法令概要_公益通報者保護法の一部を改正する法律
地方自治
2021.03.08
目次
公益通報者保護法の一部を改正する法律
公益通報者保護法 法令概要
○ 公益通報者保護法の一部を改正する法律〔法令概要〕
公布年月日番号
令和2年6月12日法律 第51号
施行年月日
①公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日
②公布の日
<はじめに>
公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号。以下「改正法」といいます。)が令和2年6月12日に公布され、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることとなりました。改正法の施行期日を定める政令は、本稿の執筆時現在において未公布ですが、令和2年8月版の消費者庁『公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A(改正法Q&A)』(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_200828_0001.pdf)Q1によれば、令和4年の施行が見込まれています。
公益通報者保護法(平成16年法律第122号。以下「法」といいます。)の制定後、消費者庁により法の施行状況調査、ガイドラインの策定、改正、制度の周知、広報等の制度の実効性向上に必要な対応が行われてきたところです。その間、大企業や行政機関を中心として内部通報制度の整備が進むなど制度の普及が進んだ一方、その実効性に課題があり、公益通報制度が十分に機能していれば早期の是正を期待し得た事業者の不祥事が後を絶たない状況にあることから、消費者庁及び消費者委員会により法改正に向けた検討会が行われてきました。今回の改正は、こうした制度の実効性向上に向けた取組や調整の結果として行われるものです。
本稿では、改正法の概要について取り上げます。
<概要>
改正法の概要は、次のとおりです。
1公益通報者の範囲の拡大
改正後の法第2条第1項、第5条第3項及び第6条
【改正後の法抜粋】
(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる当該各号に定める事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。))(以下「役務提供先」という。)又は当該労務提供先当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員(法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令(法律及び法律に基づく命令をいう。以下同じ。)の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)をいう。以下同じ。)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先当該役務提供先若しくは当該労務提供先当該役務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等役務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者(次条第二号及び第六条第二号において「行政機関等」という。)又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先当該役務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号及び第六条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一 労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)又は労働者であった者 当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前一年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)
一 当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二 派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)又は派遣労働者であった者 当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。第四条及び第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前一年以内に受けていた事業者
二 当該労働者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受ける事業者
三 前二号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前一年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者 当該他の事業者
三 前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
四 役員 次に掲げる事業者
イ 当該役員に職務を行わせる事業者
ロ イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
2~4 略
(不利益取扱いの禁止)
第五条 略
2 略
3 第二条第一項第四号に定める事業者(同号イに掲げる事業者に限る。次条及び第八条第四項において同じ。)は、その職務を行わせ、又は行わせていた公益通報者が次条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、報酬の減額その他不利益な取扱い(解任を除く。)をしてはならない。
(役員を解任された場合の損害賠償請求)
第六条 役員である公益通報者は、次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として第二条第一項第四号に定める事業者から解任された場合には、当該事業者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報
二 次のいずれかに該当する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報
イ 調査是正措置(善良な管理者と同一の注意をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置をいう。次号イにおいて同じ。)をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
三 次のいずれかに該当する場合 その者に対し通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 調査是正措置をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合
(1) 前二号に定める公益通報をすれば解任、報酬の減額その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(2) 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(3) 役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
改正前の法においては、公益通報をした労働基準法(昭和22年法律49号)第9条に規定する労働者(正社員、派遣労働者、請負労働者等。公務員も含まれます。)のみが公益通報者として規定されていました。改正前の法による保護の対象外である退職者や役員による通報が期待された事案が発生する一方、それらの者が公益通報を理由として不利益な取扱いを受ける事例の発生を受けて、改正法により過去1年以内に雇用・契約関係にあった退職者及び法人の取締役、執行役等の役員(会計監査人や退任した役員を除く。)も公益通報者の範囲に追加されることとなりました。
また、法第2条第1項中「労務提供先」を「役務提供先」に改正する用語の整理が行われています。