
事例紹介
事例紹介▶︎大洗町(茨城県) 火災監視等AIカメラの導入と運用~大洗町消防本部における実証と成果~
NEW地方自治
2026.02.05
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この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2025年11月号に掲載された記事を使用しております。
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事例紹介▶︎大洗町(茨城県)
火災監視等AIカメラの導入と運用 ~大洗町消防本部における実証と成果~
大洗町消防本部消防総務課課長補佐兼係長(消防司令)
小野瀬 秀聡

導入の背景
茨城県大洗町は、太平洋に面した港町であり、観光施設や商店、住宅地が混在する独自の景観を持っています。町内の住宅密集地は狭く、隣接する建物との距離が近いため、火災が発生した場合の延焼リスクが高い地域も多く存在します。観光客や住民でにぎわう日中は活動が活発ですが、夜間や休日は人の動きが少なく、住宅街や空き家周辺で火災や煙が発生しても発見が遅れる可能性があります。特に空き家の増加が進む中で、こうした場所での火災発生は初期消火が難しく、被害拡大につながる懸念がありました。
また、大洗町内には津波被害や河川の氾濫リスクの可能性も存在します。火災だけでなく、災害発生時には住民避難後の市街地監視や被害状況把握も求められます。従来の119番通報に依存する体制では、こうした状況を迅速に把握することが困難であり、初動対応の遅れによる被害拡大が懸念されました。
過去の火災事例を振り返ると、住宅街での煙の発見が遅れたために出動時には炎が拡大していたケースもありました。また、夜間に火災が発生しても、通報がなければ消防が火災の発生を把握できず、対応の遅れにつながることもありました。こうした経験から、住宅街や空き家での火災・煙を早期に把握できる監視体制の必要性が課題となっていました。
こうした課題を解消する手段として、2024年11月にアースアイズ株式会社の「火災監視等AIカメラ(火の見櫓AI)」(図-1)を導入し、翌年1月から本格運用を開始しました。導入の目的は、住宅街や空き家での火災発生や煙を迅速に把握し、効率的な初動対応につなげることです。従来の通報依存型体制を補完する新たな監視手段として期待されています。
図-1 火災監視等AIカメラ

システムの概要
火災監視等AIカメラは、本部敷地内の訓練塔最上部(高さ約18メートル)に設置され、半径約800メートルの範囲を24時間体制で撮影しています。取得した映像はAIが解析し、煙や炎を検知すると通信指令室のモニター(図-2)に映像が表示され、パトランプが点滅し(図-3)、職員に通知される仕組みです(図-4)。
図-2 通信指令室のモニター

図-3 通信室内AIモニター

図-4 火災監視等AIカメラのシステム構成

1)Pan(水平方向)、Tilt(垂直方向)、Zoom(拡大・縮小)の遠隔操作ができるカメラ。
2)Power over Ethernetの頭文字で、LANケーブルから電力とデータの両方を供給できる装置。屋外などでも電源の心配なく設置が可能。
3)Network Video Recorder(ネットワークビデオレコーダー)、動画録画機器。PTZカメラの画像を録画する。
4)ローカルネットワーク内で、PTZカメラの映像を取り込み、画像解析する。
5)AI画像解析の技術の管理やローカル環境の監視に使用する。
AI解析はディープラーニング技術を基盤とし、煙や炎の形状、色彩、動きのパターンを学習しています。これにより、光や影、鳥や車のライトなどの一時的な現象と、火災の兆候を識別する精度が向上しています。また、季節や天候による光環境の変化も学習データに反映させており、四季折々の町の景観に応じた判定が可能です。
本システムは消防職員が運用し、最終的な出動判断は職員が行います。AIカメラはあくまで監視・早期発見を補助するツールであり、現場判断を代替するものではありません。この構造により、住宅街や空き家など人の目が届きにくい地域でも、初期段階に火災を発見することで被害の拡大を抑えることができます。
導入直後の課題
導入直後はAIの誤検知が多く、精度向上が課題でした。霧や光の反射、車のライト、鳥の動きなどを煙や炎と誤認する場合があり、解析範囲や学習データの調整が必要でした。
AI学習データには町の景観特性、季節ごとの光環境変化、建物や街路樹の影響などを反映し、運用開始前に精度を高めました。これにより、住宅街や空き家周辺での火災や煙の早期把握に対応できるよう準備しました。
本格運用後の成果
2025年1月から本格運用を開始して以来、住宅街と漁港付近の煙を2件検知しました。いずれも住民による野焼きとごみ焼却による煙で火災には至りませんでしたが、現場への迅速な出動と注意喚起につながりました。煙検知から現場確認までの時間は従来に比べ大幅に短縮され、被害拡大リスクの低減に寄与しています。
AIカメラは夜間や休日でも住宅街の状況を把握できるため、住民の安全確保や消火活動の迅速化に貢献しています。職員は「通知があることで現場確認がスムーズになった」と評価しています。
初期段階では誤検知が多く、月100件近く報告されましたが、開発事業者と連携して解析データを精査・改善した結果、現在は月1件程度まで減少しています。これにより、実務上の信頼性も向上しています。
技術的改善プロセス
誤検知削減の取り組みでは、煙や炎と誤認される要因を分析し、学習データに取り込みました。霧や光の反射、鳥や自動車の影などを繰り返し学習させることで、判定精度は向上しています。
四季による光環境の変化や建物や樹木の影も考慮し、解析アルゴリズムを継続的に調整しています。このプロセスにより、AIカメラは住宅街や空き家周辺での火災・煙把握を支援する実務補助ツールとして確実に機能しています。
運用事例の詳細
本格運用開始後の2件の検知事例は、いずれも煙でした。昼間に1件目を検知した際、AIカメラが煙を捉え通信指令室もモニターに映像が表示され、職員が現場を確認しました。煙は野焼きによるもので、火災には至りませんでしたが、迅速な注意喚起につながりました。
早朝に2件目を検知した際も、通信指令室のモニターに映像が表示され、職員が現場確認を実施しました。こちらの煙は漁港付近でのごみ焼却によるもので、火災に至りませんでした。いずれも通報がない状況での検知であり、火災監視等AIカメラによる早期把握の有効性が示された事例です。
地域防災力への貢献
大洗町は津波災害や河川の氾濫リスクの可能性があります。火災だけでなく、災害発生時には住民避難後の市街地監視や被害状況把握も求められます。AIカメラは、こうした状況でも監視を継続でき、消防職員が現場に駆けつける前に状況把握を可能にし、地域防災力の向上に直結しています。
火災監視によって消火活動や注意喚起を迅速に行えることは、被害の最小化につながります。これにより、住宅街の延焼防止や住民の安全確保など、地域防災の強化に大きく貢献しています。
今後の展望
火災監視等AIカメラは、人の目が届きにくい地域や早朝・夜間などの火災の発生に気づきにくい時間帯での監視を補完しています。今後は、設置範囲の拡大、複数カメラの連携による監視精度向上、津波や地震後火災など複合災害への応用を検討しています。
小規模自治体でもスモールスタートで実績を積み上げ、運用ノウハウを蓄積することで、AIカメラの実務活用効果を確実に高めることができます。
また、災害時の情報収集ツールとしても拡張可能で、津波や河川氾濫後の住宅街の被害状況を迅速に把握することも期待されています。将来的には、消防活動だけでなく地域防災全体のDX推進にもつながる可能性があります。
おわりに
大洗町消防本部における火災監視等AIカメラの取り組みは、導入から約9ヵ月で一定の成果を示しています。住宅街や空き家など人の目が届きにくい場所で煙や火災の兆候を迅速に把握し、被害の最小化に寄与しています。
AI活用は自治体にとって新しい挑戦ですが、私たちの事例は規模にかかわらず導入可能であり、改善を重ねることで実効性を高められることを示しています。今後も運用実績を積み重ね、精度向上と地域防災力の強化に取り組んでまいります。
Profile
小野瀬 秀聡 おのせ・ひであき
1997年に消防本部へ入庁。以降、警防・予防など幅広い業務を経験し、現在は消防総務課に所属。長年の経験を生かし、地域防災力の向上に取り組んでいる。
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