寺本英仁の地域の“逸材”を探して

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寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第5回|馬の触れ合いが心を育む!ホースセラピー【三陸駒舎(岩手県釜石市)】

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2025.08.01

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2025年8月号  【WEB限定連載】

◆馬との触れ合いから見えたもの

 今回は、岩手県釜石市の一般社団法人「三陸駒舎」理事、黍原豊(きびはら・ゆたか)さんを紹介しよう。

三陸駒舎理事の黍原豊さん。
三陸駒舎理事の黍原豊さん。


 島根県邑南町で和牛の繁殖事業を展開し、牛を放牧している僕の父親は、常々、馬を飼いたいと言っている。そのため、今回は非常に興味深い対談になった。

 僕も父の牧場で牛の世話をしたとき、牛と一緒にいることで心が癒される経験をしているので、黍原さんの取り組みが人を惹きつけることは知っているつもりだった。けれど、話を聞けば聞くほど奥深いものがあった

 黍原さんは、愛知県瀬戸市出身で、岩手大学農学部を卒業し、東日本大震災後の2013年に妻の故郷である釜石市に移住を決めたそうだ。復興まちづくりを手助けする「釜援隊」として活動し、子どもたちの居場所づくりに取り組むなか、教育牧場をネットワークする組織「他力サムガ」の寄田勝彦さんと出会い、興味を持ったそうだ。

 仮設住宅などで馬との触れ合い体験を行ううち、子どもたちの生き生きした様子や、馬との生活を懐かしむ高齢者の言葉から、動物や自然との触れ合いによる心のケアに地域再生の可能性を見出し、事業を立ち上げた。現在の事業内容は、「放課後等デイサービス」という国の福祉事業にもとづき学童の支援を行っている。馬は4頭いて、毎日学校が終わった後、子どもたちが通ってくる。

放課後、馬と触れ合う子どもたちの写真1

放課後、馬と触れ合う子どもたちの写真2
放課後、馬と触れ合う子どもたち。


 地方を回っていると感じるのが、田舎でも共働きの家庭が多くなり、放課後の子どもたちの活動もさまざま、ということである。スポーツクラブや塾に通う子どもも多く見受けられるが、低学年の子ども、動物好きの子どもにとって、馬と触れ合うことができる場所があるのは、正直、「羨ましいな」と僕は思った。

放課後、馬と触れ合う子どもたちの写真3

◆安心して子育てできる場に

 政府は10年前から地方創生を掲げ、地方の人口減少に歯止めをかけるよう取り組んでいるが、東京一極集中はさらに進んでいる。

 地方で18歳まで育ったとしても、高校卒業後は多くの者が進学や就職のため東京で暮らすことになる。日本全体の人口が一定程度維持できるのであれば、東京圏に人口が集中することも致し方ないと思うが、東京の出生率は1.0を切った年もある。これでは地方だけでなく、日本全体の人口が急速に激減している状況である。

 政府も危機感を抱き、来年度からは「子ども・子育て支援金制度」を導入。子育て環境の整備に重点を置くが、果たしてそれで出生率が向上するかどうかは疑問である。児童手当や高校の無償化、多子世帯の大学無償化などさまざまな金銭的支援制度が充実するが、この制度について、僕が全国の若手公務員たちと議論するなかでは、「それだけで子どもを出産しようという気持ちにはなれない」という意見が多い。今回、黍原さんと対談をしながら、僕は金銭的な面よりも、安心して子どもを育てられる環境を用意できるかが重要ではないかと感じた。

 これからは、多様な人材の能力を引き出し、それぞれの個性を尊重していくことが求められる。ホースセラピーに参加する子どもたちのなかには、じっと座っていることが苦手な子どもや、友達とうまく人間関係を構築できない子どももいると聞いた。けれど黍原さんは、その子どもを肯定するでも否定するでもなく、淡々と接する。そんな姿が想像できた。

 そして何より、馬は正直で人に媚びを売ることもない。素のままの馬と子どもたちが接することで、人として大きく成長できる機会になるのだと僕は思う。

 釜石市での小さな取り組みかもしれない。しかし、地方で子育てをする一つの魅力の発信であると、これからも僕は注目をしたい。

放課後、馬と触れ合う子どもたちの写真4

放課後、馬と触れ合う子どもたちの写真5
馬との出会いが、子どもたちのすこやかな成長につながるはずだ。

●一般社団法人 三陸駒舎
住所:岩手県釜石市橋野町9-44-7
公式HP:https://kamakoma.org/
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著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。

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㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

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