議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第84回 「チーム議会」の広がりに必要なものは何か?

地方自治

2023.11.09

本記事は、月刊『ガバナンス』2023年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 1月末、大正大学地域構想研究所が主催する「地域政策ネットワークフォーラム〜地域の課題と自治体議会の役割〜」に参加した。

 パネルディスカッションで江藤俊昭・大正大学教授から発言の機会を与えられたので、議論で触れられた「チーム議会」が、全国でオーソライズされるための課題についての考えを述べた。今号では、会場での発言に補足して論じたい。

■誰のために仕事をするのか

 「チーム議会」は、過去においては、個々の議員が会派の壁を越えて機関として活動する議会を形容するものであったが、今ではさらに局職員も一員として協働する議会を意味するようになってきた。

 自治体執行部においては、任命職たる職員は公選職の首長を補佐し、行政機関一体となって住民のために仕事をするものという意識は、当然のこととして共有されており、異論が挟まる余地はないだろう。だが一方で、パネリストの片山善博・大正大学地域構想研究所所長は、「チーム議会」を肯定的に捉えつつも、鳥取県知事時代の話として、議会事務局職員が議員野球の世話に奔走している姿を見て、「誰のために仕事をしているのか」と尋ねたそうである。「議員のため」と答えた局職員に、「県民ための仕事をするという意識が必要」と苦言を呈したとのことであった。

 この感覚は決して過去のものではなく、今でも両者は同じ地方公務員でありながら、誰のために仕事をするのかという根本的な部分での意識にズレがある。

 筆者も市町村アカデミーで議会事務局職員研修の講師を務めた際に、受講者に同じ質問をしたことがある。案の定「議員のため」と答えた受講生に、「執行部でも市長のために仕事をしていると思っていたのか」と再質問したところ、「市民ため」との論理一貫しない答えを聞かされた経験を話した(注1)

(注1)清水克士「議会(事務)局職員は誰のために働くのか?」(『ガバナンス』2019年5月号)

 この観点からは、局職員は執行部職員よりも、目前の公選職対応に流され主権者が視野に入っていない、近視眼的な執務態度に陥りがちとなる傾向が課題といえる。もとより「チーム議会」が成立するには、議員と局職員が相互にリスペクトする関係性が必要だが、それはともに住民福祉向上のために働く存在であるという共通認識が大前提となるからである。

■局職員の任務は異なるのか?

 同様に課題となるのは、局職員によるボトムアップに関する「政治的中立性」の解釈である。詳細については、前号(注2)で論じたのでここでは割愛するが、局職員が議会の政策立案を担うことについては、執行部職員と比して抑制的であるべきとの意見が、法的根拠なく定着していることが「チーム議会」を実現するにあたっての障害となる。

(注2)清水克士「議会局による『補佐の射程』はどこまでか?」(『ガバナンス』2023年2月号)

■議会の常識を変える難しさ

 「チーム議会」の意義を全国で理解してもらうには、この二つの誤解を解くことが、キーになると考えている。それは、局職員は任命職としての法的立場は執行部職員と同一であり、この二つの課題は長年培われた議会の常識に起因する。法に起因するものであれば改正を求めれば良いが、いわばイメージ的に根付いた常識を変えることは、明確なプロセスを示しがたく、より難しい課題ともいえる。

 自治体議会を論じるプラットフォームには、議会の常識を変える運動論の展開に期待したい。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第85回 「議員との付き合い方」はどうすべきか? は2023年12月14日(木)公開予定です。

 

 

Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、20233月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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