自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[36]災害時の自治体議会、議員の役割
地方自治
2020.10.28
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[36]災害時の自治体議会、議員の役割
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2019年3月号)
議会と災害
全国の自治体議会(以下、「議会」という)で3月は第1回定例会の真っ最中である。通常の議会審議に加え、予算特別委員会での質疑、数多くの条例案や契約議案審議、請願陳情の審査など多忙を極める時期だ。加えて、4月には統一地方選が控えている。筆者も4年前、板橋区議会事務局長を務めていて、この時期の緊張感を身をもって感じていた。
しかし、災害時の議会のあり方については、災害対策基本法に議会、議員に触れる条文が皆無であるなど法制度上も実態的にも明確ではない。唯一、地方自治法において「非常の災害による応急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は感染症予防のために必要な経費」を、長が再議に付しても「議会の議決がなお同号に掲げる経費を削除し又は減額したとき」は、長はその議決を不信任の議決とみなすことができる旨の規定がある。これは、災害対策における長の優越を認めた規定とみなせる。
そして8年前の3月11日に東日本大震災が発生した。
この時の被災自治体及び議会へのヒアリング、その後の議員とのワークショップ等により得られた知見により、災害時の議会・議員の役割について考察をする。
議会の災害対応の規定状況
自治体議会改革フォーラムは、災害時の議会、議員の行動について東日本大震災以後、3回にわたって調査した。その結果は下記のとおりである。
年々増加しているものの、全体としては低調と言わざるを得ない。
議員のアンケート結果
全国市町村国際文化研修所は、「防災と議員の役割」研修を実施していて、2015年度からは、筆者も講師として携わっている。そこでは講義とともに、グループワークを通じて災害時における議会・議員活動の「集合知」の形成を目指している。集合知とは、専門家による知よりも、むしろ一定の条件が整った場合には素人の「衆知」が正解に近いことをいう。
2015年度、2016年度の集合知の成果を活かし、2017年度は議員研修アンケート(全数70)を行った。その結果から見える議会・議員がなすべきこと、してはならないことを端的に紹介したい。
議会がするべきこと
1位 災害時の議会・議員活動方針策定(66)
2位 情報の一元化(64)
3位 行政に負担をかけない議会運営(57)
4位 平時の防災特別委員会(56)
議会がしてはならないこと
1位 行政に負担をかける議会運営(長時間、出席者多数、多くの資料請求)(62)
2位 応急対策への批判的質疑(53)
3位 災害直後の議会開催(48)
議員がするべきこと
1位 情報収集・提供(68)
2位 地域支援活動(68)
3位 国等関係機関への要望(50)
4位 視察の受入(35)
議員がしてはならないこと
1位 行政職員を威嚇(68)
2位 支援者への利益誘導(63)
3位 行政批判(62)
4位 他議員の活動批判(55)
*カッコ内は票数、複数回答可
今後、議会が災害時の議会、議員のルールを策定するときには、ぜひ参考にしていただきたい。
災害時に議会、議員がすべきこと
(1)情報収集・伝達の一元化
自治体の首長や幹部職員から話を聞くと、災害時だからといって議会を軽視することはないが、とにかく時間がないという。
議員もこのような事情は十分に承知しており、大多数の議員は自制的な行動をとる。しかし、自制するよりも強く要望することで存在感を示そうとする議員がいた場合、これに行政が誠実に応えれば応えるほど、言ったもの勝ちという望ましくない状況に陥る。
現状では、議員要望への制度面での歯止めはない。そこで、執行機関がどの議員にも公平な対応をするためには、議員要望の伝達先、取りまとめなどの窓口を議長や議会事務局等に一元化するなどの仕組みが必要だ。なお、二次災害の危険性があったり、被災者の生死にかかわる緊急事態が生じたりした場合は、この限りではない。
一方、議員は、日常の政治活動等を通じて、自治体職員よりも地域住民と密接な関係を築いている。そこで、地域の情報をこの窓口を通じて災害対策本部に伝えるとともに、災害対策本部の情報を広く地域住民に届けることが重要な役割となる。
(2)復興計画策定への関与
復興計画を議決事件に追加している自治体もある。議決事件にすることで、復興計画は民主的なプロセスを踏み、正統性をより強く確保できる。しかし、復興計画を議決事件にすると、議会において十分な審議、議決を経ているので、その分、すぐには変更を行いにくいという硬直的な面もある。
一方で、復興時は前提条件が大きく変化したり、新しい法律、補助金制度が作られることが多々ある。このような状況変化があることを踏まえると、復興計画を議決事件にするのは課題がある。むしろ、復興ビジョンのような大きな枠組みを議決し、個別具体的な計画は、状況の変化に応じて柔軟に変えられるようにしたほうが、補助金の申請などをしやすくなる。
(3)災害時の議会・議員活動の基本的方向性
東日本大震災の被災自治体では、早期に議会を再開し、平常時の延長で執行機関に資料や説明要求をし、監視機能と政策立案機能を発揮しようとした議会があった。課長級の職員は災害対応後、夜に議員の質問取り、答弁書の作成、翌早朝に市長ヒアリング、答弁書の修正を行った。同時に、災害対策本部資料作成、本部会議出席、災害対応業務の指揮監督と続く。議員は平常時と同様に、執行機関の監視を行うが、災害対応は平常時のようには公平性、効率性を発揮することが難しい。そうなると、議会と執行機関の対立関係が生まれ、執行機関のエネルギーが議会対応に割かれる事態に陥った。
一方で、議会としての活動は困難であっても、議長や議員がそれぞれに持てる力を十二分に発揮して、執行機関と協力して災害対策を行った事例もあり、大きな効果を上げている。
これらを敷衍すると、議会の役割を監視機能と政策立案機能と観念的・固定的に考えるのではなく、災害時、特に応急対策の時期には、執行機関と議会が協力して目の前の課題解決を求める姿勢が重要である。
平常時において、議会は首長を支援するいわゆる与党と反対する野党で構成されていて、与党は執行機関に協力して首長の政策実施を支援するのが通例だ。また、政策立案の過程においては、執行機関と議会・議員との間で十分な事前調整がなされることも多い。すなわち、平常時においても執行機関と議会が協力して課題解決に向かって政策を実施している。
まして、人命がかかっていたり、住民生活が極限まで困窮している災害時においては、執行機関と与野党を含めた議会が協力して、早期に困難を乗り越えようとするのが当然ではないだろうか。
災害時に、議会が執行機関と協力して政策立案を行えるためには、日常から政策立案のシステムを持ち、議会内部で合意形成をする取組みが根付いている必要がある。政策立案能力を高めようとする議会改革の進展は、災害時には、より効果を発揮する。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。