議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第81回 そこに議会への「愛」はあるんか?

地方自治

2023.08.10

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年12月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 先日、ある町議会議員と意見交換した際、優秀な局職員を確保する手段として、事務局の共同設置制度を活用すべきではないかとの意見があった。それは事実上、町長に短期間で異動させられる自治体職員よりも、外部人材のほうが専門性に優るとの考えからである。

 そこで今号では、議会に求められる局職員像について考えたい。

■事務局共同設置に関する私見

 議会事務局の共同設置とは、第29次地方制度調査会の「効率的な行政運営や小規模市町村の事務の補完を可能とするため、内部組織、事務局及び行政機関についても共同設置が進められるよう、制度改正を含めた検討を行うことが適当である。」との答申を受けて、2011年の地方自治法改正で選択可能となったものである。

 しかし、この制度は地方からの反対があったにもかかわらず、市町村合併後の次なる「効率化」を意図する国が主導した経緯もあり、いまだに全国での適用例はない。その理由の一つとして挙げられるのは、定例会の時期が重なるため、議会日程上無理があることだ。そのため、法制担当を共有し政策立案分野での共同化を主張する向きもある。

 だが、現場の視点からは、政策立案分野の方が、より難題に思える。

 政策条例立案を前提とした場合、法的知識や法制執務に長けていることは最低条件でしかなく、自治体の現状を把握したうえで立法事実を整理し、議会内での合意形成に資する調整能力が最も重要であるからだ。そのうえで執行部との実務上の調整が必須となるため、当該自治体職員でなければ、求められるレベルでの調整は、事実上難しいのではないだろうか。

 また、全国町村議会議長会も「議会事務局の共同設置についての意見」で、「個々の自治体の事情、これまでの慣例、個々の議員の政見等を十分把握することができないままに議会運営に関わることとなり、途端に調整機能が低下し、混乱が生じる可能性が強い。」としている。

 共同設置の事務局は、いわば各議会を渡り歩く傭兵部隊である。傭兵は報酬のみを動機に戦うのであり、国民軍兵士のように愛国心が士気の源泉ではない。事実、戦況が不利になれば、最初に逃げ出すのは愛国心などない傭兵だとされている。

 実質を伴う市民視点での政策立案には、当該自治体への帰属意識が前提となり、ベタな表現をすれば、地元に対する「愛」が求められるのではないだろうか。

■局職員に求められるものとは

 だが一方で、全国の議員からは、議会事務局で目立つと出世に差し障ると考え、執行部へ戻るまでの腰掛気分で「こなし仕事」しかしないとの、局職員に対する厳しい評価も聞こえてくる。

 古い話だが、7年前のあるシンポジウム(注)では「議会愛〜市民のためになる議会と事務局職員のあり方」と題する鼎談があり、私はそこで「議会愛」なるフレーズを初めて聞いた。ところが「それは自分が先に言いだした」と主張する男が、そこに現れた。「誰が言い出したかなどどうでもいいこと」だと冷ややかに聞いていたが、その男は今も「議会愛」にこだわっている。

 物事の本質を端的に表現したセンスと世間に知らしめた功績には、敬意を表しておこう。なぜなら局職員に最も求められるものは、正にそこにあると思うからである。

注 2015年11月28日開催・議会事務局職員メーリングリスト(g-mix)オフ会in神戸

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第82回 現状否定は「暴挙」なのか? は2023年9月14日(木)公開予定です。

 

 

Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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