
寺本英仁の地域の“逸材”を探して
寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第11回|伝統と革新が織りなす鮎料理【割烹 美加登家(島根県津和野町)】
地方自治
2026.02.02
この記事は3分くらいで読めます。
出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年2月号 【WEB限定連載】
◆石見地域で異彩を放つ鮎料理
島根県は東西に長い地形なので、端から端まで車を走らせると4時間以上もかかる。東西で2つに区分され、東部は出雲地域、西部は石見地域と呼ばれている。
今回紹介する、山根一朗さんが店主を務める『割烹 美加登家』は、石見地域の最も西に位置する津和野町日原にある。高津川の天然鮎のフルコース料理がいただける、昭和の風情が佇むお店だ。

『割烹 美加登家』店主の山根一朗さん。

島根最西部・津和野町にて、風情たっぷりの店構えだ。
美加登家の存在感は、島根の中でも異彩を放っている。僕は出張する際、広島空港から羽田に向かうことがあるが、鮎釣りが解禁される初夏の6月から8月にかけては、鮎料理を食べに美加登家へ訪れたであろう乗客を、機内で目にすることも多い。その誰もが、素敵な料理と絶妙な食味に感動して興奮している様子なのだ。
食のプロデュースを仕事にしている身として、前々から興味は持っていたが、同じ石見地域でも、広島県境の邑南町からは高速を走らせ2時間半もかかることから、なかなかそのチャンスに恵まれなかった。しかし、「ここまで噂になっているのなら、ぜひとも行ってみないと」と、予約の電話を入れた。いつも満席の状況だったが、昨年の8月にやっとの思いで予約が取れ、堪能することができた。
津和野町は、清流日本一に何度も輝いている高津川で有名だ。美加登家では、そんな高津川で育った鮎を生きたままの状態で漁師さんから仕入れている。その甲斐あって、鮮度は保証つきである。祖父の時代から店と技術を継承され、デザート以外はすべて鮎のフルコースで構成されていた。

日本有数の清流と名高い高津川。
新鮮な鮎を骨ごと輪切りにした涼やかな刺身「背ごし」。鮎の頭で取った出汁で炊き上げる「鮎ご飯」。独特の苦味とうま味が絶妙な内蔵の塩辛「苦うるか」。そして、僕が一番感動したのは、鮎を炭火で焼いた塩焼きだ。その姿は、もはや芸術そのものだった。

絶品の、鮎の炭火の塩焼き。
津和野町の高津川で獲れる日本一おいしい鮎と、伝統と革新を織り交ぜた山根さんの神の域にも近い技術が組み合わさり、まさに食文化の伝承を強く印象づけている。現在はご子息も、この知識と技術を山根さんから継承している。
◆食を通じて地域を見つめる
地方は、鮎以外にも多くの素晴らしい食材が眠る宝庫だ。しかし、近年の自然環境の変化、高齢化や人材不足の影響で、惜しまれながらもその継承を断念せざるをえない地域や生産者が存在することも事実だ。
「A級グルメ」の基本理念は、「ここでしか体験できない食や体験」で、地方の食材をその土地で実際に食することに付加価値があると僕は考える。これだけこだわった食材と伝統と革新の技術を、決して安売りしてはいけない。
ミシュランの三つ星の条件には、「わざわざ、食べるためにその地に旅行する価値のある店」と定義されているが、美加登家はまさにその基準に当てはると思う(実際は、島根県にはミシュランの審査が入っていないが)。
今、外国人旅行者は、北海道・東京・京都・沖縄など主要な観光地をひととおり一周し、今後は島根のような、よりローカルな地に訪れる人が多くなると予想する。そのときキーワードになるのは、やはり「食」だ。しかも、ただ「食」を味わうだけでない。その食材の背景・歴史や、生産者のこだわり、そして、調理する料理人までを観光資源とするローカル・ガストロノミーの視点が求められてくるだろう。山根さんは、そうした“一歩先”の取り組みを島根の地で実現しようとしている。まずは今年の夏、津和野町の美加登家の鮎料理を食べに来てほしいと思う。
●割烹 美加登家
住所:鹿足郡津和野町日原221-2
TEL:0856-74-0341
Instagram公式アカウント:
著者プロフィール
寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役
1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。
★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

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