政策トレンドをよむ 第1回 超高齢社会に挑むコミュニティ政策 ― 近年の動向と重要ポイント

地方自治

2023.05.12

目次

    ※2023年3月時点の内容です。
    政策トレンドをよむ 第1回 超高齢社会に挑むコミュニティ政策 ― 近年の動向と重要ポイント
    EY新日本有限責任監査法人CCaSS事業部 北海道大学公共政策学研究センター研究員
    森川岳大
    「地方財務」2023年4月号

     グローバル化や情報通信革命の進展により、社会は複雑化・高度化の一途をたどっている。新型コロナウイルスの流行など、既存の社会システムでは対応しきれない新たなリスクに直面する中で、重要な政策課題を見極め、地域としての方向性を見出し、限られた資源で実効性のある施策を打ち出すことの重要性が年々高まっている。

     本連載では、政治や行政、民間企業を問わず、近年社会的な注目を集めているテーマを中心に、最新の政策動向や自治体の先進事例に関する情報をコンパクトに、分かりやすく提供することを目的としている。第1回の本稿では、少子高齢化の進展やコロナ禍により大きな社会課題としてクローズアップされる高齢者の社会的孤立の防止や介護予防の視点から、最新のコミュニティ政策の動向と重要なポイントを概略的に紹介する。

     元英国首相のマーガレット・サッチャーが「社会など存在しない。この世には個々の男と女、そして家族が存在するだけである」と発言したのは1987年である。この有名な言説は小さな政府による個人の選択と自己責任の強調や、福祉国家としての社会の後景化を表現するものとして広く流布した。近代化・産業化により、世界各国で地縁・血縁等の伝統的な関係性からの解放や、人生の選択の自由、自分らしく生きるという価値観が拡大しつつある。その一方で、社会の機械化(システム化)による国家と個人の中間集団の希薄化に伴い、集合化・複雑化したリスクに対する個人での対応の限界も明らかとなってきた。

     日本でコミュニティ政策論が活発化したきっかけとして頻繁に紹介される文献の1つに1969年に経済企画庁から出された「コミュニティ―生活の場における人間性の回復―」という報告書がある。この報告書では、コミュニティの理論的な概念や、伝統的な地域共同体の弱体化に関する問題の提示に加えて、生活の場における新たなコミュニティ形成の必要性が示された。その後、1970年代から自立した個人を基礎とした新たな社会関係の構築とコミュニティ創造を目指すコミュニティ政策が登場し、今日に至るまで様々な形に変えながらも国や自治体において各種事業が実施されている。

     福祉の領域では1980年代に地域包括ケアシステムの概念が登場し、2025年をめどに市区町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づいて本システムを構築することが求められている。社会参加による介護予防や、高齢者自らが地域の活動の担い手となることを目指した介護保険法に基づく各種事業等、地域コミュニティに関する様々な取組が各地で行われるようになった。

     近年の政策的な転換点の1つとして、2014年の介護保険法改正において住民主体の「通いの場」等の取組を推進する一般介護予防事業が創設されたことが挙げられる。「通いの場」の定義は様々存在するが、2022年に日本公衆衛生雑誌に掲載された論文「介護予防に資する『通いの場』の概念・類型および類型の活用方法の提案」によると、「通いの場とは、高齢者をはじめ地域住民が、他者とのつながりの中で主体的に取り組む、介護予防やフレイル予防に資する月1回以上の多様な活動の場・機会のこと」と定義される。

     2014年法改正までの介護保険法に基づく高齢者の社会参加に関する取組は、介護予防のための体操等、専門的なプログラムに偏りがちであり、活動的な状態を維持するための多様な社会参加の場を創出することが十分にできていなかった。また、介護予防の利用者の多くも、機能回復中心とした訓練の継続こそが有効だと理解し、介護予防の提供者も、地域の多様な活動への参加に焦点を当てないケースも多かった。そのため、2014年法改正では、高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めたバランスのとれた取組が重要であることが示されている。その後の2017年介護保険法改正では、通いの場に関する取組を進める際の都道府県の役割を明確化し、2019年の健康寿命延伸プランでは通いの場を大幅拡充して先進・優良事例を全国の自治体から収集することが明記された。2021年には収集した事例から通いの場の類型も示されている。

     介護予防のための体操等、専門的なプログラムを中心に実施していた高齢者の社会参加の場から、高齢者が関わる地域づくりの取組まで範囲を広げ、趣味活動や交流会、就労等の側面も含む多様な場の拡大に向けた政策の進化が求められている。そのためには、従来の価値観から脱却し、必ずしも介護予防や地域の担い手としての効果を重視しない多種多様な取組を許容する意識も必要になる。実際に、友人同士の飲み会や近所の井戸端会議も通いの場と捉え、生活満足感や幸福感、生きがい等の観点からそれらを後押しするような自治体も出てきた。人と人のつながりを通じて高齢者の社会参加の場が継続的に拡大していくような仕組みづくりが期待される。

    〔参考文献〕
    ・橋本和孝/吉原直樹/速水聖子(2021)『コミュニティ思想と社会理論』 東信堂


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