議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第80回 「通年議会」導入の意義は何だったのか?
地方自治
2023.07.20
本記事は、月刊『ガバナンス』2022年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
先日、ある刊行予定書籍の執筆者から原稿の校閲を依頼された。その際に、本来は担当外であったが、「通年議会」での「専決処分」に関する記述に疑問を感じ、意見交換をさせてもらった。今号では、その論点を整理して私見を述べたい。
■通年議会と専決処分の制度概要
「通年議会」とは、非常時の議会活動の指針である「議会BCP」とともに、休会期間を無くして議会の活動能力を常時担保するものである。
従前から定例会の開催回数を年1回として、実質的に会期を通年とする「通年議会」の取り組みがなされてきた。さらに2012年の地方自治法(以下「法」)改正によって、「通年の会期」を定めることが可能となった。その目的の一つは、閉会中の長による専決処分の回避である。
専決処分には、通年議会(以下「通年の会期」によるものを含めて総称する)との関係では、法179条に定める「議会を招集する時間的余裕がない」ことを要件とするもの(以下「緊急専決」)と、法180条に定める「軽易な事項」についてのみ認められる「委任専決」に大別される。
■議会の存在理由にかかわる問題
先の校閲時に感じた疑問は、通年議会を採用していても、年度末の税条例改正は緊急専決が妥当としていたことである。
毎年度末の税法改正によって、自治体でも年度内の税条例改正が必須となる。だが、国会の状況によって、法改正が年度末ぎりぎりになる年もあるため、実態は専決処分する自治体が大多数である。
一方で、大津市議会が通年議会導入を検討していた2012年当時は、通年議会化によって緊急専決はできなくなるというのが、全国的な共通理解だったと記憶している。
ところが、執筆者から示された通年議会導入済の16議会の抽出調査結果を見て驚いた。年度末の税条例改正を議決しているのは、大津市議会を含めて3議会だけで、5議会は法179条の緊急専決、8議会は法180条の委任専決をしていたからだ。
もとより多数説が常に最適解だとは思わないが、直近10年で通年議会の運用の大勢が、これほど変遷しているとは正直知らなかった。
だが、通年議会の本質からは、突発的な議案でもない税条例改正を、緊急専決するのは、論理的一貫性を欠くのではないか。また、委任専決の適用については、自治体の歳入に関わる議案を、委任専決の前提条件である「軽易な事項」とは言い難いだろう。何より「税条例の改正のように住民に義務を課すような案件を議会審議なしに首長の専決処分で決めることを許容しているのは議会の存在理由にかかわる問題」(注)ではないだろうか。
注 大森彌「自治体議員入門」(第一法規・2021年)170頁
■初心忘るべからず
2012年当時の大津市議会での通年議会導入の議論の際には、「必要ならば深夜、休日でも本会議を開催すべし」と主張し、通年議会の意義にこだわる議員に、議会人としての矜持を感じた記憶がある。
また、税条例のみならずコロナ対応補正予算に関しても、通年議会でも専決処分している例が全国で散見されるが、大津市議会では補正予算の緊急専決は、通年議会導入後は皆無である。
想定外の事態もあり得るので、通年議会における緊急専決を全否定まではしないが、ご都合主義の例外は極力作らないことが、制度本来の意義を見失わないためには必要ではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第81回 そこに議会への「愛」はあるんか? は2023年8月10日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。