月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2021年5月号 特集:自治体ガバナンスの20年

地方自治

2021.04.30

●特集:自治体ガバナンスの20年

小誌『月刊ガバナンス』の創刊は2001年5月。地方分権改革が熱を帯び、情報公開や市民参加の仕組みが整えられ、NPO法人が次々に誕生するなど、自治体を取り巻くステークホルダーが力をつけていく中で、「共治=共に地域をつくる」という想いを誌名に込めた。それから20年。自治体をめぐるガバナンス(国全体の統治機構〈国・地方関係〉、自治体〈行政・議会・市民〉、行政〈首長・管理機構と職員〉という三つのガバナンス)はどう進んできたのか。その現在位置とこれからの方向性を探ってみたい。

〈北川正恭・早稲田大学名誉教授に聞く〉
■官民、県・市町村の境をなくし、行政や政治のあり方を根本から見直すべき

自治体ガバナンスはこの20年間でどこまで進化(深化)してきたのか。国会議員・三重県知事・早稲田大学教授(現名誉教授)として地方分権の推進に注力してきた北川正恭氏は、人口減少社会に向け、官民、県・市町村の境をなくし、「行政や政治のあり方を根本から見直すべきだ」と語る。

北川正恭 早稲田大学名誉教授

官民は境を取り、協働でやることと、市町村境や県境を取っ払うことは、デジタルの技術でかなり可能になってきている。行政や政治のあり方を根本から見直すことが行われなければ、地方創生は夢のまた夢になる。

■自治体ガバナンスと首長・職員/富野暉一郎

分権改革後の社会の動向は、市民主権が有効に社会改革に結び付く理想的な状況には必ずしもない。2000年分権から20年を過ぎた今、改めて地方分権改革が目指した地域住民が主体となる協働型社会のローカルガバナンスという原点に立ち戻り、首長と職員が地域の市民社会の公益を実現するための政策をめぐって、公益に即した公務における実務の在り方を市民と共に創出する新たな活動を進め、分権型社会のガバナンスを深めることを期待したい。

■分権改革と国・地方関係のガバナンス/礒崎初仁

第1次分権改革の成果として地方分権一括法が施行されたのが2000年。この改革を追いかけるように翌年、本誌が創刊された。その後、三位一体改革や第2期分権改革も進められた。これらの分権改革は、国・地方関係を「上下主従」から「対等協力」の関係に転換しようとするものであった。この間、平成の市町村合併、東日本大震災の復興、地方創生の取組みも進められた。これらの取組みによって国・地方関係はどう変わったのか、新型コロナウイルス対策のあり方を含めて、分権型の国・地方関係をどう築くべきか、マクロな視点で考える

■地域社会のガバナンス(協治)と多様性/長畑 誠

さらに複雑さを増すであろうコロナ後の社会においては、一部の専門家だけに頼り、自治体の単一の担当部局だけで考えても、実効的な政策施策は生まれないだろう。危機の時代だからこそ、多様な人々による対話の場を通じて、新しい社会のあり方を共に考えていくことが必要だ。「開かれた対話の場」を通じて多様性が参画や協働に繋がり、それぞれの自治体独自の協治が育まれていくことを願っている。

■これからの自治体ガバナンス
 ──「民営化」「政治主導」「科学依存」「データ主義」の時代を見据えて/上山信一

自治体や政府のあり方を「ガバナンス」の視点から考えるようになったのはこの20~30年であろう。かつては「ガバメント」、つまり官庁組織、法律、予算が主な課題だった。それがやがて公共のあり方については「ガバメントからガバナンスへ(以下「ガバナンス論」)」の鍵概念のもとで政府だけでなくNPO、市民団体、受託企業等も含めて考えるように変わってきた。その意味で「ガバナンス論」は運動論として成功したといえよう。だが「ガバナンス論」は今、転機にある。今回はその意味と展望を考えたい。

■自治体ガバナンスにおける監査制度/石原俊彦

自治体ガバナンスにおける監査制度の改革を、ハードロー(地方自治法の改正)に基づく改革を介して検討するだけではなく、ソフトロー(監査基準)やその運用、さらには、監査委員独自の創意工夫を介して検討することが重要になる。それゆえ、自治体ガバナンスを支える監査関係の人材には、ますます、より柔軟で変化に対応できる人財が求められることになる。

■参加ガバナンスはどこまで進化したか/坪郷 實

人口減少社会は、ますます多様化する市民が主体であり、複合的な政策課題に直面しているゆえ、参加ガバナンスのさらなる進化を必要としている。自治体議会の政策サイクルにおいて、自治体の総合計画づくりにおいて、市民参加で、人口減少社会における複合的な政策課題を熟議し、都市空間の再構築、再活性化を図る戦略を練り上げていくときである。

■自治体運営のガバナンスと対話の未来
 ──オンラインを活用した対話が地域の未来を拓く/佐藤 淳

自治体運営のガバナンスにオンラインによる対話を活用するか否かは、技術的な問題ではなく、適応を必要とする問題だ。新しい現実に向き合い、変化をチャンスと前向きに意味づけ、適応できるかどうかに地域の未来はかかっている。オンラインを活用した対話の広がりは、地域のガバナンスのあり方を大きく変えるかもしれない。

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
男性職員も育休を!

性別を問わず誰でも育児休業を取得できる環境整備を──。
自治体でも育休取得は、いまだ女性にかなり偏重しています。
取得率は実に、女性職員99.8%に対し、男性職員は8.0%(2019年度)。増加傾向にあるとはいえ、男性の育休取得は、まだまだ途上です。
男性が積極的に乳幼児期の育児に関われば、女性のキャリア形成に寄与するだけでなく、男性自身のライフ・ワーク・バランスの充実、さらには、子どもの育ちにも好影響を与えることでしょう。
多様性のある社会の形成も視野に、男性職員の育休制度の現在地を見ていきます。

〈インタビュー〉育休経験者・山田正人さんに聞く
■男性の育休にデメリットは見当たらない

男性が育児休業を取得すると、どんな効果があるのだろうか。まだ男性の育休取得率が1%にも満たない2004年に、1年間の育休を取得して3人の子育てに励んだ元横浜市副市長で現在は内閣府規制改革推進室規制改革・行政改革担当大臣直轄チーム参事官の山田正人さんに、当時の経験から見える男性の育休について聞いた。

〈取材リポート〉
◆ジェンダーギャップ解消に向け全庁体制で男性の育児休業取得支援/兵庫県豊岡市

兵庫県豊岡市は、2019年1月に策定した「豊岡市役所キャリアデザインアクションプラン」に基づき、すべての職員が働きやすく働きがいのある職場づくりに取り組んでいる。そこで掲げた三つの柱の一つがジェンダーギャップの解消で、その一環として男性職員の育児休業取得を全庁体制で支援。「22年度までに育児休業取得率100%」という目標に向け、取り組みを進めている。

◆男性職員の育休取得が当たり前の雰囲気づくりに成功/茨城県龍ケ崎市

男性職員が育児休業を取得する際の壁の一つに、職場の理解不足がある。あまり男性職員は育休を取得していないから、取りづらいよな……。そんな不安や戸惑いを持つ必要のない職場の雰囲気づくりに成功したのが、茨城県龍ケ崎市だ。中山一生市長の育休取得を契機に、市は男性職員も育休を取得するよう粘り強く取り組みを継続。その結果、2015年度に育休取得率100%を達成し、今でも高水準をキープしている。

●連載

■管理職って面白い! アンカリング/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
 業務改善の父に教わった「市民のために」、「市民とともに」の大切さ/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/佐藤直子
■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■次世代職員から見た自治の世界/吉村彼武人
■“三方よし”の職場づくり/河合敏和
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■新型コロナウイルス感染症と政策法務/澤 俊晴
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
五十嵐立青・茨城県つくば市長
 「世界のあしたが見えるまち」の実現を

1期目の市長選マニフェストに82項目の事業を掲げ、その9割以上が「達成」「順調」だった茨城県つくば市の五十嵐立青市長。昨年10月に再選を果たし、「市民第一の市政」、そして「世界のあしたが見えるまち」の実現に向けて邁進中だ。

五十嵐立青・茨城県つくば市長(42)。2016年の市長就任以来、「誰一人取り残さない」という思いを胸に、対話を重ねながら「市民第一の市政」、そして「世界のあしたが見えるまち」の実現を目指して邁進している。その使命感が全身からあふれる市長だ。

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 小早川隆景(一) 汚濁の世に芳香を放つ

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
 残った若者が新たな挑戦を始める【11年目の課題・田村市都路(下)】
 原発事故、続く模索

避難を機に若者が急減し、地域が存続していけるかどうか見通しが立たなくなった福島県田村市の都路地区。だが、残った若者の中では、子ども達が住みたくなるような土地にするにはどうしたらいいかを模索する動きが出始めた。震災をチャンスに結びつけ、最先端技術で和牛繁殖に取り組む若手もいる。彼らの挑戦は都路に光をもたらすのか。

□現場発!自治体の「政策開発」
 空き家対策と移住促進で社会人口の増加を実現
 ──あったか住まいるバンク+移住促進策(栃木県栃木市)

栃木県栃木市は、空き家の適正管理と有効活用、発生の抑制に向けて総合的な空き家対策を推進し、その一環として空き家・空き地バンクを開設している。所有者と利用者を結びつけて空き家を減らし、良好な生活環境の保全と地域活性化を図るのがねらいだ。移住体験施設や手厚い補助金などで移住・定住を促進しているのも特徴で、首都圏の子育て世代などから支持を得て転入者が増えており、まちに活気が生まれている。

□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
 改革の加速に、他自治体の現役職員を「議会改革アドバイザー」に委嘱
 ──茨城県阿見町議会&取手市議会

茨城県阿見町議会は4月10日、同役場内で「議会改革アドバイザー委嘱状交付式」を開催した。アドバイザーに委嘱されたのは近隣の取手市議会事務局の職員。現役の自治体職員が他の議会でアドバイザーを務めるのは全国初とみられる。議会同士の連携・交流としても今後の取組みと成果が注目される。

●Governance Topics

□新分散型社会の実現へ──AIを活用したペルソナ未来予測分析
 「人口減少対策アクションプラン2021」を公表(広島県福山市)
 /鴫田浩伸+福田幸二+広井良典

近年、人口減少をめぐる課題は全国の自治体において最重要テーマの一つとなっているが、広島県福山市では、ペルソナマーケティングの手法を用いた人口減少対策を進めてきた。このたび、同市はこの手法とAI(人工知能)を活用した未来シミュレーションを組み合わせ、京都大学及び株式会社日立製作所との共同研究として、「AIを活用したペルソナ未来予測分析」と題する報告書及び「福山みらい創造ビジョン~人口減少対策アクションプラン2021~」を公表した。ここではその概要を紹介する。

□「地方議会評価モデル」説明会を開催/(公財)日本生産性本部

(公財)日本生産性本部は3月29日、オンラインで「地方議会評価モデル」説明会を開催した。説明会には全国の地方議員や事務局職員など約100人が参加。議会改革の取組みを住民福祉の向上につなげる地方議会評価モデルへの関心の高まりをうかがわせる説明会となった。

□コロナ禍でも「カイゼン」は続く!/カイゼン・サミット2020【オンライン版】

コロナ禍で開催が延期された20年度の「全国都市改善改革実践事例発表会」の代替イベントとなる「カイゼン・サミット2020【オンライン版】」が3月27日、開催された。昨年12月と今年2月に続く第3弾。今回はコロナ禍の中での取り組み事例も紹介され、こういうときだからこそ「カイゼン」マインドが大切であることを再認識させるものとなった。

●Governance Focus

□再エネ拡大急ぐ国、調和に悩む市町村──「脱炭素」と自治体現場/河野博子

「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」。昨年10月、菅義偉首相の宣言により、国の施策の一丁目一番地となった「脱炭素」。実際にその成否の鍵を握るのは自治体だ。環境省が行う制度変更により、「再生可能エネルギーの普及拡大と自然環境・地域社会との共生」という難題が基礎自治体の肩にのしかかる。

●連載

□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□今からはじめる!自治体マーケティング/岩永洋平
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□From the Cinema その映画から世界が見える
 『迷子になった拳』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『仕事の楽しさは自分でつくる!公務員の働き方デザイン』島田正樹]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
 使い方が変わってきても桶を作り続ける
 ──遠藤芳子さん(桶職人)(福島県いわき市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ/富山県朝日町
 山に抱かれ、緑と風を感じ、森の力に癒される──福岡県篠栗町
□山・海・暮・人/芥川 仁
 風土に馴染む農と暮らし──京都府宮津市上世屋
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
 豊富な湧水が生み出すわさび田──静岡県わさび栽培地域
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/花田舞太郎(広島県北広島町)
□クローズ・アップ
 互いの強みを活かして「宇宙×地方創生」を推進
 ──佐賀県とJAXAが連携協力協定を締結

■DATA・BANK2021 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!

*「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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