議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第91回 議長は「任命権者」ではなかったのか?
地方自治
2024.06.13
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年10月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
議会の政策形成過程における議会(事務)局(以下「局」)固有の課題として、議会の政策議論にどこまで参画することが許されるのかというものがある。それは、法的根拠がないにもかかわらず、局職員には過剰ともいえる政治的中立性を要求する主張があるためだが、議会、議員に対する「補佐の射程」は、最低限、執行部職員と同等に確保すべきだと本年2月号で指摘した。
だが、もう一つ大きな課題がある。それは、議長の任命権の立法趣旨と実態の乖離である。
■議長の任命権の現実
最近特にそう感じるのは、ある議長経験者による「議会は議会事務局職員の人事権すら有していません。議長になれば、少なくとも議会事務局の異動に際して、あらかじめ打診があるという話も聞いていましたが、私が議長のときには、そういったことはありませんでした」との論稿を読んだからだ(注1)。
注1 元所沢市議会議員木田弥「誰も教えてくれない新人議員心得帳・第5回どうする議会事務局①」(第一法規・議員NAVI2023年8月10日)
全国の自治体議会の実態を、忠実に表現したに過ぎないことは百も承知である。だが、議長は任命権者として局職員の人事権を有することに法的議論の余地などないにもかかわらず、多くの議長が任命権者としての責務を自ら放棄しているというのが真実なのではないか。
もっとも自治体の統括代表者である長には、執行機関多元主義のもとでも総合調整権が認められているため、局人事にもその権限が及ぶとの誤解が一部にはあるようだ。
たしかに、長には地方自治法180条の4で「組織等に関する長の総合調整権」が認められているが、それは執行機関である委員会等の事務局に対するものであり、議事機関の補佐組織である局には及ばない。その観点からは、局の職員定数が執行部の職員定数条例で定められている例も多いが、これも二元的代表制や地方自治法の立法趣旨に沿ったものとは言い難いだろう。
■二元的代表制における人事権
他方で、ある自治体で議長が特定の執行部職員を局に出向させるよう要望したところ、長から不当な人事介入だとの申入れ(注2)を受けて、政治倫理審査請求された例がある。詳細はウェブ上で参照していただきたいが、当該申入れには事実経過が長側の記録として記されている。
注2 「市議会議員による人事介入事案に関する調査および綱紀粛正の申入れ」(彦根市総大189号・2023年3月9日)
それを読む限りでは、議長が特定の執行部職員の出向を要望すると同時に、執行部内の事情によって特定の局職員の執行部への出向を、長も議長に要望している。それにもかかわらず、議長の行為だけが不当とされるところに疑問を感じる。
もちろん議長が執行部内の人事について意見したなら、それは不当な人事介入であろう。しかし、局の任命権者として、局への出向者を名指しで要望することが不当行為にあたるのだろうか。百歩譲ってそれが不当だとしても、同様の要望を長も議長に対して行っているにもかかわらず、議長の行為だけが不当だとの主張に法的妥当性はあるのだろうか。二元的代表制のもとでは、長といえども局職員人事に権限は及ばないはずだからだ。
■問われる任命権者としての覚悟
近年、議会における局の重要性を語る議長は増えた。だが、有能な人材を確保するために、実際に行動した議長がどれだけいるのだろうか。
もちろん、先に述べた業界の常識を変えるべき課題も残されているが、究極的には局の補佐能力は、任命権者たる議長の覚悟次第と言ったら過ぎたことだろうか。
第92回 『ペーパーレス化が議会改革なのか?』 は2024年7月18日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。