議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第86回 本当の「DXできない理由」とは何なのか?

地方自治

2024.01.18

本記事は、月刊『ガバナンス』2023年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 先日、朝日新聞から、統一地方選挙を控えて同紙が実施した、全国地方議会アンケートに基づく取材を受けた。具体的には、委員会のオンライン開催をしている議会は、全国的には6.5%に止まるなど、議会のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない現状へのコメントを求められた。

 今号では、アンケートにおける「DXできない理由」について、思うところを記したい。

■議員平均年齢の問題なのか?

 記事では、DXできない理由は「平均年齢が高い現状では議員が(DXに)ついてこられない可能性が高い」「端末の操作について、議員により得意・不得意の差が大きい」「機器の操作に不慣れな議員が多く、紙媒体の資料を廃止するのが困難」などとされ、「地方議員が高齢層に偏っていることの弊害」だと総括されていた(注)

(注)朝日新聞夕刊「地方議会 デジタル及び腰」(2023.3.15)

 だが、大津市議会で2014年に全国に先駆けてタブレットを導入した際にも、同様の不安はあったが、現実には障害とはならなかった。それは、議案説明などで活用する際には、説明員のタブレット画面上の資料ページが、全議員のタブレット画面にも反映される「会議同期システム」を採用して議員側の操作を不要としたり、一般質問等でタブレットを使用して写真やグラフ等の補助資料を、スクリーン投影させながら質問する練習に、マンツーマンで局職員がサポートするなど、ハード、ソフト両面からの努力が功を奏した成功体験がある。

 その実体験があったからこそ、コロナ禍における急遽のオンライン委員会導入にあたっても、議員からの特段の反対意見もなかった。13回開催したオンライン委員会でも、大きなトラブルもなく、導入していなければ失われていた議員の権利を保全できたと自負している。

■「できない理由」の不都合な真実

 ところが、時として私のオンライン議会実現へのこだわりは、私個人がデジタル好きだからだと、誤解されることがある。

 事実は、私はどちらかというとデジタル技術には疎く、好きでもない。オンライン議会についても、むやみに行うべきものではなく、議会の原則はあくまでリアルでの議論だと考えている。しかし同時に、議会のDXについては、趣味性の話ではなく、議会の持続可能性ひいては存在意義にかかわる、逃げてはならない課題だとも思っている。

 その認識からは、前述の「DXできない理由」は奇異に思える。高齢議員を一律にデジタルデバイド扱いする前提も偏見だと感じるし、「DXについてこられない可能性が高い」というのも実証に基づくものではなく、主観的な思い込みではないだろうか。仮に「DXについてこられず」「機器の操作に不慣れな議員が多い」のが事実だとしても、それを克服する手段を考え、実現することが与えられた重要な仕事ではないのだろうか。

 議会の存在意義にかかわる問題を、「できない理由」をならべて放置するのは、最終的には専決処分に委ねてしまえばよいとする潜在意識にあるのではないか。そうであるならば、「DXできない本当の理由」は、議員については二元的代表制の一翼を担う公選職としての責任感の問題、局職員については議会を本気で支えようとする任命職としての矜持の問題だと言ったなら、過ぎたことだろうか。

 

第87回 『議会のデフォルトは普遍的なものなのか?』 は2024年2月15日(木)公開予定です。

 

 

Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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