大阪府:GovTech大阪のシステム共同化 ~行政DXの推進を通じた住民QoLの向上や業務効率化と財政負担の緩和を目指して~(特集:システム共同利用のあり方 〜官民の先駆的事例から〜)

地方自治

2022.02.25

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2022年2月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

大阪府:GovTech大阪のシステム共同化 ~行政DXの推進を通じた住民QoLの向上や業務効率化と財政負担の緩和を目指して~
(特集:システム共同利用のあり方 〜官民の先駆的事例から〜)

大阪府スマートシティ戦略部戦略推進室 地域戦略推進課総括主査
中井 章太

月刊「J-LIS」2022年2月号

1 2021年度に3件の共同調達を実施

 大阪府と府内43市町村で構成する「GovTech大阪」1)では、2021年度に府内市町村のシステム等の共同調達の取り組みの第1弾として「自治体専用チャットツール」を23団体で、第2弾、第3弾として「電子申請システム」の共同調達を11団体で実施しました。

1)正式名称は「大阪市町村スマートシティ推進連絡会議」https://www.pref.osaka.lg.jp/digital_gyosei/govtechosaka/

 最近は他の都道府県や府外市町村から、「共同調達の詳細を教えて欲しい」など問い合わせをいただくことが増えました。本稿では、よくある質問に答えつつ、共同調達の実施に至った経緯やその内容をはじめ、来年度以降の予定、課題など幅広く紹介させていただきますので、少しでもヒントになれば幸いです。

2 共同調達に至った経緯(昔話)

 全国的には、域内市町村と負担金を集める形で予算を共有する協議会を持っている都道府県も多いと思います。大阪府も、かつては「e-Japan戦略」全盛の2002年に、府と市町村が共同でシステムの開発・運用などに取り組む全国初の実務型組織として「大阪電子自治体協議会(法人格なし、予算共有あり)」を設置し、複数のシステムを調達から運営まで担っていました。しかし、2014年度末をもって予算共有を廃止し、GovTech大阪の前身となる連絡会(法人格なし、予算共有なし)へと移行するとともに、LGWAN府域ネットワーク以外は共同調達を止めてしまった経緯があります。

 主な理由は、調達責任の所在です。当時、協議会会長は大阪府市長会の総務部会長あて職で兼務いただいておりましたが、法人格を持たない協議会が調達主体になろうとすると、代表者たる会長個人が調達責任を負うことになり、万一事業者との訴訟に発展した場合などに「たまたま持ち回りで会長職にあった市長に全責任を負わせて良いのか」がたびたび議論になっていました。スキーム上も、共同契約であったため、参加団体の途中脱退があった際に他の団体の負担金が上昇するといった課題を抱えていました。こうして大阪府の共同調達はいったん、大幅に後退しています。

 潮目が変わったのが、2019年度に吉村知事がスマートシティの実現を選挙公約に当選されたことです。2019年度末には大阪府市共同で「大阪スマートシティ戦略Ver1.0」2)を策定していますが、戦略の中ではスマートシティの目的として、住民QoL(生活の質)向上を目指すこと、そのために住民に近い市町村と連携して取り組むことが方針として打ち出されました。

2)https://www.pref.osaka.lg.jp/it-suishin/sc/index.html

3 覚悟を決めるまで

 戦略の実施主体として、2020年に大阪府スマートシティ戦略部が新設されましたが、当初からシステム共同化を所掌していたわけではなく、年度途中に覚悟をもって決めたことです。

 元々考えていた市町村支援のあり方は、「スマートシティ戦略推進補助金」と「市町村アドバイザー」の2本立てでした。当時の府内市町村アンケート調査でICT化が進まない要因を聞くと、財政面・人材面・情報面の順で回答がありました。そこで、財政面の支援として、府内初などモデル事業を支援する補助金を交付し、人材面・情報面の支援として、府がICT系コンサルに委託し、府職員とのタッグでヒアリングや研修を企画実施し、好事例の横展開や情報提供などを行う市町村アドバイザー制度を運用する。この両輪で回していくつもりでした。

 ところが、市町村アドバイザーで全43市町村にヒアリングを行う中で、コロナ禍を受けて大きく2点の課題が浮き彫りになりました。1点目は住民向けの電子申請システムを導入し、役所に出向かずにスマートフォンなどから各種申請や手続きを実施できる「行政手続きのオンライン化」を早急に進める必要があること。2点目は職員のテレワークの促進のため、LGWANに対応した「自治体専用チャットツール」の導入です。一方、コロナ禍を受けて財政状況は中長期的に悪化が避けられず、特に人口規模の小さい市町村からはシステム調達に対する財政的・人的負担が大きいとの声もありました。

 これに対するアプローチとして、行政DXの推進を通じた住民QoLの向上や業務効率化と財政負担の緩和を目指して、府が取りまとめて共同調達を実施することを決めた形です。ただ、実はこの時点(2020年9月)では自治体専用チャットツールも電子申請システムも予算要求すると決めていた団体は各4団体ほどしかありませんでした。かつての「大阪電子自治体協議会」は失われ、スキームの検討から始める必要があり、何団体ついてきてくれるか、良い調達結果に着地できるかも分からない。不安もありましたが、ワクチン接種対応などコロナ禍で負担が増加している府内市町村のため、これまで以上のことがしたいという想いもあり、何としても成功させようと覚悟を決めました。

4 共同調達の推進プロセス

 最も関心が高い項目と思いますので、今年度の例を参考に時系列順に詳しく紹介させていただきます。時期についてはこれでも遅いぐらいで、夏頃から次年度の予算要求に向けた協議が始まる団体もあるため、前倒しの必要性は感じています。

①共同化案件の選定(5~8月)

 GovTech大阪では毎年、6月頃から「自治体DX推進アンケート」を実施しています。この中で、次年度に向けたシステム共同化について、2段階で希望を確認しています。まず、1回目で対象ラインナップの追加について簡単なアンケートを行い、2回目で投票します。1位=2点、2位=1点として集計しています(図-1)

 このアンケート結果をベースに、国の動向(補助金や財政措置の有無)や、政策意義(コロナ対策に資するかなど)、足並みの揃いやすさ(未導入団体が多いかなど)、コストメリット(共同化でどの程度安くなりそうか)を加味して府が候補を決定します。

図-1 自治体DX推進アンケート

②アドバイザーヒアリング(8月)

 府内市町村を訪問し、ヒアリングしています。候補となるシステムについて、導入済の団体には使用感を、未導入の団体には希望する機能などを聞き取り、定性的な情報を補足していきます。

③機能比較表の作成(9月)

 RFIに近いものですが、市町村ニーズの高い機能への対応状況について、事業者3~5社程度に照会したうえで、結果をA3一枚ものにまとめています。これが仕様の骨子となります。

④共同見積もりの取得(9月)

 見積もりに必要な情報について市町村照会を実施したうえで、賛同してくれた市町村で共同見積もりを取得します。人口規模などに応じた価格表が明確な場合には不要なステップです。

⑤共同化検討会(9〜10月)

 先進自治体や複数事業者を招いた勉強会を3回程度開催し、府からは調達方針(LGWAN-ASP前提である旨、契約期間、仕様骨子など)の説明をします。目標は予算要求額の足並みを揃えることで、価格表や共同見積結果を踏まえて予算要求で最低限確保が必要なラインの認識合わせを行います。

⑥参加意向確認(10月)

 市町村照会を発出し、共同調達の参加を前提に予算要求を行うか否かを確認しています。以降は予算要求状況を随時確認していますが、後述の委任状の提出までは脱退自由としています。

⑦共同仕様の策定(10〜2月)

 先進団体の仕様書を集めつつ、先に策定した機能比較表や検討会等で聞き取った市町村ニーズを踏まえて、大阪府がたたきとなる案を策定しています。続いて、市町村の財政協議が終わった頃に意見照会や説明会を実施し、事務局案として固めたうえで、選定委員会に上程する流れです。この際、市町村からは「〇〇機能は必須機能にして欲しい」との要望を受けることが多いのですが、「複数社競争のうえ最良の提案を得る」ことを念頭に、対応できない事業者がある機能は任意機能(その分、配点を高める)にするなど調整しています。

⑧事業者選定委任状の提出(3月末)

 法的な効果は民法上の委任です。この段階で市町村には、共同調達に参加するか否かの最終意思決定を行ってもらっています。タイミングは原則、議会閉会後すぐを予定しています。

⑨選定委員会の開催

 プロポーザルは大阪府のルールに準拠して実施しています。相違点は大阪府が選定委員会を学識経験者などの外部委員3名以上で構成するところ、市町村委員も参加できるようにしていることです。

 スキーム上のポイントは、調達行為は大阪府の共同化事業として、条例・規則で定める知事の附属機関で実施することで、大阪電子自治体協議会時代にあった調達責任の課題を、大阪府が調達責任を負うという形で着地させていることです。また、LGWAN-ASPのパッケージ利用を前提に契約は各団体個別とすることで、構成員の脱退があった際に他の団体の負担が上昇しないよう対応しています(図-2)

図-2 GovTech大阪スキーム図と概要

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