自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[18]タイムライン
地方自治
2020.07.08
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[18]タイムライン
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2017年9月号)
大規模水災害が猛威を振るっている。前号で伝えた2017年6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号に続き、7月22日からの梅雨前線に伴う大雨、台風第5号による大規模水災害が発生し、表1のような被害をもたらした。被災されたみなさまには、改めて心からお見舞いを申し上げる。
タイムライン導入の経緯
水災害の被害を減らすために注目されているのが「タイムライン」である。タイムラインとは、災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画である。
2012年10月、米国ニュージャージー州・ニューヨーク州に上陸したハリケーン・サンディは、大都市を直撃、地下鉄や地下空間への浸水をはじめ、交通機関の麻痺、ビジネス活動の停止など甚大な被害をもたらした。ニューヨーク州知事らは「被害の発生を前提とした防災」として事前にタイムラインを策定しており、タイムラインをもとに住民避難に対する対策を行ったことで、ハリケーンによる被害を最小限に抑えたと言われている。
この事例をもとにわが国でも、国、地方自治体、企業、住民等が連携してタイムラインを策定することにより、災害時に連携した対応を行うようになってきた。
タイムラインの現状と効果の事例
国土交通省は、国管理河川を対象に、避難勧告等の発令に着目したタイムラインを2020年度までに河川の氾濫により浸水するおそれある730市区町村で策定し、さらに本格的なタイムラインを全国展開していく予定だ。
2016年7月時点で、避難勧告等の発令に着目したタイムラインは570市区町村で策定されている。また、本格的なタイムラインは14か所において、自治体、インフラの管理者(道路、鉄道、下水道、電力、ガス、通信等)、警察、消防、自衛隊、関係企業等の防災関係機関と連携し、福祉施設からの避難、鉄道の運行停止等の災害発生前に実施する災害応急対策への取り組みが進められ、その検証も実施されている。
2015年関東・東北豪雨災害では、タイムライン策定市町村の避難勧告等発令割合は72%、タイムライン未策定市町村は33%となっており、タイムライン策定済みの方が、発令率が高い傾向となった(出典:タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)、国土交通省、2016年8月)。
タイムラインの作成方法
上述の「タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)」によるタイムラインの作成方法を紹介する。
ステップ1:対象とする自然災害及び解決したい課題の設定
タイムラインの策定にあたっては、地域や防災関係機関が抱える防災上の課題を踏まえて、タイムラインの対象とする自然災害及び解決したい課題を設定する。
ステップ2:防災関係機関等の抽出と検討の〝場〟の設置
タイムラインの策定にあたっては、ステップ1で設定した課題の解決に必要な防災関係機関を抽出し、タイムラインの策定作業への参加を呼びかける。また、防災関係機関間で情報共有、意思統一を図るともに、参加者が主体的にタイムラインの策定に関わることができるよう、タイムラインの策定作業を行う協議会等の検討の〝場〟を設ける。
ステップ3:対象災害の想定とイメージの共有
ステップ2で抽出した防災関係機関間で、ステップ1で設定した「タイムラインの策定の対象とする自然災害」の具体的な状況をイメージし、共有する。
ステップ4:実施すべき防災行動(何を)の抽出
ステップ3で確認された災害の状況に対して、災害発生時に防災関係機関が実施すべき防災行動を網羅的に抽出する。
ステップ5:実施すべき防災行動(何を)の整理
ステップ4で抽出した実施すべき防災行動を、ツリー形式や表形式などで整理して見える化する。
ステップ6:防災行動を担当する機関(誰が)及び開始時期(いつ)の決定
ステップ5で整理された防災行動について、担当する機関及び開始時期を決定する。
ステップ7:とりまとめ
ステップ4~6の検討の結果を踏まえて、実施すべき防災行動を実施主体ごとに時系列で並べ、タイムラインとしてとりまとめる。
【タイムラインのふりかえり(検証)】
タイムラインは以下の点に留意して活用する。
①災害時:既存の防災計画等と併せて活用すること、災害対応後のふりかえり(検証)に必要となるクロノジー(年表)を作成することが重要である。
②災害後:策定したタイムラインとクロノジーの比較や、防災行動を実施した事象をもとにふりかえり(検証)を行い、「新たな災害の状況とその対応に必要な防災行動」「やるべきであったのにできなかったこと」「やっておけばよかったこと」などを抽出し、必要に応じタイムラインに反映させることが重要である。
③平常時:平常時から防災訓練や研修等を通じて、タイムラインを効率的に運用できるよう備えることが重要である。
なお、ふりかえり(検証)は、特定の者の責任を追及するものではなく、次の災害に向けて防災行動や災害後の対応を強化するためのものである。
今後のタイムライン
福岡県朝倉市黒川のある地区では、ほとんどの住宅が濁流に流されてしまったが、前々から住民たちは大雨のときは「○○さんの家に避難しよう」と決めていたので、1人の犠牲者も出さなかった。そのときの集合写真を撮影させていただいた。
7月22日からの梅雨前線に伴う大雨で人的被害のなかった秋田市の職員からは、住民が九州北部豪雨の状況を知っていて、地域リーダーの声掛けなどで早めに避難していたことが大きかったとうかがった。
このように、防災はやはり現場の住民が行動することが重要である。タイムラインは公助の計画として進んできたが、地域の住民レベルの動きはまだほとんどない。国土交通省と自治体がタイムラインの考え方、手法を地域の住民と一緒になって進めることで、さらに効果を高めると考える。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。