自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[86]地区防災計画フォーラムで大規模住宅団地の取組み──昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地管理組合

地方自治

2024.01.17

※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 今年は関東大震災100年であり、その教訓を改めて学ぼうという機運が高まっている。それはとても大切なことではあるが、一方で、時代の変化を見据えた対策が必要だ。たとえば、当時の東京府の人口は約350万人、神奈川県は約130万人で、合せると約480万人になる。現在は東京都が約1402万人、神奈川県は約905万人で合計で約2307万であるから、当時の約4.8倍になる。

 増加した人々の多くは中高層住宅に住んでいる。人が多いこと、中高層に住んでいること、電気、水道、ガスなどライフラインに依存していること、が現代都市災害の大きなリスクだ。

昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地管理組合の取組み

 昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地は、都市部で著しい人口増が進んだ時代に建てられた団地の一つであり、14棟、11階建てで41年前に入居が始まった。現在、約1400戸、3千人が居住し、年齢構成は65歳以上が49.4%、75歳以上が22.1%である。

 3月26日、内閣府の地区防災計画フォーラムで宮田次朗理事長が団地防災の取組みをプレゼンされたので紹介したい。非常に濃密なので、私なりに整理をさせていただいた。

組織づくり

 宮田氏は「仲間づくり」と表現し話されていた。つながりにはふわっとした方が良いものと、しっかりした組織にした方が良いものの両方があり、それをうまく使い分けている。組織づくりでは、まず団地の14棟が各自の防災隣組をつくっている。程よい距離感をとったあいさつ運動と、平時の見守りと災害時の安否確認を連動した防災隣組をつくっている。この隣組は防災棟長、グループ長(22世帯)、班長(4~6世帯)の三層構造になっていて、末端まで情報が行き届く。

 次が防災協議会である。管理組合と自治会がそれぞれ役割分担しながら、毎月会議を重ね、現在で101回である。そして、つつじが丘北防災ニュースを発行している。

 第三に「まちづくり昭島北」というコミュニティ協議会である。ついに団地の枠を超え、5自治会、3管理組合、商店街の9団体、約3400世帯で連携をとり、夏まつりを行い、東日本大震災の発生した3月11日には教訓を忘れないようにとまち歩きを実施している。

 第四に、学校別避難所運営委員会である。地域の枠も超え、2016年4月から市全域の公立小中学校19校で「行政+学校+地域」による委員会を設置して活動している。それまでは、避難所のマニュアルが行政、学校、地域がバラバラに作っていたのを、協議して統一している。

学びと実践の融合

 団地では著名な防災アドバイザーを招いたり、阪神淡路大震災や東日本大震災の被災地を数多く訪問したりして防災知識を高めている。宮田氏は「教訓と真実は現場にあり」という。しかも、旅費のほとんどは自腹だそうだ。「自分と家族の命を守るためだから、自分でお金を出すのは当然」とも話されていた。

 そのような学びから、数多くの工夫を凝らした実践活動をされている。号棟内でのイベントでは「ぼうさいお花見」や「ぼうさい芋煮会」をしている。芋煮会では自然に鍋奉行があらわれ、災害時の給食班が自然に決まったという。祭りに模擬店を出すなど、まさに「胃袋を掴む」活動をして人を集めている。

 そして、各家庭の備えを後押しするために、各世帯にオリジナルのマニュアルを配布するとともに、携帯用「防災カード」ネームプレート、安否確認ステッカーを図のようにドアの裏側に貼り付けることができるようにしている。


各家庭への配布物

 また、管理組合では家具転倒防止用工具セットを4セット準備し無償で貸し出しをしている。災害時には1度に30台充電できるように携帯電話の充電セットも備蓄した。常備セットの内容は、携帯電話専用の簡易発電機2台に加え、延長コードや充電ケーブルを用意し、発電機の燃料は家庭用の卓上コンロ用ガスボンベにするなど、きめ細かい。

 驚いたのは「在宅避難カードセット」である。まず、①在宅避難カードである。各棟の1階に「互近助ポスト」を設置しているので、災害時には、このカードを24時間以内に投函する。これにより、在宅避難者数や属性が把握でき、支援物資の要請などがスムーズにできる。


在宅避難カード

 次に、「支援(食料・物資等)受取カード」である。災害時にはこれを持参することで、確実に受け取れるようにするものである。私は、これがあると、毎回、受け取りに行くより家に備蓄した方が良いと思わせる効果もあると感じた。


支援(食料・物資等)受取カード

 最後に避難先連絡カード(避難、帰宅)である。過去の災害でも、住民の行方がわからない、ことがよくあり、その度に安否確認などが混乱していた。これを互近助ポストに投函することで、管理組合が安心して災害後の対応業務を行える。


避難先連絡カード〔避難・帰宅〕

 単に、「各家庭で備えてください」、と啓発するだけでなく、個別具体的な支援をすることで、その気にさせる優れた事例ではないだろうか。

人材育成

 将来を見据えて中学生の人材育成にも力を入れている。具体的には安否確認訓練を中心に中学生に参加してもらっている。小学生は親子で参加する。中学生のアンケートでは「最上階の11階まで上がってみると、足の悪いお年寄りは大変だろうと思った」「お年寄りが多かったので私たちがしっかり動かねばと思った」「災害時に私たちは “助けられる人でなく、助ける人になれ ”ということを学びました」など、思いやりの心を育てるものが数多くある。宮田さんは「訓練がマンネリ化しないように、大変だけど訓練内容を毎年見直している」と話されていた。多くの行政職員には耳が痛い話ではないだろうか。

 後藤新平は「金を残すのは下、仕事を残すのは中、人を残すのが上」と述べている。将来世代を育てることに尽力される管理組合と自治会の姿勢には後藤新平に連なるものがあり、深く敬意を表したい。

 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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