)を自治体間の対口支援で担うことを想定したものと思われる。しかし、実務を担うイ)ウ)については、被災経験や知識のアップデート化などによる高度なスキルと、状況に応じて柔軟に対応できる人間性が必要であり、また数を増やすことも重要である。そこで、都道府県・政令市各1名に加え、スキルと意欲のある人材を幅広く登録して、訓練することが重要だと考える。

業務継続のための環境整備

 避難所に多くの職員が割かれたことから、他業務では圧倒的な職員不足に陥った。そのため、業務継続計画の重要性を取り上げている。

①課題

・事業継続計画が策定されておらず、場当たり的に代替庁舎や災害時優先業務を決定したため通常業務が停滞した。

・発災当初、避難所に災害対策本部を設置せざるを得なかったため混乱した。

・PTや対策班と所管課との間で所属職員の取り合いとなった。

②改善の方向性

・事業継続計画を策定することが必要である。

・代替施設の運用計画(災害対策本部と通常業務の区別等)を整備することが必要である。

・住民に対する広報・情報伝達手段(今回は臨時災害FM等)を確保することが必要である。

・新規に必要となる業務を担当する部署の迅速な決定及び部署間における業務負荷の平準化が必要である。

・備蓄物資配送については町職員が実施せず、備蓄物資の保管を委託している協定企業に対し、輸配送まで委託を行うことが必要である。

 災害が必ず発生するならば、自治体は地域防災計画に定める災害対応のみならず、通常業務をどの程度まで絞り込むのか、継続的に災害対応と通常業務を行う体制をどのようにするのかという業務継続計画は不可欠である。災害発生時には、人員不足になり、災害対応業務と通常業務の間で人の取り合いになることは自明であり、できるだけ事前に調整して、その混乱を避けることが望ましい。業務継続計画の大まかな職員配分は、通常業務は人命に関わる業務を中心に3割程度まで絞り込み、残りの人員を当初の混乱期の災害対応に充てるイメージになる。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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