政策課題への一考察 第100回 地域におけるデジタル人材育成の現状と展望

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2024.09.04

※2024年7月時点の内容です。

政策課題への一考察 第100回
地域におけるデジタル人材育成の現状と展望

株式会社日本政策総研上席主任研究員
竹田 圭助


「地方財務」2024年8月号

1 国の動向と問題の所在

 人口減少、少子高齢化に起因する働き手の不足や様々な産業分野での市場規模縮小、また需要の変化が進む中、持続可能な地域社会の実現のために地域DX推進の必要性が増している。一口に「地域DX」といってもその範囲は広大である。デジタル田園都市国家構想における分類(大分類レベル)ベースを例にとり、行政DXに近い「行政サービス」を除くと①住民サービス、②教育、③文化・スポーツ、④医療・福祉、⑤子育て、⑥交通・物流、⑦農林水産、⑧防災・インフラメンテナンス、⑨産業振興、⑩観光、⑪防犯、⑫環境・エネルギーと多岐にわたる。

 地域DX推進の喫緊の課題は人的資源の制約である総務省(注)によれば、7割を超える団体が「デジタル技術の導入を検討する際の課題」として「デジタル技術の導入・運用計画を策定できる人材の不足」「デジタル人材の地域への供給が不足している」を挙げている。この理由は様々だが、少なくともデジタル人材の需給ギャップが既に発生している中、IT技術者の6割が東京圏に集中していることが影響していると考えられる。確保の方策は大まかに都市部からの呼び寄せか地域で育成することの2通りであるが、地理条件の制約や高単価デジタル人材の呼び寄せに必要な予算の不足等から限界がある。

(注)総務省「活力ある地域社会の実現に向けた情報通信基盤と利活用の在り方に関する懇談会報告書(案)」

 ここ数年、国も動きをみせている。経済産業省が既に「地域デジタル人材育成・確保推進事業」を令和8年度末にかけて実施する等の支援策を展開しているほか、コロナ禍における女性の就労支援や経済的自立、IT業界におけるジェンダーギャップ解消を狙い「女性デジタル人材育成プラン」(2022年4月26日、男女共同参画会議)を公開したところである。また国のこうした動きも踏まえつつ、広域自治体が既に地域デジタル人材育成の取組を進めているほか、基礎自治体も取組に着手しはじめている。

 以上を踏まえ、本稿では地域におけるデジタル人材の確保・育成に焦点を当て、各自治体の取組状況を公募調達情報より収集し、類型化の上分析し、あるべき方向性を提示する。

2 地域デジタル人材育成に向けた各自治体の取組(概観)

 地域デジタル人材の育成に向けた全国的な動向を把握するため、以下要領にて調査した。

<調査要領>

・調達情報サイト「NJSS」の機能により「人材育成」をキーワードに抽出した公募案件リストを作成

・以下調査対象期間に公募を開始した案件のうち、「DX人材」「デジタル人材」「テレワーク人材」「IT人材」等、関連するワードで案件を抽出

・行政内部におけるデジタル人材育成案件を排除するため、1件ずつ仕様書・公募要領を確認

<調査対象期間>

2024年4月1日~5月31日

<調査対象件数>

48件(都道府県:27件、基礎自治:21件)

■令和6年度公募案件の主な傾向
 今年度(令和6年度)の最新の取組を概観する。まず一口に「デジタル人材育成」といっても求められる活動領域やレベルは様々である。そこで調査対象期間中に公開されている仕様書を1件ずつダウンロードし分析したところ、各自治体で多様な目的で公募されていることがわかった。例えば、対象者を女性に絞っているもの、地域企業・団体・個人事業主等へのアドバイザーを育成するもの、地域内・企業内で実際にデジタル技術を活用するプレイヤーを育成するもの、プレイヤー育成プログラム受講後に就労までつなげるもの、またデジタル人材同士の交流の場の提供や、事業者・住民への周知用Webサイト構築など多岐にわたる。以上のようなここ2か月の特徴を踏まえ、便宜上、目的別分類として以下6種類に整理した。

①女性活躍、②アドバイザー育成、③プレイヤー育成、④就労支援、⑤交流の機会提供、⑥啓発・情報提供

 以上に基づき、2023年4月1日から2024年5月末現在の各自治体における公募案件48件(都道府県:27件、基礎自治体:21件)を目的別に分類・集計した結果は以下のとおりである。なお1つの公募案件に2つ以上の分類が当てはまる場合もある点に留意されたい。

図表1 公募案件からみた地域デジタル人材育成の目的(複数該当あり)(公募開始日が令和6年4月1日~5月31日の間)

 まず、数でいえば「プレイヤー育成」が40件と最も多く、次いで「女性活躍」が23件、「就労支援」が22件と続く。

 さらに複数の目的を持つ案件がほとんどであることから、どのような目的同士の関係性が強いかを把握するためクロス集計した。まず「女性活躍」を軸にみると「女性活躍」かつ「プレイヤー育成」が22件、「女性活躍」かつ「就労支援」が17件の順に多い。次に「プレイヤー育成」を軸にみると「プレイヤー育成」かつ「就労支援」が20件と比較的多い。地域の人材育成をキーに、産業振興担当課のみならず、男女平等参画社会担当課と就労支援担当課との連携が鍵となるといえる。

3 先行事例から導出される「地域におけるデジタル人材育成」の方向性

 自治体として①誰に対して、②どのような役割となることを企図し、③どのような内容を受講させ、④どこまで支援するかによって地域デジタル人材育成のあり方は大きく異なる。調査結果を踏まえつつ方向性を提示したい。その大枠は以下図表2のとおりである。

図表2 地域におけるデジタル人材育成の方向性(筆者仮説)

出典 筆者作成

(1)施策の対象者(誰に対して)
 先述のとおり近年の特色としては、2022年4月に公開された「女性デジタル人材育成プラン」(内閣府男女共同参画局)が地域における女性デジタル人材の育成を後押ししているとみられる。例えば栃木県は「本県は就職等を契機とした女性の転出超過が多い状況が続き、その影響は婚姻率や出生率にも及ぶ」という地域の課題を背景とした女性デジタル人材育成を実施している。他方で沖縄市は、他自治体と比較し市民が低所得であり、かつ若年層の失業率が高いという課題の改善の手段として若年層を対象としたデジタル人材育成を掲げている。
 両事例ともに、成長産業かつ人手不足であることからスキルさえ身に付けば比較的、稼げる可能性の高い情報通信産業への労働移動を支援するものとみてよい。これらの事例からわかるように、地域の実情や課題に応じて施策の対象者は異なる。

(2)期待する役割(どのような役割になることを企図するか)
 多くの自治体では自ら手を動かすデジタル人材(プレイヤー)の育成を企図しているが、中には域内企業へコンサルティングを行うアドバイザー育成を行っている事例もある(長崎県、鹿児島県等)。自社のプレイヤー増加を企図するのか、それとも地域内でアドバイザーを増やすことを狙うのかは地域ベンダの有無やその勢力等によっても異なるだろう。プレイヤー、アドバイザーの他にも将来の経営を担う中核人材を育成する機会を設ける場合もある。

(3)育成内容(どのような内容を受講させるか)
 一口に「地域デジタル人材」といっても対象物が異なる。宮城県の「地域高度デジタル人材育成事業」(図表3)が参考となるだろう。ここではDXのD=デジタルを「技術系」、X=トランスフォーメーションを「業務・企画系」に分類し、さらにその中で役割や要素技術ごとに細分化し、研修メニューを提供するとともに交流の機会を創出している。

図表3 宮城県「地域高度デジタル人材育成研修」全体像

出典 一般社団法人宮城県情報サービス産業協会HP

(4)支援の範囲(どこまでの支援を行うか)
 経営者、地域内でのアドバイザー、自社におけるプレイヤー養成ならば研修がメインとなるが、(1)施策の対象者によっては未就業者やリスキリング希望者、秋田県のように移住希望者を対象とする場合は就労支援もセットとする必要がある。研修受講後に、学んだ知識を活かし似た目的を持つ企業や個人同士で新規ビジネス創出のための交流の機会を提供することは新産業創出につながり得る。香川県の事業は「女性デジタル人材が、クラウドソーシングによる案件を受注すること」を企図しており就労支援の具体性が高い。

(5)その他
 自治体が確保する予算についても触れておきたい。「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用した事例は群馬県、川口市等で実例がある。特に女性活躍の文脈が全面に押し出されている案件については、内閣府「地域女性活躍推進交付金」を活用した事例が多い(例:精華町、那覇市等)。厚生労働省「地域活性化雇用創造プロジェクト」を活用している事例もみられる(例:京都府等)。

おわりに

 冒頭に示したとおり、地域DXの分野は概ね、自治体の行政分野(政策分野)と重なる。DXの進展状況や必要性も各主体により異なるだろう。ただ少なくともこれら全てに着手しようとすれば総花的になり、予算、人員も足りなければマネジメント上の苦労が予想される。であるならば、少なくとも自治体として持つべき前提は、「地域で特にデジタル人材を育成すべき対象、分野、レベル感の腹決め」である。そしてこれらはDXを問わず地域政策の検討に一般的な視点であり、つまり地域DXを考える視点とは地域政策を考える視点に極めて近いことを強調したい。地域課題の分析や地域のあるべき姿の検討があってはじめて地域デジタル人材育成の実像がみえてくるはずである。

 

 

*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

 

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