仕事がうまく回り出す!公務員の突破力
【仕事がうまく回り出す!公務員の突破力】住民のクレーム、職員の「面倒くさい」が端緒
地方自治
2021.01.05
仕事がうまく回り出す!公務員の突破力
【新刊紹介】スーパー公務員でなくても大丈夫! 誰でもムリなく現状突破できるスキルが身につく!
(『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』安部浩成/著)
(株)ぎょうせいは令和2年12月、『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(安部浩成/著)を刊行しました。「仕事に行き詰まった…」「現状を変えたい…」など、職場環境にある問題にかぎらず、税収や人口減といった社会情勢など、さまざまな要因が重なって、いまひとつ現状を打開できないという感覚に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。そこで求められる「公務員の突破力」について、理論となる考え方や具体的な進め方も含めてわかりやすく解説した1冊です。ここでは、Chapter3:制度・政策のカベを乗り越える「突破力」より「住民のクレーム、職員の『面倒くさい』が端緒」を掲載します。ぜひ業務のご参考にしていただけますと幸いです。(編集部)
住民のクレームが突破の端緒
民間企業において、住民のクレームが新たな商品開発の端緒となった事例は枚挙にいとまがない。視覚障害者からの意見を踏まえ、ボディソープとシャンプーの容器に異なる突起印を付けた事例は有名である。ハードクレームは別として、公務においても同様のことが言える。
振り返ると、私が初めて改善に取り組んだのは、新規採用で配属された税務課でのことであった。当時の税務課には、市民税の賦課、固定資産税(土地)の賦課、同(家屋)の賦課、全ての市税の納税、各種市税証明書の発行という種類の事務を担当する五つの係があり、私は市民税の賦課を行う市民税係に配属された。市民税係は、来庁した市民から見て最も目につく場所に配置されており、新規採用の私は来庁者があると、課税事務の手を止めて(=それまで積み重ねてきた思考を中断して)自席を立ち、カウンターに出ることが多かった。
しかし、用件を聞くと、「市民税の課税証明書(所得証明書)を取りに来た」という方が多かった。これは、各種市税証明書を発行する管理係の仕事であり、違うカウンターとなる。もちろん丁寧に管理係のカウンターへ案内しているつもりなのだが、中には小言も出る。そして気づいたのである、これは構造的な課題であると。
来庁者の目につく市民税係のカウンターには、「24番 市民税」という看板がかかっていた。年に1回来庁する機会があるかどうかという市民からすれば、市民税に関することであれば全てこの窓口だと思うのは必定である。そこで、係長に、この看板の下に「証明書は21番カウンターへ」という注意書きを貼りたいと提案したところ、係長はこれを認めてくれた。当時はパソコンどころかワープロも一般化していなかったので、ボール紙に私が手書きした注意書きである。
これにて一件落着と思っていたが、もう一手間が必要だった。社会人になって間もない私は、当時、根回しということを知らなかった。そこで、係長は、「誤って市民税係へ来る来庁者がどれだけ多いか」を管理係長へ説明し、根回ししてくれた。管理係としても、たらいまわしの印象を持った状態でカウンターに来る市民が減ることとなるため、理解を示してくれた。
これは、住民のクレーム(+自分の「面倒くさい」)が突破の端緒となった例である。
職員の「面倒くさい」が突破の端緒
次に、職員の「面倒くさい」が突破の端緒となった例は、私自身が係長になったときのエピソードである。
福祉関係の係長に着任して間もなくのころ、隣席の職員が、
「今年度は、民間事業所に対する監査を平年の数倍行わなければならないので大変です」とこぼした。そこで、
「それは大変だね。ところで、監査する事業所数が今年度多い理由は何?」
と尋ねたところ、答えは、
「この監査は3年ごとに実施していますが、国がこの福祉制度を開始した初年度に登録した事業者が多いため、その年度を起点とする3年ごとに大量の監査が発生するんです。逆に言えば、合間の2年間の監査件数は少なくなっています」
ということであった。その係は残業が常態化し、庁内でも「不夜城」と呼ばれていた。これ以上、職員に負荷を掛けたくないと思って着任した私は、年度当初に、各自年間一つ(以上)の改革・改善を行うよう奨励していた。そこで、
「それは大変だね。ところで、監査を3年ごとに行う根拠は何?」
と尋ねたところ、
「前任者からそのように引き継いでいます」
が答えであった。不夜城と呼ばれる職場で目の前の仕事に忙殺されるあまり、根拠規定を確認することもなく盲目的に仕事を「片付けていた」のである。そこで、出した指示は、次のとおりだ。
「監査頻度に関する法的根拠を調べてみよう」
予想のとおり、その結果は、国からの「3年ごとに行う」という通知であった。通知であれば技術的助言に過ぎず、それに拘束される必要はない。通知に盲従して業務を行うことは往々にして起こることであり、このようなとき、管理監督的な立場にある者は、地方分権改革の意義を説く必要がある。
これで3年ごとの縛りは緩んだ。それでも、クリアしておくべき課題が二つあった。1点目は、仮に市の判断で監査の間隔をあけたときに、不適正処理が増加するようでは本末転倒であり、そのようなおそれがあるのであれば、たとえ面倒だとしても続けなければならない。そこで職員に、
「これまでの監査結果はどのようになってる?」
と尋ねると、
「制度がスタートしてから既に一定期間が経過したので事業者側も習熟してきたようで、最近は不適正処理もあまり見られません」
ということであった。
突破力の芽生え
課題の2点目は、この事務は法定受託事務であるため、市の事務執行に対する国の監査が入るのであるが、その際に、通知と異なる運用をしていることに対して国からの指摘が入る可能性であった。そこで、近隣自治体に、民間事業所監査の実施頻度を聞き取ってもらったところ、3年どころか「5年ごと」というところもあったりとまちまちであり、しかも、そのような任意の運用に対して、国の監査で指摘を受けたことはないとのことであった。
これで条件は整った。そこで、年度ごとの監査件数を平準化させることとした。それも、これまでの監査結果を踏まえ、問題のない事業所には5年ごと、悪質な事業所は重点化し、毎年度監査に入ることとした。福祉事業者の中には、全国展開をしている大手の事業者から、他業種から見よう見まねで進出してきた零細事業者まで存在するが、特に大手事業者の場合、ノウハウが蓄積されているだけでなく、一つの事業所で不祥事を起こすと全国の事業所に類が及ぶため、行政が目を光らせていなくとも自浄機能が働いていたのである。
この効果・効率的な監査を実施するための監査実施年度の見直しは、民間事業者を集めて、よくある不適正処理事例の紹介とともに説明した。このことにより、行政としては、ミスを発見してから指摘するよりも、ミスが起こることを事前に抑制することが可能になった。しかし、それにとどまらず、事業者側にとっても、適正処理を行っていれば負担の大きい監査が回避できるというインセンティブが働くため、好意的に受け止められた。一方で、悪質事業者への監査に注力することができるようになったため、徹底的な指導を行うことができた。
一連の見直し後、その職員は、
「私は、仕事とは、前任者から引き継いだことをそのままやるものと思ってきましたが、変えることができるんですね」
と述べた。
面倒くさい仕事を改善できるのであれば、人は能動的に動こうとするものである。ここにボトムアップで制度・政策のカベを乗り越える突破力が芽生える。上司は、突破力の芽生えを見落としてはならない、ましてや踏みつぶしてはならない。
突破の成功体験を与え、人口減少時代の行政運営をゆだねることのできる職員を育成していくのである。