自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[47]改めて住宅耐震化の推進を──阪神・淡路大震災25年

NEW地方自治

2021.01.06

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[47]改めて住宅耐震化の推進を──阪神・淡路大震災25年

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2020年2

住宅耐震化の意義

 阪神・淡路大震災が発生してから1月17日で25年になった。多くの課題と辛い教訓を残した都市災害であるが、その最大の教訓は住宅耐震化の重要性に尽きる。

 地震直後に24万棟の建物が全半壊し、兵庫県内で地震直後に建物等の直接被害によって命を落とした5483人のうち4404人(80.32%)は建物や家具による圧死・窒息死・ショック死だ。これに建物等の下敷きになって動けずに焼死した403人(7.35%)を加えると87.65%に上る。防災の目的は第1に人命を守ることにあり、地震防災においては住宅耐震化に全力を挙げなくてはならない。

 しかし、その重要性は知られているだろうか。私はかつて首都圏のアパートに住む大学生400人にアンケートをしたが、アパートを選ぶ基準に耐震性を挙げた学生は一人もいなかった。大学で防災の授業をしているが、1981年6月以前の住宅は旧耐震基準であり、耐震性が極めて低いことを知っている学生はこれまで皆無である。

 小中高校で多種多様な防災教育が行われているが、いったい建築物の耐震基準と重要性はどの教科でどのように教えられているのだろうか。

 住宅耐震化は、住んでいる人の命を守るだけでなく、道路閉塞を防ぎ、火災発生の確率を下げる。実際に、阪神・淡路大震災で建物全壊率が約25%に及んだ長田区、灘区では直後出火率(午前7時までの10万世帯あたり出火件数)は25件を超えているのに対し、建物全壊率が5%を切る西区、北区、垂水区、尼崎市の直後出火率は著しく低い。

 今後、発生が危惧される南海トラフ地震、首都直下地震対策で最優先すべきは、住宅など建物の耐震化だ。

持ち家耐震化の対策と効果

 持ち家の耐震化については、本誌19年10月号で紹介した高知県黒潮町の事例が非常に参考になる。最も重要なポイントは、住宅オーナーの自己負担がほとんどないことだ。工事費補助の上限が110万円なので、黒潮町のどの大工も、補助金内での工事を目指している。その金額に収まるように安価な工法の引き出しを多く持ち、相手の身になった設計ができるように、1件最低30万円の設計者への報酬が確保されている。

 内閣府の東海、東南海・南海地震防災戦略(2005年3月)の試算では、住宅耐震化等により、多くの人命が守られるほか、経済被害の7割が軽減されるとされている。東京・神奈川・千葉には約190万戸の古い木造住宅(2013年住宅・土地統計調査)があり、これに黒潮町と同様に140万円ずつ使って耐震化を行うと2兆7000億円となる。一方、首都直下地震の経済被害は100兆円とも言われている。ざっくりと計算すれば、2兆7000億円の投資で多くの人命と70兆円(100兆円の7割)の損失を防げる。

賃貸住宅耐震化の対策──耐震性表示

 賃貸住宅の耐震化促進について考える。熊本地震でも、近年に改築したアパートの倒壊で東海大学の学生が命を落とした。

 阪神・淡路大震災でも、多くの学生がアパートの倒壊で亡くなっているが、その教訓が生きていない。悔しくてならない。

 現行制度は、旧耐震基準の1981年6月より前に建築確認を受けた物件については、耐震診断をした場合には、その結果を重要事項説明書に明記することが、2006年から義務づけられている。ただ、耐震診断を受けなければ、耐震性の有無を明らかにする必要はない。

 このため、現在の重要事項説明の制度では、古い賃貸物件を耐震化するためのインセンティブがまったく働かず、逆に、耐震診断をしないという方向に事態が進んでしまっている。熊本地震で倒壊したアパートは、不動産広告で改築後5年及び7年と表示されていたが、改築の際に耐震補強をしなかったのではないか。いずれにせよ、危ない物件ほど耐震診断をしない恐れがあるという現在の制度は早く変えなければならない。

 こうした状況を変えるためには、耐震診断をしていない木造賃貸物件については、建築確認を取った時期に応じて3段階の表示を義務づけるべきだ。震度7を2度も観測した益城町では、新耐震基準が取り入れられた1981年6月以降の物件でも、倒壊が相次いでいる。特に、阪神・淡路大震災後に、柱と梁の接合部分を金属の補強材で止めることなどが義務づけられた2000年6月より前の物件の被害が目立った。

 そこで、次のような表示を重要事項説明、できれば広告に義務付けることを提案する。

①建築確認が1981年6月より前の物件=「耐震性は極めて弱いと推定される」
②建築確認が1981年6月以降、2000年6月より前の物件=「耐震性は不明である」
③建築確認が2000年6月以降の物件=「耐震性があると推定される」

 「耐震性が極めて弱い」や「耐震性が不明」となる物件のオーナーは、この制度ができるとどのように対応するであろうか。この表示のあるアパートに住む人は少なくなるだろうから、空室が増える。オーナーは耐震補強または建替えによって耐震化を進めるか、あるいは資力のある人に売却するかのいずれかを選ぶ。新たな買い手は、そのままでは借り手がいないことから、いずれにせよ耐震化するであろう。このように、賃貸住宅の耐震性を公表するだけで、公的経費を使うことなく民間の力で耐震化が進んでいくことが期待できる。

 私たちは、阪神・淡路大震災25年を機に、建物がいかに人命を守るために重要か、肝に銘じなければならない。人類最古の成文法であるハンムラビ法典には、重い瑕疵担保責任制度の原型が定められている。「建築工事が堅固でなくて、家が倒壊し、その持主を死に至らしめた場合は、その建築家を死刑に処する」「同じく、その家の持主の息子を死に至らしめた場合は、その建築家の息子を死刑に処する」と。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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