自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[31]北海道胆振東部地震と地震防災対策

NEW地方自治

2020.09.30

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[31]北海道胆振東部地震と地震防災対策

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2018年10月号) 

 2018年9月6日午前3時7分、北海道胆振地方中東部を震源とする地震が発生し、厚真町で震度7、安平町、むかわ町で震度6強、札幌市をはじめ広範囲で震度5強以上を記録した。

 この地震による死者は41人に上る(北海道庁調べ。9月10日現在)。また、その後の北海道全域・最大295万戸の停電で被災地以外でも、病院や福祉施設などでは厳しい状況に陥り、日常生活にも大きな不便をきたした。

 また、前号で取り上げた西日本豪雨災害後、9月4日には台風21号が上陸し9人が亡くなった。関西電力の管内では800本以上の電柱が倒れ、多くの電線も切れた。停電は延べ200万戸以上に及んだ。9月10日午後3時時点でも1万戸超が停電している。

 お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災されたみなさま、関係されるみなさまに、心からのお見舞いを申し上げる。

亡くなった人の声を聴く

 私たちは、防災対策を考える時、直近の災害に引きずられやすい。今回の台風、及び地震災害では停電が大きな問題となった。そして、停電対策の重要性が電力会社から家庭に至るまでメディアに大きく取り上げられた。停電及び断水により、トイレ、水、食料、交通など生活に大きな支障をきたしたからである。

 特に厳しかったのは、透析や人工呼吸器を利用された人々である。停電により大きな影響と不安を与えたことは間違いない。

 しかし、現時点で停電が原因で亡くなった人はいない。北海道胆振東部地震に関して言えば、震度7を観測した厚真町で大規模な土砂崩れが発生し、36人の犠牲者が出たが、その大半は押しつぶされた家屋から見つかっている。家具等の下敷きになって亡くなった人もいる。

 もし、亡くなった人の声を聴くことができるならば、最優先対策として電力や水、食料の備蓄を言うであろうか。恐らく、最も大事なことは、安全な場所に住み、家を強くし、家具の下敷きにならないようにすることだ、と言うはずだ。

 防災対策の目的は、なんといっても死者をなくすことである。今後、発生する可能性が高い大地震対策として最も重要なことは、住宅の立地対策、耐震化、家具転倒防止を中核として、就寝中であっても、起きているときであっても、最初の揺れから命を守れる準備をすることである。

 立地面においてはハザードマップを活用して、できるだけ安全な場所に引っ越すしかないが、簡単ではない。

 方向性としては、中山間地では、高齢化が進展し空き家が増えているので地域全体のコンパクト化と安全性、利便性の確保を進める都市計画が必要になるだろう。これには、住民の思いをすり合わせ、合意形成する時間が必要だ。行政が粘り強く働きかけ、背中を押し続ける覚悟が重要になる。

 耐震化については、個人負担が発生することから経費面が大きな課題になる。補助率の引き上げや都市計画による誘導などを進めることが重要である。これにも、実際に制度を整え、予算を確保し、事業者に耐震補強講習をするなどが必要で、成果が表れるのに時間を要するだろう。だからといって、手を拱いていては全く進まない。耐震化促進計画のPDCAサイクルを回しながら、着実に目標に向かって進める必要がある。

 一方、予算をかけずに直ちにできることとして、賃貸住宅の耐震性公表を提案したい。

 現行制度では、旧耐震基準の1981年6月より前に建築確認を受けた物件については、耐震診断をした場合、その結果を重要事項説明書に明記することが、2006年から義務づけられている。一方で、耐震診断を受けなければ、耐震性の有無を明らかにする必要はない。

 これでは、借り手は賃貸住宅物件の耐震性が全く分からない。高校までの学校教育では、建物の耐震性について学ぶ機会がないうえ、耐震性の告知や表示がないのだから、賃貸住宅選択の指標にならないのは当然だ。

 この結果、オーナーが耐震化するためのインセンティブがまったく働かず、逆に、耐震診断をしないという方向に事態が進んでしまっている。危ない物件ほど耐震診断をしない恐れがあるという現在の制度は早く変えなければならない。

 この状況を変えるためには、耐震診断をしていない木造賃貸物件については、建築確認を取った時期に応じて3段階の表示を義務づけることを提案する。震度7を2度も観測した熊本県益城町では、新耐震基準が取り入れられた1981年6月以降の物件でも倒壊が相次いでいる。特に、阪神・淡路大震災後に、柱と梁の接合部分を金属の補強材で止めることなどが義務づけられた2000年6月より前の物件の被害が目立った。

 そこで、次のような表示を重要事項説明、できれば広告に義務付けることを提案する。
①建築確認が1981年6月より前の物件:「耐震性は極めて弱いと推定される」
②建築確認が1981年6月以降、2000年6月より前の物件:「耐震性は不明である」
③建築確認が2000年6月以降の物件:「耐震性があると推定される」

 「耐震性が極めて弱い」や「耐震性が不明」となる物件のオーナーは、空室が増えるために、耐震補強または建替えによって耐震化を進めるか、あるいは売却するかのいずれかを選ぶ。新たなオーナーは、そのままでは借り手がいないことから、いずれにせよ耐震化するであろう。

 このように、賃貸住宅の耐震性を公表するだけで、公的経費を使うことなく民間の力で耐震化が進むことが期待できる。同時に、建物の外観も、建替えや耐震補強と同時に整えられることから、まち全体が美しく魅力的になる。まさに、防災対策でまちの魅力増進につながるのである。

災害関連死を防止する

 高齢社会では、災害関連死が特に重要な課題だ。熊本地震では直接死が50人に対し関連死が218人(熊本県庁調べ。2018年8月30日現在)と4倍以上に上っている。関連死の多くは高齢者だ。今後、北海道胆振東部地震においても、避難所生活などで生活不活発病になりやすい高齢者等への支援を充実することが重要になる。

 東日本大震災や熊本地震では、災害前に地域の中で張り合いをもって仕事、家庭生活やコミュニティ活動をしていた高齢者等が、避難生活が長くなるにつれ、支援慣れをして自立度が下がる傾向が生まれた。被災後にコミュニティのメンバーが避難所やみなし仮設などにバラバラに住むようになり、平常時に行われていたコミュニティの様々な行事が少なくなってくる。そうなると高齢者等が外に出かける理由や用事がなくなってくる。

 また、介護予防や健康診断が行われないことで、自立度が下がりやすくなる。その結果、高齢者等が生き甲斐を持てなくなると同時に介護度が上がり、国保会計、介護保険会計の負担が大幅に増加し、市町村の財政を大きく圧迫していく。

 これを防ぐためには、早い段階で復興後の生活を見据えて、保健師や理学療法士、作業療法士の増員など医療・保健・介護予防の専門的取組みを強化するとともに、高齢者等の見守り制度をつくることが必要だ。また、地域コミュニティによる見守り、声かけ、茶話会など非制度的支援の充実も重要である。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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