議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第27回 議会改革の「はじめの一歩」と「これから」とは何か?
地方自治
2020.10.01
議会局「軍師」論のススメ
第27回 議会改革の「はじめの一歩」と「これから」とは何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2018年6月号)
*写真は大津市議会局提供。
私は2年間にわたり、北川正恭・早稲田大学名誉教授を顧問に、江藤俊昭・山梨学院大学教授を座長とする「地方議会の政策サイクルと評価モデル研究会」(日本生産性本部主催)に参画した。研究会では、議会改革の方向性のほか、議会による政策サイクルの構築と展開、議会活動評価の標準モデル構築を目指して議論がされてきた。
4月には、同研究会の成果報告の場として「地方議会議員フォーラム2018」が開催され、登壇の機会もいただいた。今号ではフォーラムで議論されたテーマについて、補足して思うところを述べたい。
■議会改革の「はじめの一歩」
パネルディスカッションのテーマ1「政策サイクルの展開と議会評価のはじめの一歩」では、これから改革に臨む議会へのアドバイスが主題であった。
最も重要なことは、議会内での合意形成文化の醸成である。なぜなら議会改革は、小異を捨てて大同につく、良い意味での「妥協」の精神が議会内に根付かなければ、進展が望めないからである。そのためには、大きく分けて二つのアプローチが考えられる。
一つは「ピンチをチャンスに転化すること」である。その実現例としては、政務活動費の不正で批判された多くの議会では、事後対応の結果として、少なくとも当該分野での改革は劇的に進展していることが挙げられる。
大津市においても、いじめ事件への個別対応で飽和状態となった執行機関に代わり、将来を見据えた再発防止策として「大津市いじめ防止条例」を議員提案で制定したことがある。それを契機に、大津市議会では政策条例制定を主軸に据えた政策サイクルが回り始めた。当該自治体や議会の弱みへの対応策の検討が、有効な改革の起点となることは間違いない。
二つ目は「一点豪華主義での強みの発信」である。大津市議会では政策立案機能強化の一環として、当時珍しかった議会と大学の連携関係を確立した。
以降、専門的知見の活用が、議会からの政策立案における方程式として、大津市議会では定着した。それがマニフェスト大賞受賞へとつながり、議会内部で議会改革を進めようとする機運も高まった。両者は一見正反対に思えるアプローチであるが、いずれも一点突破の全面展開戦術であるところで共通する。
■議会改革の「これから」
テーマ2「先進議会のこれから」の主題である、これからの議会改革の方向性に関しては、全体最適性の追求が必要と考えている。
具体的には、全体の縮図としての市民意見を得るための統計学的代表性を担保した公聴手法の確立や、一般質問等で顕在化する、議員個人の提案や指摘と財政規律との整合性などが課題として挙げられよう。それは少数の市民意見だけを前提に、財政的に実現困難な政策を私見として主張していても、住民自治の拡充などできないからだ。
議会は市民幸福度を最大限に向上させる、全体最適の政策を機関として実現すべきであり、それができてこそ市民にとって議会の存在感も高まるはずである。
これからの議会改革では、議決機関として多様な意見を収斂して合意形成を目指し、全体最適性を追求する理念と制度構築が求められるのではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。