議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第15回 「ナンバーワン」を目指すことがウケ狙いなのか?
地方自治
2020.07.09
議会局「軍師」論のススメ
第15回 「ナンバーワン」を目指すことがウケ狙いなのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2017年6月号)
*写真は琵琶湖の情景。
ナンバーワンを目指す意義
私が企業誘致やベンチャー企業の育成支援を担当していた産業政策課時代に、ある有名なベンチャー企業社長の話を聴講したときのことである。
その社長は、ある国民的アイドルグループの代表曲が大嫌いだと言われた。その理由は明快で、「人はもともと特別なオンリーワンの存在だから、ナンバーワンにならなくてもいい」という趣旨の歌詞に対して、「オンリーワンとは、それぞれの分野でのナンバーワンのことではないのか。成功している起業家は皆、血のにじむような努力をしている。誰もが最初からオンリーワンの存在であるはずがない」と。また、「花屋の店先に並んだ花は、その中で争うこともせず皆誇らしげにしている」というフレーズに対しても、「花屋の店先に並ぶまでに、どれだけの花が選別処分されていると思いますか。花屋の店先の花は、既に競争を勝ち抜いたエリート。そんな甘いことを言っているから、日本の製造業は中国や韓国に負けてしまうんだ」と憤慨されていた。
だが、これは決して製造業の世界だけの話ではない。同様の意識は、全国の議会の世界においても「横並び意識」として根付いている。トップランナーは、自分の前や横に、他者の姿を見ることはない究極の少数派である。つまり、横並びを志向した時点で、ナンバーワンになることはないということだ。
横並び意識の罪
大津市議会の施策は、「議会意思決定条例」「議会ミッションロードマップ」「議会BCP」「大学図書館との連携による議会図書室改革」など、全国初と評される取り組みが多いのが特徴である。一方で、それを「ウケ狙い」「新しい物好き」などと揶揄する向きもあるが、1番と2番以下の差は大きい。それは、全国初の議会基本条例を制定した議会のことは、議会人であれば常識レベルだが、2番目の議会になるとほとんど知られていないことからもわかる。もちろん、1番を志向しても現実に1番になれることなど多くはない。しかし、結果的に同じ2番であっても、横並び意識の下での仕事と、1番を目指した結果の2番の仕事では、自ずとクオリティーが異なってくる。
議会で横並び意識が強いと感じさせる例としては、議事機関の本質とは縁遠い詳細なことまで、多数の照会がくることだ。もちろん、改革や政策立案にあたって先進事例を調査する意義自体を否定するものではない。確かに先進事例の模倣から始めれば、白紙の状態から検討するよりも短期間で高い水準の成果を実現できるメリットは大きい。政策や議会運営手法に著作権はなく、模倣は決して非難されるものではない。しかし、時代が常に進歩している分、後発組は新たなメリットを付加しなければ、相対的に先行組よりも遅れたものにしかならない。
また、先進事例といえども妄信すべきではなく、あくまで検討材料の一つに留め、自ら考える姿勢を失ってはいけない。なぜなら、それらは確実に過去のものであり、今となっては時代遅れかもしれず、また、先進議会の規模、置かれた地域性の中では最適解であっても、それらの前提が異なれば最適解は別にあると考えるほうが自然だからだ。
いずれにしても、コピーがオリジナルを超えることはない。大事なのは「横並び」を志向せず、常に先進であろうとする意識ではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。