議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第75回 議会広報の目指すべきものは何か?

地方自治

2023.02.09

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年6月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 大津市議会では、「広報広聴ビジョン」と「同アクションプラン」を策定した。

 前議員任期の議会活動に対する外部評価における、真山達志・同志社大学政策学部教授からの議会広報に関する厳しい指摘が、その策定の契機となっている。

 具体的には、「議会だより」(以下、「議会報」)の必要性を認めつつも「市民は個々の議員が本会議や委員会でどのような質問をしたかに関心があるわけではない。議員毎の議会活動については、それぞれの議員が政務活動費を使って広報すれば足りることである。議会としてどのようなイシューが取り上げられ、何が問題となっているのか、問題がどこまで解決したのか、今後の課題が何かを分かりやすく伝えることが必要であろう」との指摘を受けたものである。

■広報戦略から広報広聴戦略へ

 そのため当初は、「広報のあり方検証」として、議会広報戦略を構築することを前提に改革の議論が始まった。

 だが、無作為抽出市民アンケートの結果、議会報はリタイア層にはある程度読まれていても、現役世代の読者数は急減することが明白となった。特にこれから社会の中核となる若年層からは、紙媒体で一方的に伝えようとすることへの批判が多く、動画やSNSによる双方向性を求める傾向が顕著であった。

 一方、広報内容についても、真山教授の指摘どおり、議会としての意思決定過程を発信すべきとの指摘を市民からも受けた。

 そのため、広報と広聴を一体として再検討する必要性を認識し、議会広報広聴戦略として構築することになった。「民意の反映」が議決機関たる議会の使命であることに鑑みると、議案審議のプロセスにおいて市民意見を聴き、政策に反映させるための議論の内容を伝えることこそが、目指すべき議会広報であると思われたからだ。

■主権者が参画する議会広報

 4月末のオンライン研修会(注)で、議会広報について講演する機会があった。その中で動画の活用例として、大阪府議会の「議員インタビュー」を紹介した。これは一般質問の結果を議員に聞き、動画にまとめたものであるが、議案審議に関して委員長や会派代表者に議論の内容を語ってもらえば、議案審議プロセスの広報手法としても使えるのではないかと提案したものである。

(注)「輝け!議会・対話による地方議会活性化フォーラム」主催。

 総括の前田隆夫・西日本新聞社論説委員の論評における、議会の「公開と参加」の原則や、市民を主権者として意識する重要性の示唆などからは、議会広報は双方向コミュニケーションが成立する媒体によって、市民参画を促進するものであるべきとの方向性も再確認できた。

■議会広報戦略のミライ

 いずれにしても、伝える内容と手法が的外れな広報活動では、その効果は期待できない。

 当面は、議会報も従来からのスタイルで、議会広報の主役として存続するだろう。だが、長期的には、デジタル媒体によって、議案審議における広聴結果に基づいた議会の議論を広報するという、議決機関としての本質的活動に収れんしていくと思われる。

 そして、今模索すべき議会の広報戦略には、広聴あってこその広報との認識を前提に、一対の戦略として構築することが求められるのではないだろうか。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第76回 「議会人」としての矜持とは何か? は2023年3月9日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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