法令概要_公益通報者保護法の一部を改正する法律
地方自治
2021.03.08
目次
2 通報対象事実の範囲
改正後の法第2条第3項
【改正後の法 抜粋】
(定義)
第二条 略
2 略
3 この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。
一 個人この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号以下この項において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実
二 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)
4 略
これまでは、通報対象事実は、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律に違反する犯罪行為若しくは最終的に刑罰に繋がる行為が生じ、又はまさに生じようとしていること、つまり一定の法律違反行為である必要がありました。
しかし、制裁が行政罰にとどまるものであっても、是正の必要性があるという認識の高まりを受け、改正法により法及び法別表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実も通報対象事実に追加されることとなりました。
なお、法別表第8号の委任を受けて行政罰の規定のある法律を通報対象事実に追加する政令は、未公布です。
3 損害賠償責任の免責
改正後の法第7条
【改正後の法 抜粋】
(損害賠償の制限)
第七条 第二条第一項各号に定める事業者は、第三条各号及び前条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。
公益通報により発生した損害について賠償を請求された公益通報者は、法を適用しても損害賠償義務を免れることができないため、事業者に当該損害について賠償を請求される事例が発生していました。
今回の改正により、公益通報により事業者に生じた損害について、公益通報者は損害賠償義務を免れる規定が新設されることとなりました。ただし、公益通報者が損害賠償義務を免れるには、公益通報であるだけでは足りず、公益通報者が労働者及び退職者にあっては改正後の法第3条各号、役員にあっては改正後の法第6条各号の要件を満たしている必要があります。
【参考】
(解雇の無効)
第三条 公益通報者労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合当該労務提供先等役務提供先等に対する公益通報
二 通報対象事実が生じ、又は、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関行政機関等に対する公益通報
イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
ロ 当該通報対象事実の内容
ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 第一号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
ニハ 労務提供先役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ホニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は労務提供先等役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ヘホ 個人の生命又は身体に危害若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。以下このヘにおいて同じ。)の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。第六条第二号ロ及び第三号ロにおいて同じ。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(役員を解任された場合の損害賠償請求)
第六条 役員である公益通報者は、次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として第二条第一項第四号に定める事業者から解任された場合には、当該事業者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報
二 次のいずれかに該当する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報
イ 調査是正措置(善良な管理者と同一の注意をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置をいう。次号イにおいて同じ。)をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
三 次のいずれかに該当する場合 その者に対し通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 調査是正措置をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合
(1) 前二号に定める公益通報をすれば解任、報酬の減額その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(2) 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(3) 役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
4 権限を有する行政機関への公益通報の保護要件
改正後の法第3条第2号
【改正後の法 抜粋】
(解雇の無効)
第三条 公益通報者労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
一 略
二 通報対象事実が生じ、又は、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関行政機関等に対する公益通報
イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
ロ 当該通報対象事実の内容
ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由
三 略
これまでは、行政機関に公益通報をした公益通報者の解雇を無効とする場合は、単なる憶測や伝聞ではなく、公益通報の内容が真実であることを裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述等の通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合とされていました。
しかし、公益通報に当たってその真実相当性の判断が難しいとの指摘があったことから、今回の改正により通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料し、かつ、氏名や通報対象事実の内容等を記載した書面(電子メール等を含む。)を提出した場合も行政機関に公益通報をした公益通報者の解雇を無効とする場合に追加されることとなりました。
5 報道機関等への公益通報の保護要件
改正後の法第3条第3号
【改正後の法 抜粋】
(解雇の無効)
第三条 公益通報者労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
一・二 略
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 第一号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
ニハ 労務提供先役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ホニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は労務提供先等役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ヘホ 個人の生命又は身体に危害若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。以下このヘにおいて同じ。)の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。第六条第二号ロ及び第三号ロにおいて同じ。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
これまで報道機関等に公益通報をした公益通報者の解雇を無効とする場合に、事業者に公益通報をすると公益通報者が特定される事項が漏れる可能性が高い場合及び財産に対する損害が生じる場合については含まれていませんでした。
報道機関等に対する公益通報の活用によりそのような事案を未然に防止するため、今回の改正により次に掲げる場合が追加されることとなりました。
・公益通報をすると、事業者が公益通報者を特定させる事項をそれと知りながら漏えいすると信じるに足りる相当の理由がある場合(改正後の法第3条第3号ハ)
・個人の財産に対する回復困難又は重大な損害が生じる急迫した危険があると信じるに足りる相当の理由がある場合(改正後の法第3条第3号へ)