政策トレンドをよむ 第7回 ロジック・モデルを用いた公共サービスの設計と評価
地方自治
2023.11.10
目次
※2023年9月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第7回 ロジック・モデルを用いた公共サービスの設計と評価
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
河野 惇史
(『月刊 地方財務』2023年10月号)
近年、我が国の行財政事情は厳しさが増し社会課題も複雑化する中で、行政自らが無駄な支出を減らしサービスの質を向上させるために、効率的かつ効果的な事業手法を導入する必要性が(注)高まっている。前号においてベビーテックについてその内容や課題等を紹介したが、その中で成果連動型民間委託契約方式(PFS : Pay for Succe-ss)に触れた。本稿ではそのPFSに着目する。弊法人では、内閣府からの委託により令和3年度から実施している「成果連動型民間委託契約方式(PFS)による事業の成果評価、検証支援業務」、令和4年度文部科学省からの委託により実施している「次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進事業」及び教育系ベンチャー企業の事業成果測定支援を行ってきた。今号ではPFSの特徴とその際に行う事業設計において用いるロジック・モデルの意義や基本的な枠組みを紹介する。
PFSは、限られた行財政資金の効果的な活用を実現するための手法として、ワイズスペンディングの実践を目指して導入されている。しかし、「効果的な活用」とは具体的に何を意味するのかについて関係者間で合意形成を行うことは容易ではない場合もある。たとえ事業の目的に住民が納得、同意していたとしても、その事業の適切な実施や期待された成果の達成については、これまでの行政が主体となって仕様を確定し固定報酬を支払う発注方式では十分な説明性が欠けていた可能性があった。PFSでは事業目的、取り組み内容、そしてその成果を評価し、評価結果に基づいて支払金額を決定するという方式を採用している(詳細は内閣府HP等を参照されたい)。
このPFSにおける事業設計や成果評価の仕組みに活用できるツールとしてロジック・モデルがある。ロジック・モデルは、PFSに限らず広く事業設計及び評価に用いることができるツールであり、事業がその目的を達成するに至るまでの論理的過程を図示したものである。目標から逆算して、必要な変化や成果、そのために必要な課題を整理し、ロジック・モデルを作成する。これまでの支援の中では、ロジック・モデルの作成によって「達成したい目標の中での優先順位付けができるようになった」「目標から逆算することで取り組まなければいけないことが明確になった」等の声が自治体及び民間事業者から聞こえている。また、ロジック・モデルは評価のためだけのものでなく、作成するプロセスそのものが合意形成や計画改善の過程でも役立つものといえる。
ロジック・モデルの中身を詳しくみていくと、事業の目標となる変化や効果はアウトカムとして図表中一番右に示されており、その達成に至る過程が「インプット」「活動」「アウトプット」として説明される。図表の例では、研修教材や講師、その場所(インプット)が提供されれば、それを基に、就労支援プログラムが開発され(活動)、さらにそのプログラムが開発されるという論理的なつながりで構成されている。この一連の繋がりが実現することでこのプロジェクトが目指す変化としてスキル習得や就労意欲の向上が引き起こされる(アウトカム)であろう、という仮説が立てられる。
PFSや自治体の事業においては、ロジック・モデルの整理だけでなく、アウトカムをどのような指標で測定するのかも重要な点である。事業分野によっては当該アウトカムを計測した前例が少なく、指標設定には関係者間での慎重な議論も必要である。内閣府では「PFSアウトカムリスト」を公表して参考情報を提供している。自治体におけるPFS事業やロジック・モデルを用いた事業設計及び評価は拡大途中であることから、様々な分野でのロジック・モデル事例等も参考にしながら、より多くの自治体での導入が期待される。
また、意図する変化の検証には定量的に測定可能な情報だけではなく、定性的な情報も有用である。例えば教育分野の事業で生徒の心的な変化についても軽視すべきではなく、アンケートやインタビュー結果として取りまとめ、他の定量指標とあわせて成果として示すことで、事業の説明責任の改善や事業計画及び実施の改善点の抽出に繋がる。
本稿ではここまでPFSの基本的な考え方及び事業計画の骨格となりうるロジック・モデルの枠組み等を紹介してきた。次号ではより具体的な例やロジック・モデル活用時の留意点等について紹介する。
(注)内閣府「成果連動型民間委託契約方式パンフレット」(令和5年8月14日アクセス)
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