議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第60回 地方議会法制はこのままで良いのか?

地方自治

2022.01.13

本記事は、月刊『ガバナンス』2021年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 1月中旬、駒林良則・立命館大学法学部教授の退職記念講演を、オンライン上ではあったが聴講した。

 駒林教授とは、公的には大津市議会基本条例の制定にあたり、2014年1月に立命館大学と締結したパートナーシップ協定に基づき、専門的知見からの助言をお願いしたご縁である。

 私的には、駒林教授が主宰している「議会事務局研究会」で、大津市議会の「会議規則の条例化」についての報告を求められて、そのまま入会させられた(?)ご縁もある。

 今号では、退職記念講義を聴講して感じたところを記したい。

■退職記念講義の概要

 講義は、「地方議会─法的展開と今後」と題して、地方議会に法制の観点からアプローチしたものであった。議会運営の実務や議会改革の理論の視点からの講演は数多く聴いてきたが、地方議会法制に絞っての講義は新鮮であった。

 その概要は、特に議会運営の基本原則や議会の自律権については、国会のアナロジーとして地方議会を捉える傾向があり、標準会議規則に縛られ、法に書いていないことはできないという思考に囚われてきたがゆえに、画一的な組織・運営がなされてきた。だが、画一的な議会制度は限界にきており、国会の法原理とは明確に一線を画し、「地方議会法」の法領域を考えるべきと主張する。

 そのうえで、大津市議会も既に行った会議規則の条例化は、議会が自らの判断で自らに適した議会組織・運営を考えるようになった表れとして評価すべきとされた。なお、講義の主旨は、教授の新刊『地方自治組織法制の変容と地方議会』にも詳述されている。

 他にはオンライン議会についても言及し、コロナ禍のような例外状況で発動するオプションとしての制度化と、地方自治法(以下「地自法」)改正の必要性を示唆された。

■地方議会法制に関する私見

 私自身、当時の議会事務局に異動してきた時に、国会の議事運営を主張の根拠にしようとすることや、議会運営の主たるルールが規則形式で定められていることに違和感を覚えた記憶がある。

 国会の先例を根拠とする実務解説もあるが、国会は議院内閣制における立法機関、地方議会は二元的代表制における議事機関であって、設置根拠自体が異なり、法的に統制を受ける関係性にもない。

 また、憲法16条に根拠をおく重要な権利である請願に関する手続きが、住民の直接請求権が及ばない規則という法形式に定められているなど、議会法制に疑問を感じたことが、大津市議会の会議規則の条例化につながっている。

 非常時対応としてのオンライン議会についても同様の思いがあり、議会への住民参加の主旨に鑑みると、常用すべきものとは思えない。しかし、専決処分回避のためには必要な選択肢であり、実現には地自法改正が必須だと私も考えている。

 何よりも、コロナ禍のような外的要因のほか、議員のなり手不足問題など内的要因の課題にも対処するためには、地自法制定時とは状況の変化があり、一部改正では限界を感じる。地自法は実務法として特化し、その上位に議会や議員の位置付けを明記した理念法を別途整備する地方議会法制の抜本的な見直しが、時代の要請だと考えているのは、決して私だけではなかったことに、意を強くした次第である。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第61回「「地方が国を変える」とはどういうことか?」は2022年2月10日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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