寺本英仁の地域の“逸材”を探して

寺本英仁

寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第9回|こだわりの米・野菜づくりで地域の若者と農業を結ぶ【農事組合法人星ヶ丘(島根県邑南町)】

地方自治

2025.12.01

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2025年12月号  【WEB限定連載】

◆農業法人の世界に飛び込む

 今回は、島根県邑南町の農事組合法人星ヶ丘の冨永有作さんを紹介しよう。

冨永有作さんの写真
冨永有作さん(再生二期作の稲をバックに)。

農事組合法人星ヶ丘のみなさんの写真
農事組合法人星ヶ丘のみなさん。


 昨年からの米不足の影響を受けて、2025年の新米価格は過去に例がないほど高騰した。一部、そのことを喜ぶ農家もいる中、冨永さんは今回のインタビューで「これだけ米の価格が上昇すると、一般消費者の米離れがさらに加速するのではないか」と危惧していたことが印象的だった。

 僕もこの1週間、ほぼ出張していたことも影響をしているが、「白いご飯」を食べたのは数回にとどまっている。邑南町のように稲作を中心とした農村の農家が、これからどのような形で未来をひらいていくべきかを考えさせられる機会になった。

コメの写真

カリフラワーの写真

ナス、トウモロコシの写真
星ヶ丘では米のほか、カリフラワー、ナス、トウモロコシなども栽培。


 冨永さんの前職は農協職員であった。保険や総務などの担当で、農業の現場に携わるセクションではなかったが、一念発起して地元の農業法人に就農した。

 現在、邑南町だけでなく、全国の自治体が農業の法人化を進めている。農地を集約化し機械化することで、農家の人材不足への補填とコスト削減が実現できるため、国が政策的に推し進めている。しかし、僕が知っている農業法人は、集落を中心にほかの仕事を持ちながら、休日を利用して活動する兼業農家が多く、星ヶ丘のように専属で若い人を雇用する法人は、特に中国地方の中山間地ではまれである。

 冨永さんの決断には当初、奥様も心配を寄せていたと笑顔で話されていた。だが話を聞くうち、僕自身、冨永さんの構想に納得した。僕が邑南町役場職員時代に「A級グルメ構想」を企画したときも、農業だけでは経営が難しいと判断し「農業+料理」で起業する「耕すシェフの研修制度」を企画したからだ。

◆地域でこだわりの食材づくりを

 冨永さん曰く、星ヶ丘の経営スタイルとして、少量多品目ではなく、品種を絞って市場出荷をすることで、作業を効率化し関係人口を増やしているとのことだ。現在は中ナス、白ネギ、米を中心に栽培をしているが、邑南町には今年、道の駅が新しく建設され、売り場面積が拡張されたため、地元での販売も視野に入れていくと話してくれた。また、米づくりにおける主力はコシヒカリだったが、昨今の温暖化の影響で年々成育がよくないことを実感し、つや姫に切り替えたそうだ。

白ネギの写真
主力の1つである白ネギ。新鮮でみずみずしい。

 米づくりで一番こだわっているのは、「苗づくり」。太くてしっかりした根の張りをもつ、健康な苗をつくることにこだわっているそうだ。米づくりは子育てと一緒で、「苗づくり」は子育てのうち幼少期にあたる。田植えをしてしまうと子離れした状態になるので、見守るしかない。そんな、子育て論にも通じる言葉をもらった。

 冨永さんは、就農して一番よかったことについて、ご自身の子どもたちが通う学校の近くで仕事ができ、子どもたちと触れ合う機会が十分に持てることだと話されていた。地元小学校での体験学習なども積極的に行い、農業を通して子どもたちに命や自然の尊さなども伝えているそうだ。

芋掘り体験の写真

稲刈り体験の写真
芋掘り体験や稲刈り体験を実施している。

 僕は今、日本全国旅をし、毎日新しい出会いのある刺激的な生活を送っている。だが振り返ってみると、子どもの成長を見届けることができなかった一面もあり、冨永さんの生き方を少し羨ましく感じた。

 前回紹介した愛媛県西予市の高橋征敏さんもだが、これからは、地域で納得のいく食材づくりを追求する生き方に共感する若者が、多く現れるのではないかと感じる。

 冨永さんの新たな挑戦は、「パックごはん」の開発だ。一人暮らしなど生活スタイルの変化や、災害時の非常食など、その時代のニーズに合った発想に新たな可能性を感じた。

パックごはんの写真

道の駅で販売さているパックごはんの写真
冨永さん開発のパックごはんは道の駅でも販売されている。

●農事組合法人星ヶ丘
住所:島根県邑智郡邑南町高見788−1
◆Instagram:
農事組合法人星ヶ丘InstagramへのQRコード

寺本英仁氏の写真

著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。

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㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

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