「新・地方自治のミライ」 第24回 一票の価値と地方自治のミライ

時事ニュース

2023.05.15

本記事は、月刊『ガバナンス』2015年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 前回の本欄で触れたように、投票価値の平等は民主主義の基本である。選挙において、一人一票制であることは、有権者が選挙結果及び政治行政に与える影響が平等であるために不可欠である。

 しかし、有権者が一人一票制になったとしても、平等選挙は実現できない。例えば、明治自治制度の初期に採用された等級選挙制度である。等級選挙制度とは、上級(富裕層)から選出される議員と、下級(中下層)から選出される議員とを、区分して選挙するものである。例えば、上級の有権者100人から議員5人を選出し、下級の有権者1000人から議員5人を選出する。こうすると、一人一票制でありながら、一票の価値は10倍の格差がある。

 等級選挙制度は、戦後日本では消滅した。しかし、選挙区間で定数配分が人口比例でなければ、等級選挙制度と同じ効果をもたらす。A選挙区の有権者100人から議員5人を選出し、B選挙区の有権者1000人から議員5人を選出すれば、一票の価値の格差は10倍である。

自治制度原理と民主制度原理との相克

 民主制度において、政治的平等は重要な条件である。しかし、そのように選出された国政議員で政治・行政を行えば、人口の多い部分集団を支持者や母体として選出された議員に偏った政策になりがちである。もちろん、建前上は、国民全体の代表であるから、どの支持者・母体・選挙区から選出されようと、国民全体及び全国区域のために決定すべきである。しかし、そのような建前論では済まない。地域区分で見れば、人口の多い地域は、選出される議員も多く、結果的に国政は人口の多い地域に偏した政策を行う。形式的平等に基づく参政では、構造的に人口の多い集団・地域に有利になる。

 これは、自治制度原理には、極めて敵対的である。特定地域に不利な国策が構造的に行われる。当該区域を前提にする住民や自治体は構造的に不利になる。形式的平等は自治制度保障を掘り崩す。自治制度は権力分立制の一部でもあるから、法治国家原理(司法権独立)と民主制度原理を調整する必要があるように、自治制度と民主制度の原理を調整する必要がある。

一票の格差の「足による調整」

 ものは考えようである。移動・居住移転の自由がある以上、一票の価値の低い選挙区で満足できない有権者は、一票の価値の高い選挙区に移転すればよい。「定数是正」ではなく「住所是正」である。

 居住移転の自由は、通常は、封建的身分的拘束からの解放と職業選択の自由という意味で、経済的自由と理解されよう。しかし、どこで参政するかを自由意思で決定するという、政治的自由としても理解できる(注1)。仮に、一票の価値の低い選挙区で不満があるならば、定数違憲訴訟をしなくても、引っ越せばよい(注2)。あらゆる「定数不均衡」は、実は個々人の政治的自由のための自由意思の集計に過ぎず、実質的には問題もないのである。

注1 松井茂記『日本国憲法』有斐閣、1999年、480頁。

注2 高校野球で甲子園に出場したいのであれば、激戦区の大都市圏の高校に進学するのではなく、地方圏の高校に野球「留学」するようなものである。大都市圏の都府県の学校数に応じて、出場枠を増やす必要は必ずしもない。実際には、東京都は東と西に分割されて、2枠になっているが、それでも2枠に留まっている。

 もっとも、一票の価値という観点が、居住地選択の際に考慮される可能性は、ほとんどないだろう。「足による調整」は実質的には機能し得ないとも言える(注3)。逆に言えば、一票の価値の平等は、その程度の意味しかないのである。その程度の「価値」によって、自治制度保障を破壊するのは、権衡が取れているとは言えない。

注3 定数違憲訴訟も、大きな費用がかかる割には、効果が見込めない。自己の権利実現のためにコストがかかるのは当然であるならば、居住移転費用だけを大きく捉えるのは間違いである。

「ふるさと投票」

 実際の居住移転には、現実的ハードルが高いのならば、「ふるさと納税」のように、投票する選挙区を自由に選択できればよい。そうすれば、一票の価値が低いと不満な有権者は、自己の居住する選挙区ではなく、自分の一票が最も有効に作用する選挙区で投票できる。国民代表を選挙するのだから、どこの選挙区で投票しても同じである。

 それが「ふるさと投票」のように、地縁的に親近感のあるところで行われれば、地域や自治に配慮する効果がなお一層期待される。もっとも、単に一票の価値の重い選挙区での「一票価値最大化投票」や、あるいは、応援する党派の候補者が接戦を予想される選挙区に「助っ人=ゲリマンダー投票」をするかもしれない。このような「遊民投票」に依存して当選する議員は、結局、当該選挙区のある地域・自治体に配慮するとは限らず、人口減少に悩む地方圏の自治制度保障には役立たないかもしれない。とはいえ、出身地不明の「遊民投票者」には、議員・候補者は「代弁」のしようもない。結局、議員は当該区域・選挙区を「代弁」せざるを得ないだろう。

面積比例原則による定数配分

 一票の価値が「足による調整」をされるならば、形式的な定数不均衡は問題ではなくなる。しかし、この場合、選挙区割と定数配分の基準は、明らかではなくなる。そこで重要になってくるのが、民主制度原理以外の論理である。

 第1に考えられるのは、面積原理である。国政は国土という地理的主権を前提にしている以上、空間を施政対象として国策は展開されなければならない。人口が無人・希薄でも、国策は必要である。個々人たる国民が、現在居住している地域だけではなく、潜在的に活動する可能性のある空間範囲という意味で、国土空間に対して国策を展開するという意味である。

 空間への施策の観点を採用する場合、面積比例原則で議員定数を配分するのが自然である。もっとも、単純面積は実態に合わず、同じ面積でも経済価値が異なるという立場からすれば、地価総額でも定数配分できよう。また、領海や排他的経済水域を含めて、定数配分する考えもあろう。

 とはいえ、国土空間への着目は、国家主権原理には親和的であっても、必ずしも自治制度原理には即しているとは言えない。

自治制度原理による定数配分

 こうしてみると、第2に、直接に自治制度に配慮した定数配分が重要になる。各自治体の同等取扱いが、自治制度原理に配慮した国政代表者の地理的定数配分に相応しい。アメリカ上院の各州定数が同数の2なのは、この発想の典型である。ドイツのように各州政府が連邦参議院に代表される方式も考えられよう。

 しかし、ヨーロッパ大陸的な州・自治体的間接代表は、国会議員を国民から直接選挙することにならない。そのため、アメリカ上院型が定数配分の論理となろう。つまり、各自治体の区域を単位にした選挙区に同数の定数を配分する。

 日本の場合、市区町村は約1700、都道府県は47である。市区町村単位に同数配分すると、最低でも約1700議席が必要となり、日本の議院規模イメージには合致しない。また、市区町村の自治配慮は、都道府県議会で行えばよいとも言える。とするならば、47都道府県域ごとに同数割当が考えられる。

おわりに

 民主制度原理からは、定数配分は人口比例が基本である。しかし、いかに人口比例で定数配分をしても、選挙区に分ける以上、完全な意味での一票の価値の平等の実現は不可能である。投票価値の形式的平等が本当に重要ならば、全国一本の選挙区とすべきである。

 現行体制は、民主主義とともに地方自治の制度保障を重視している。国政選挙の定数配分も、形式的な人口比例だけではなく、自治制度原理への配慮も必要である。とするならば、各都道府県域への同数配分指向が、純粋に原理的な帰結である。

 もちろん、自治制度原理のみでの定数配分は、人口比例に基づく定数配分とは相当に乖離する。そのため、この二つの方式は折衷せざるを得ない。純粋人口比例と純粋都道府県同数の間には、相当の定数配分の幅がある。このなかで、各都道府県の合意を得つつ、立法裁量で決めざるを得ないのである。

 

 

Profile
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)など。

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