月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2020年8月号 特集 連携と共生―ウィズコロナ時代の地域経営

地方自治

2020.08.04

●特集 連携と共生―ウィズコロナ時代の地域経営

新型コロナウイルスのパンデミックは世界の情勢を一変させた。日本においては4月に全国に緊急事態宣言が発出され、その後、5月下旬から段階的に解除されたが、いつ第2波、第3波の感染拡大が起こるのか予断を許さない状況だ。感染拡大に伴い、不要不急の外出や営業、そして都道府県をまたぐ交流も自粛を要請された。これまで「連携と共生」をめざしてきた都市と地方の関係も再構築を迫られるのではないか。ウィズコロナ時代の地域経営を展望したい。

月刊「ガバナンス」2020年8月号

広井良典氏(京都大学こころの未来研究センター教授)

■ウィズコロナ時代と分散型福祉社会/広井良典(京都大学こころの未来研究センター教授)

新型コロナウイルスの感染拡大で世の中が大きく変わった。状況はなお刻々と変化しており、今後も継続的な注意が必要である一方、「コロナ後の世界」についての議論も活発になっている。ここでは、日本社会の未来に関するAI(人工知能)を活用したシミュレーションの内容にもふれながら、ウィズコロナ時代の展望についての私見を述べてみたい。

■ウィズコロナ時代の地域経営──“快適インフラ”作りと創造都市戦略/上山信一(慶應大学総合政策学部教授)

コロナを機にリモートワークが広がる。これを機に「都心のオフィス街は衰退し郊外が見直される」とか「東京一極集中が終わる」という見通しも出ている。リモートワークだけではない。オンライン診療や大学のオンライン講義など、今まで規制や慣習が障害でできなかったことが一気に実現しつつあり、時間が10年前倒しになった感がある。やってみると確かにリモートやキャッシュレスは快適だ。みんながいったん便利さを知って使い始めるともう元には戻らない。おりしもDX(デジタル・トランスフォーメーション)の時代だ。2000年以降生まれのミレニアル世代を中心にウィズコロナの新しいサービス、ビジネス、そして制度が生まれ、定着しつつある。本稿ではそうした流れが地域をどう変えるか、自治体や企業はそれにどう対応し、またチャンスをどう取り込むべきか考えたい。

■都道府県間の広域連携と共生の再構築/新川達郎(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)

都道府県が個別に対応し、それを超える問題は国が対応するという構図の破綻が、感染症対策や、あるいはそれ以前からの自然災害対策、また地方創生にかかわる地域の持続可能性問題などで明らかになってきた。従来型の方策に代わって、都道府県間の「連携と共生」が強調されるゆえんでもある。基本は、都道府県間の協議の仕組みから出発しつつ、府県の主体性と協調を確保すること、そして緊急事態における連携を組み込むこと、それらを実行していくことができる対応体制づくりが求められる。

■広域自治体と基礎自治体との連携・共生──北海道からの教訓/山崎幹根(北海道大学公共政策大学院教授)

今回のコロナウイルス対策を振り返れば、広域自治体と基礎自治体との間での、情報の非対称性に起因する危機認識の差と、感染防止を重視しトップダウン型で自粛要請を発する広域自治体と、地域住民と接していることから多くの要因を考慮しなければならない基礎自治体との役割の違いが露呈した。それゆえに、両者のギャップを埋める情報共有と密接な意思疎通が不可欠となる。

■ウィズコロナ時代の政策立案/佐藤 徹(高崎経済大学地域政策学部・大学院地域政策研究科教授)

依然としてコロナの収束が見通せない中で、今後、感染拡大が深刻化し、再び緊急事態宣言が発出されることも想定される。それではウィズコロナ時代には、どのような政策立案のあり方が求められるのであろうか。自治体や地域によって感染状況や医療体制等が異なるものの、急速に事態が悪化することも懸念されるため、できるかぎりオンラインで対応できるようにしておくべきであろう。

■ウィズコロナ時代の自治体職員の働き方/太田 肇(同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授)

新型コロナウイルスが一種の外圧となって、厚い「岩盤」に穴を開けようとしている。いうまでもなくウイルスへの感染は、住民にとっても職員にとっても大きな脅威だ。感染を防ぐために、人と人とを分け、職場と人とを分けることを余儀なくされた。この「分ける」という言葉こそ、これからの働き方を考えるうえで重要なキーワードであり、そのポイントになる考え方が「役割と行動の切り離し」である。

■ウィズコロナ時代の介護・福祉施設/鏡 諭(淑徳大学コミュニティ政策学部学部長・教授)

新型コロナウイルスの感染対策は、これからも継続して行わなければならないだろう。そのためには、自治体はまず医療と福祉を含めた医療福祉の連携体制の構築が必要となる。あわせて、施設間の介護職員の応援体制の構築は、施設自体の介護崩壊を防ぐ意味では、どうしても必要な政策となる。同時に、介護報酬の引き上げ等により介護職場の人的余裕の創出は、緊急時に向けて必要である。

■ウィズコロナ時代の多文化共生/田村太郎(一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事)

ウィズコロナの時代の入り口において、自治体はこれまで培ってきた海外とのつながりを大切にしながら、いまも地域で暮らしている外国人住民の暮らしを支え抜くことと、新しい様式での外国人観光客受入れに向けた戦略を練ることに全力を注ぐべきだ。また首長は、外国人との共生や海外とのつながりを継続させることが、ウィズコロナの時代においても地域を持続可能なものとするうえで不可欠であるということを、地域住民に対して丁寧に説明し、理解を得るために労力を注いで欲しい。

■新型コロナウイルス対策と自治体の財政運営/小西砂千夫(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)

自治体は、新型コロナウイルス対策で、財政調整基金を減らすことを怖れて、対策を制限してはならない。それが財政運営の基本姿勢である。自治体の財政担当者は、金蔵の扉を開け、事業課をけしかけてでも、新型コロナウイルス対策のための諸事業を積極的に執行すべきである。財政担当の意識を非常時モードに切り替えることが問われている。

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
「複合災害」を回避する──コロナ禍での避難法

近年、毎年のように日本を襲う豪雨災害。コロナ禍の中で、複合的にこうした災害が起きたらどうなるのか。国や自治体で対策を進めつつある中で梅雨末期の豪雨災害が九州を中心に今年も発生してしまいました。それでも終息が見えないコロナ禍の状況とともに、今後の台風などを考えればまだまだ油断はできません。withコロナ時代の災害時の避難のあり方や避難所の運営方法などについて改めて考えてみます。

■コロナ禍での避難法──「複合災害」を避けるために/秦 康範(山梨大学准教授)

「『避難』とは難を避ける行動のことです。避難所に行くことだけが避難ではありません」。2020年5月15日、日本災害情報学会が発表した避難に関する提言の最も重要なメッセージである。コロナ禍であろうとなかろうと、風水害時の避難について基本的な考え方は何も変わらない。これが提言をとりまとめた同学会の基本的な認識である。コロナ禍で災害時の避難に関心が高まっている今だからこそ、あらためて住民一人ひとりに災害時の「避難」について考えてもらいたい。対策を推進する行政自身も災害時の避難のあり方を再認識する必要がある。

■コロナ禍の避難所運営が問いかける地域防災と自治体/浅野幸子(減災と男女共同参画研修推進センター共同代表)

コロナ禍では「3密」を避けるための「分散避難」が基本となり、在宅や車中泊、未指定の避難所で過ごす人たちの支援も重要だ。これは、復興力や持続可能なまちづくりに直結する課題でもある。被災者支援は生活に密着した地域内やその近くで行う方が効率の良いことが多い。コロナ禍での自治体防災対策は、自治領域の適正規模と、自治体と住民の協働の仕組みを見直すよう行政に迫る側面があると捉えるべきではないだろうか。

〈取材リポート〉

■「台風15号」受け、コロナ禍対応の避難所運営方針を早期に策定/千葉県南房総市

千葉県南房総市は4月20日、「新型コロナウイルス感染症に対応した避難所運営について」(Ver.1)(以下、「新型コロナ対応マニュアル」)を策定した。その1週間前の13日、同市に大雨警報と土砂災害警戒情報が出され、市は新型コロナウイルス禍の中で初となる避難勧告を発出。最終的に避難者の受け入れはなかったが、計7か所で感染症対策を考慮しながら避難所を開設した。この経験も踏まえ、避難所運営における新型コロナウイルス対策を急ピッチに検討。他の自治体に先駆け緊急事態宣言中の策定となった。

■市民の“気づき”を重視した水害対応ガイドブックを作成/愛知県清須市

15年の水防法改正に伴う新たなハザードマップづくりが各自治体で進められている。何よりも重要なのは、作成されたマップをいかに市民の適切な避難行動に結びつけられるか。愛知県清須市は従来からこの点を重視し、「気づきマップ」「逃げどきマップ」「浸水深マップ」という3種類の地図などで構成される「水害対応ガイドブック」を発行している。今年5月に全戸配布された改訂版でも、よりいっそう見やすさを追求するなど、随所に工夫がなされている。


●キャリサポ連載

■管理職って面白い! 初対面が苦手な人へ/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
 つながりにより得られた貴重な機会──本を出版して感じたこと/後藤好邦

■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/泉澤佐江子
■AI時代の自治体人事戦略/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■独立機動遊軍 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■We are ASAGOiNG ! 地域公務員ライフ/馬袋真紀
■ファシリテーションdeコミュニケーション/加留部貴行
■“三方よし”の職場づくり/松田美幸
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会

●巻頭グラビア

泉 房穂氏(兵庫県明石市長)

□シリーズ・自治の貌
 泉 房穂・兵庫県明石市長
 汗と知恵で、「市民の暮らし全力で支えます」

「市民の暮らし全力で支えます」──「広報あかし」5月1日号の表紙に力強く記された。この言葉通り、兵庫県明石市は新型コロナ対応として学生や個人商店、生活困窮者などに対する独自の支援策を実施。泉房穂市長は、市民の悲痛な声を受け止めた職員が汗と知恵で応えてきたと話す。

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 細川幽斎(五) 新しい世をつくる武士たち

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
 追い詰められた末、逆転する【「福島醤油」日本一の情景(5)】
 原発事故、続く模索

福島県白河市には二つの醤油蔵がある。共に震災で蔵が損壊するなどして大打撃を受けた。そもそももうかる産業ではなく、投資は難しい。このうちの一店は廃業を決意した。だが、補助金で建て直せると知り、ラストチャンスに懸けた。結果として、古くから住み着いていた菌が作用する「蔵癖」がなくなり、全国醤油品評会で入賞を繰り返すようになった。もう一つの蔵は、逆に蔵癖を生かし、地域の味を究めようと試みを始めた。

□現場発!自治体の「政策開発」
 全国初、誰もが楽しめる安全・安心なビーチを実現
 ──ユニバーサルビーチ(茨城県大洗町)

関東で高い人気の海水浴場を擁する茨城県大洗町は、ライフセーバーのクラブや地元住民と連携して安全・安心なビーチづくりを進めている。ライフセーバーが中心となって、海岸の清掃活動や子ども向け教育プログラムなどに取り組んでいるのも特徴だ。さらに、障がい者が利用できる施設や水陸両用車椅子を導入したユニバーサルビーチを全国で初めて開設し、誰もが楽しめるアミューズメントビーチをめざしている。

□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
 常任委員会の審議をオンラインで実施──福島県磐梯町議会

福島県磐梯町議会は6月9日、6月定例会の常任委員会の審議をオンラインで実施した。試行とはいえ、議事録に残る審議。町議会ではタブレットの導入でペーパーレス化を進めるとともに9月頃には委員会条例を改正し、オンラインによる委員会開催を軌道に乗せる予定だ。町が進めるデジタル変革戦略と相まって町議会のオンライン化は一気に加速。小さな町の大いなる挑戦を取材した。

●Governance Focus

□太陽光発電による地域環境のかく乱は止まるか(下)
 市町続々「調和条例」を制定 気候災害多発で課題も/河野博子(ジャーナリスト)

国の環境影響評価(環境アセス)制度の対象に、新たに太陽光発電事業が加わった。一方、地域の景観や自然環境との「調和」や「適正な設置」を求め、メガソーラー出現を抑制する条例を設ける市や町の動きが急だ。ふるさとが誇る景観が損なわれないか。近年頻発する豪雨の際に被害を悪化させるのではないか――。地域住民の心配は尽きない。課題は多い。

□コロナ禍で明らかになった自治体危機管理の課題と展望(下)
 本格的医療ロジスティクス確立に向けて今やるべきこと/福田 充(日本大学危機管理学部教授)

2020年に入り世界に感染拡大した新型コロナウイルスのパンデミック。日本政府は5月末に緊急事態宣言を解除し、コロナ対策は次のステージへと移行した。今号では、これからの第2ステージにおいて自治体がやらねばならない対策と残された課題について考察する。

●Governance Topics

□「議会はいま、何をなすべきか」をテーマに連続オンライン研修会を開催
 ――LM推進連盟・マニフェスト大賞実行委員会

超党派の地方議員などで構成するローカル・マニフェスト(LM)推進連盟・マニフェスト大賞実行委員会は5月20日、6月13日、7月1日の3日間にわたって、オンライン研修会「シリーズ『議会非常事態宣言!?』――議会はいま、何をなすべきか」を開催した。研修会ではコロナ禍の中でのオンライン会議の導入や議会BCPの発動などをめぐって議論。コロナ禍において3密を回避しつつ、いかに議会機能を発揮していくかが強調された。

●連載

□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□自治体のダウンスケーリング戦略/大杉 覚
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『自治体の公共施設マネジメント担当になったら読む本』志村高史]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
 天然素材と言われる絹糸はすべて人工飼育
 ──蚕種製造・兵頭眞通さん(愛媛蚕種株式会社)(愛媛県八幡浜市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ/福島県北塩原村
 宝の山「磐梯山」を抱く湖沼の郷
□山・海・暮・人/芥川 仁
 百姓も楽しみでやらないけんのよ──愛媛県西予市城川町遊子川
□土木写真部が行く~暮らしを支える土木構造物
 観音瀬水路~宮崎の物流を物語る土木遺産
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/からす天狗のてんまる(奈良県山添村)
□クローズ・アップ
 敵味方なく慰霊する「仁」の精神
 ──福島県白河市、戊辰戦争150周年を機に再評価が始まる

■DATA・BANK2020

自治体の最新動向をコンパクトに紹介!

 

※「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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