大阪府:GovTech大阪のシステム共同化 ~行政DXの推進を通じた住民QoLの向上や業務効率化と財政負担の緩和を目指して~(特集:システム共同利用のあり方 〜官民の先駆的事例から〜)
地方自治
2022.02.25
目次
5 共同調達の効果
共同調達の結果、「自治体専用チャットツール」と「電子申請システムB」は株式会社南大阪電子計算センター(アプリケーション開発事業者:株式会社トラストバンク)、「電子申請システムA」は株式会社TKCにそれぞれ事業者決定しました。「自治体専用チャットツール」は23団体、「電子申請システム」は計11団体の導入につながり、いずれも一定のスケールメリットを発揮することができ、参加団体からは価格面はもちろんですが、「調達事務の負担軽減につながった」「大阪府が共同調達の旗を振ってくれたおかげで庁内調整が円滑に進んだ」といった人的負担面で喜びの声を多くいただいたことが励みになっています。
もちろん、大事なのはこれからです。単に「共同調達で安くなったね、良かったね」で終わりではなく、住民QoL向上や業務効率化といった本来の目的につなげるためには運用面の利活用を進めることが肝要です。例えば、電子申請システムであれば、良いシステムがあっても申請フォームが作られなければ意味がなく、良い申請フォームが作られても、それが住民に知られなければ意味がありません。運用面ではBPRや庁内調整、広報マーケティングなど多様な要素が絡みますので、隔月の事業者主催定例会などで参加団体間のノウハウや好事例の共有を行うことで、ネットワーク効果を発揮できればと考えており、ここはパートナーとなった事業者とともに進めていきます。
担当としては、住民QoL向上や業務効率化といった大義ももちろん大事ですが、まずは参加してくれた市町村の担当者に1年、2年先も「参加して良かった」と思ってもらいたいという意気込みで取り組みを進めています。
6 取り組みを通して見えてきた課題
最も悩ましい課題は、調達から参加してくれる当初参加団体への支援です。最初の調達時に何団体集まってくれるかでスケールメリットが左右されるわけですが、共同調達ならではの課題として、A市町村はA社、B市町村はB社が最適解となるケースにおいて、調達結果はA社かB社かはたまたC社か…市町村目線では単独調達の場合よりコントロールが効きづらい点が不安材料となります。この点の対策としては、リスクを負って府域全体のスケールメリットの発揮に協力してくれているわけですから、当然恩恵も必要と考え、2021年度から府の共同化補助金(住民サービス1/2または庁内改革1/3以内かつ500万円を上限)を新設しています。最近は、共同オンライン申請システムの導入の特別交付税措置のように国の財政措置も共同化が要件となっているものも出てきていますので、「リスクがある分、当初参加団体に入った方が充実した支援を受けられる」よう工夫しています。
次に、自治体規模による意見差です。例えば事業者選定基準の議論でも、人口規模の大きい団体は「機能8:価格2」で機能重視と答えるのに対し、人口規模の小さい団体は「機能5:価格5」で価格重視と、意見が割れるケースがあり、前例でいえば「機能2:価格1」前後を落とし所にしています。例外的に、汎用電子申請システムの場合は、元々大阪市の導入事例の横展開として、中核市をメインターゲットに考えていましたが、複数の団体から「小規模団体でも少ない予算でスモールスタートできるプランを組んで欲しい」との要望が上がりました。住民目線では、府域で同一システム同一UIに統一された方が分かりやすいのでジレンマもありましたが、電子申請システムは行政DXの中でも住民QoLに直結する最重要項目であり、そもそも取り組みが進まなければ意味がないと判断し、2つのプランに分けて調達しています。結果的に、2021年度は市町村アドバイザーと共同調達3件で計4件のプロポーザルを同時並行で進めるという前代未聞の経験をさせてもらいましたが、グループ内の若手の頑張りもあり、いずれの共同調達も良い結果が得られたと実感しています。
7 今後のビジョン
システム共同化は今後も案件の拡大を続ける予定です。現在、2022年度に向け「文書管理・電子決裁システム」の共同調達を準備しています。府内市町村でも、過半数が電子決裁までは導入できておらず、テレワーク推進を筆頭に、はんこレス&ペーパーレスの推進、書庫の圧縮、公文書の適正管理など様々な観点から行政DXの基盤として需要が高まっているものです。
一方、既存グループの拡大も重要なミッションです。GovTech大阪の調達は原則5年に1回です。既契約の契約期間が残っているなどの理由で当初から参加できない団体もあるため、調達翌年度以降からの後乗り参加も認めています。現在、2022年度からの後乗り参加を募集しているところですが、自治体専用チャットツールは7団体、電子申請システムについては計18団体が予算要求中であり、いずれも30団体近くのグループに拡大する見込みです。
スキームの面では懸念もあります。現行スキームでは、案件を増やすたびに大阪府の事務局負担が雪だるま式に増加していくことが目に見えていることです。幸い、現在は優秀な若手が揃っているので何とか回っていますが、将来的なことを考えると、府のマンパワーで対応できる範囲内で新規案件を打ち切るか、協議会や一部事務組合などを受け皿に市町村からも人的負担を求めるなど、スキームを再構築することも検討しなければならないと考えています。この点は、他の都道府県とも理想的なスキーム像について意見交換しながら模索していきたいです。
8 競争から共創へ
コロナ禍で少子化が一層加速し、自治体職員も減少と高齢化が進む中で、行政DXを通じた労働生産性の向上は必要不可欠です。併せて、自治体間のあり方も共創を前提に考えていかないと立ち行かない時代が迫っていると感じています。つまり、お互いに恥やプライドやライバル心はある程度横に置いておいて、「共に新しい価値を創る行政仲間」として、どんどんノウハウや好事例、失敗談を共有していければという趣旨です。この点、昨今は「LoGoチャット」や「共創プラットフォーム」など、自治体間、政府と自治体間が本音で意見交換できる共創の環境が生まれてきています。大阪府からも、目的外利用しないことを前提に受領している事業者提案資料(価格含む)など例外を除き、本稿に関する仕様書や公告資料、市町村向け説明資料は提供させていただく所存ですので、お気軽にお声がけください。
また、共創は事業者との関係でも同様です。今後のGovTech大阪の共同調達でも、サービスデザインを重視し、運用する自治体職員やその先の住民の姿に思いを馳せながら、共に歩んでいただける事業者にパートナーとして参加いただければと考えています。
Profile
中井 章太 なかい・しょうた
金融機関の法人営業を経て2012年に大阪府へ入庁。準備室のメンバーとして、スマートシティ戦略部の立ち上げから携わる。論文「若者の貧困化と少子化のメカニズム」「少子化の都道府県格差要因としての若年男性雇用」、共著「人口減少社会における地域ブランド戦略」。