月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2023年1月号 特集:これからの自治・地域をどう構想するか──beyondコロナの視点から

地方自治

2022.12.26

●特集:これからの自治・地域をどう構想するか──beyondコロナの視点から

2022年は激動の年だった。新型コロナのパンデミックが続く中、ロシアがウクライナに侵攻。冷戦後に築かれた国際的な政治・経済体制を大きく揺るがし、世界は混乱のただ中にある。また、深刻化する気候変動によって豪雨や干ばつが世界各地で多発。これらの影響などによるエネルギーや食料などの物価高騰が人々の生活を脅かしている。そうした中で迎える2023年。社会情勢の混沌はさらに深まりそうだが、一方で多くの国がwithコロナへと移行。コロナ禍による社会経済の変化を乗り越える模索が始まっている。日本では物価高や円安に加え、人口減少や少子化が加速し、デジタル化も進展。こうした中で、自治体はこれからの自治・地域をどう構想していけばいいのか。新年にあたり考えたい。

■これからの地方自治と分権改革
/大森 彌

大森 彌 東京大学名誉教授
地方分権改革は、少なくとも推進論者からは「未完の改革」だといわれてきたが、住民自治の実現は、それより遥かに迂遠な目標である。多くの住民が地域の課題解決を自治体任せにすれば住民自治の内実は形骸化する。地方自治とは住民自治の実現を希求する永続的な企てである。

■beyondコロナで自治体に問われること/大杉 覚

コロナ禍の経験は、主体的に「乗り越えるbeyond」という意思を持つことの大切さを気づ かせてくれたはずである。自治体としてなすべきことの多さ、目の前の業務の混乱ぶりに日々圧倒されそうななかで、無意識のうちであったかもしれないが、自治体が果たすべき使命、その姿、そこで筋を通すべき理念について何らかの気づきがあったはずである。

■加速するデジタル化と自治体ガバナンス/廣川聡美

自治体のデジタル技術導入が加速している。その背景には、人口減少・少子高齢化の進行と、自治体職員数の減少や、財政規模の縮小への危機感がある。だが、デジタル技術を導入するだけで課題が解決するわけではない。デジタル化と併せて、役所の仕事のスタイルや課題解決の方法などを根本的に見直す必要がある。それには、明確なビジョンと、周到な戦略が必要となる。

■コロナ禍と現場起点の政策形成/鏡 諭

コロナ禍により自治体政策が直面する課題は大きく広がった。そこで求められる、迅速性や合理性、経済性を加味しながらの対応には、出来得る限りのエビデンスが求められる。そうした要素を考えると、新たな課題に向き合うために、特に必要なものは現場性であると言えよう。現場で的確な情報を収集し、整理し、組み立て、対応策を実践していくことが求められるのである。

■beyondコロナとNPG/石原俊彦

NPGは、NPMの組織内部中心の論理や市場原理を推進力とする考え方から研究を解き放つものであり、公共サービス機関による公共サービス提供の関係性と協調性を探求するものである。PSLはNPGのロジックを発展的に構築させたもので、今日におけるNPG研究の核となっている。個々の住民の状況を十分に斟酌しようとする人間主義への回帰線がコロナのかなたには見える。

■危機の時代と自治体のリスク・コミュニケーション/吉川肇子

本稿では、リスク・コミュニケーションの視点から、二つのことを述べた。一つは、コミュニケーションの技術として、短期的に改善できること、もう一つは、組織のあり方に関する、長期的な課題である。長期的な課題は、すぐには解決できないが、解決しないままでいれば、Beyondコロナの時代を迎えることができたとしても、次に来る危機にも対応できない。

■地域政策・行政をめぐるポスト・コロナのあり方について―ーコミュニケーションの回復を/山下祐介

災禍はしばしば人々を後ろ向きにさせる。この21世紀の現代で生じた3年ものパンデミックという事態もまた、社会の質をネガティブなものへと変えてはいないか。それを差し止め、元通りに復していくこと。筆者が憂えるのはこの間に生じた社会全体の閉塞である。

■地域経済の活性化に向けて――創造的破壊から地域産業の再構築へ/関 幸子

人口減と高齢化が極端に同時進行する日本の社会にあっては、既存の発想や目の前の対処療法では、地域経済の立て直しは不可能に近い。一方で、目を凝らしてみれば、世界的温暖化やSDGsが浸透するなどの中で、日本が保有する自然資源や技術を活用することで、新たなビジネスチャンスも見込める。そこで、創造的破壊からイノベーションへと向かうために、地域経済の再構築と産業構造の新陳代謝を提案したい。

 

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
経験を共有しよう!
自治体職員コミュニティへの誘い

オンライン市役所、○○自主研、○○オフサイトミーティング、○○法務研究会…など、自治体の枠組みを越えた自治体職員のコミュニティがさまざまあります。そこに参加していなくても「あれのことかな?」と思い当たる人も多いかもしれません。
SNS が広がり、距離を越えてつながりやすくなったことで自治体職員同士のナレッジや経験を共有しやすい環境が整ってきています。
いよいよ2023 年の幕開け。今年は新しいことにチャレンジしよう!と思っている自治体職員も多いはず。さまざまな形の自治体職員コミュニティのその魅力について紹介します。
あなたも入ってみたいコミュニティ探しのきっかけになるかも!?

■自治体職員にとっての〝場〞とは/助川達也

「場づくり」とは何か。人と人とが集い関わり合う状態を「場」とし、そういった場をこしらえること、手を加えて整え、意義を持たせること、人と人を結びつけることで、場そのものを広げていくこと、こうした活動全般を「場づくり」と呼ぶ。場づくりは、対象となる人や場所などによって百場百様である。

■変化の時代に「進化力」を体験学習するコミュニティ/元吉由紀子

VUCAの変化に対して、自治体職員はどのように行動していけばよいだろうか。予測できなければ計画も立てられない、国の方針が決まってから動けばいい、と待っていたのでは地域の対策は手遅れになりかねない。人と組織が「進化力」を発揮するためのプロセスが必要になる。

■「オンライン市役所」で小さな経験のシェアを大きな価値に/屋敷昌範

オンライン市役所は地域や職場を超えて、全国の公務員と課題や悩みを相談したり、蓄積したノウハウを共有する場である。ぜひ多くの公務員の方に自分の経験を共有してもらいたい。あなたが些細だと思っている経験は誰かの力になるし、誰かの経験はあなたの地域の力になるだろう。

■自主研のススメ2023/坂本勝敏

自主研活動をすることで得られた最も大きな利点は、前向きに活動する同志とのネットワークを築くことができたことだ。様々な刺激を受け、自治体職員としてのモチベーションを高めることができた。コロナ禍も3年が経過し、ようやく日常を取り戻しつつある。自主研が活動しやすい環境が戻ってきたともいえる。これまでは自主研とは縁遠かった人でも、この機に自主研の世界に一歩踏み出したくなるよう、自主研をススメたい。

 

●連載

■管理職って面白い! アナロジー思考/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
組織は分かってくれない。そう言っている人ほど、組織はあなたのことを分かっているかもしれない/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/佐野友華里 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/吉村彼武人 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/竹村彰太郎 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/大石貴司(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
山梨崇仁・神奈川県葉山町長
環境を軸に子どもたちが将来に希望を持てるまちづくりを進める

ウインドサーフィンの選手から人事コンサルタントを経て、葉山町議会議員、そして2012 年に葉山町長に就任した山梨崇仁氏。ごみ問題をきっかけに、環境や防災などに協働のまちづくりを進めている。人口減少や気候変動にも「しっかりと向き合う政治家の覚悟が必要」と力を込めて語る。

山梨崇仁・神奈川県葉山町長(45)。人事コンサルタントの経験もある山梨町長は「組織は人から」と話し、「公務員はとても面白い仕事。住民に感動を与えられる仕事を目指してほしい」と力を込める。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
「論語」を古代中国語で──源頼朝たち転生者(二)

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
戸別の循環型農業から、村ごと循環システムへ──福島県葛尾村、「和牛の村」復活への道(下)
原発事故、続く模索㉞

稲作と同時に和牛を飼う農家が多かった福島県葛尾村。稲藁や田んぼの土手に生えた草を牛に食べさせ、堆肥を田に戻すという循環型農業が定着していた。だが、原発事故による避難で瓦解してしまう。帰村が始まっても、和牛の飼養再開は進まず、水稲の作付け面積も激減した。このままでは村が荒れてしまう。役場はやる気のある和牛農家の大規模化と、稲の飼料化へと舵を切り、これらで新たな循環システムの構築を目指す。

□現場発!自治体の「政策開発」
官民連携で電気料金削減とまちづくりへの還元を推進
──合同会社とみさとエナジー(千葉県富里市)

千葉県富里市は、公共施設の電気料金削減に向けて官民連携による特別目的会社(SPC)として「合同会社とみさとエナジー」を設立。電気事業者との長期継続契約で低廉で安定した電力供給を受け、そこで生み出された効果額をまちづくり事業に還元する取り組みを進めている。その一環として、市民に身近な生活道路の定期的なパトロールと簡易補修、路面状況調査に基づく舗装修繕工事を行う実証実験を実施した。

 

●Governance Focus

□COP27で何が議論され、焦点になったか/小西雅子
11月にエジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)。会期を延長し議論されたのは「損失と損害」への対応だ。一方、化石燃料全体の削減・廃止への 議論も白熱。これらを踏まえて日本の自治体に求められることも考えたい。

□霞堤から住宅地へ氾濫させないために──長野県千曲市、台風19号災害から3年の対策/葉上太郎
静岡県から福島県にかけて縦断した2019年10月の台風19号。長野県で千曲川を決壊させ、新幹線の車両基地を水没させるなどして衝撃を与えた。ただ、千曲川の中流部にある長野県千曲市では、霞堤に河川水があふれて治水機能を発揮し、下流部の被害を軽減させたと見られている。ところが、あふれた水は市街地にまで氾濫し、多数の住家を水没させた。あれから3年が過ぎ、霞堤内に遊水地を建設するなど新たな治水策が進められようとしている。

 

●Governance Topics

□自主研活動を再び盛り上げるきっかけに──関東自主研サミット2022
関東各地で活動してきた自主研究活動(自主研)グループが集う関東自主研サミット。長引くコロナ禍の中、活動は制限を余儀なくされてきた。間もなくやってくるアフター・コロナを見据え、自主研の活動を再び活発化させるきっかけづくりとして、自主研対抗「関東自主研サミット2022 大運動会」が11月26日に都内で開催された。久しぶりの対面での再会となり、各々の近況報告の場とこれからの自主研活動のリスタートの場となった。

□災害の体験をどう語り伝えていくか──あれから12年スペシャル
東日本大震災での自治体職員などの体験を語り継ぐイベント「あれからp12年スペシャル」が22年11月27日、仙台市で開催された。今回は3年ぶりに対面での実施となり、ワークシップを充実させて学び合った。

□「新時代の自治体戦略」をテーマに総合計画やDX、公共交通など多様なテーマで議論──地方行政実務学会第3回全国大会
自治体職員経験のある研究者と現役自治体職員による「地方行政実務学会」(理事長/稲継裕昭・早稲田大学教授)は22年12月3・4日の2日間、第3回目となる全国大会を京都橘大学で開催した。大会テーマは「新時代の自治体戦略」。オンラインでの配信も行ったが、会場での対面方式を基本に議論を深めた。

□先進事例に学ぶ「議会からの政策サイクル」──(公財)日本生産性本部 地方議会勉強会
(公財)日本生産性本部・地方議会改革プロジェクトは22年11 月17日、都内にて「『住民自治の根幹』としての議会〜議会からの政策サイクルを学ぶ〜」と題し、地方議会勉強会を開催した。当日は全国各地の地方議員が参加し、会場とオンラインの併用で行われた。

 

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □対話する議会・議員/佐藤 淳 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える/『母の聖戦』 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『コロナと女性の貧困2020─2022──サバイブする彼女たちの声を聞いた』樋田敦子]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
青森リンゴの流通を支える手作りの木箱──株式会社うばさわ(青森県板柳町)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
湖・森・里など多彩な地理条件を活かして豊かな体験と質の高い時間を届ける/滋賀県高島市
□山・海・暮・人/芥川 仁
自然と対話しながら暮らす──岩手県下閉伊郡普代村太田名部
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
「大根やぐら」が林立する宮崎の冬の風物詩
──宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム(宮崎県田野・清武地域)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ
/梅丸(神奈川県小田原市)


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■特別企画

・DXによって自治体改革をどう進めるか?⑥
開かれた県議会を目指しICTを活用して議会改革を加速──茨城県議会
・自治体LPガスが変える地域のミライ②
CN‒LPG導入で挑むCO2削減と持続可能な島づくり──山口県周防大島町



※「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。

 

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「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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