自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[30]西日本豪雨災害と対口支援、災害マネジメント総括支援員

地方自治

2020.09.23

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[30]西日本豪雨災害と対口支援、災害マネジメント総括支援員

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2018年9月号) 

 2018年6月28日から7月8日の台風及び梅雨前線の活動に伴い、西日本の多くの地域で洪水や土砂・土石流により甚大な被害がもたらされた。全国で220人が死亡し、9人の安否が不明である(消防庁調べ。8月2日現在)。しかも、7月31日時点で、全国で11府県64市38町4村が災害救助法の適用を受けるという東日本大震災以来の広域災害となってしまった。

 お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さま、関係されるみなさまに、心からのお見舞いを申し上げる。

被災市区町村応援職員確保システムの発動

 この災害に対応するため、総務省は2016年の熊本地震の成果や課題を踏まえて今春に制度化された「被災市区町村応援職員確保システム」を初めて発動した。しかも、下記のように迅速に対応している。

・7月7日(土)「被災市区町村応援職員確保システム」に基づき、被災府県及び被災地域ブロック幹事県並びに関係団体と連絡を取り合い、人的支援に関する情報収集を開始。

・7月8日(日)現地での応援職員の要否等に係る詳細な情報収集のため、職員を広島県庁、愛媛県庁、岡山県庁へ派遣。

・7月9日(月)広島県において、関係団体と応援職員派遣の調整に関する「現地調整会議」を実施し、応援職員の派遣調整を開始。

対口支援

 対口支援とは、大規模災害で被災した自治体のパートナーとして特定の自治体を決めて職員を派遣する方式である。

 大規模災害では現地の自治体職員が被災する上、対策本部や避難所の運営、罹災証明書の発行など膨大な量の業務が短期間に集中し、多くの職員が必要になる。対口支援により、被災自治体のパートナーが特定されることから、自治体間の支援格差をできるだけ少なくすることが狙いである。パートナー役を担うのは都道府県と政令市であり、都道府県は管内の市区町村と一体となって職員を派遣する。

 8月2日現在の対口支援団体派遣状況は、被災16市町に対し、22都道県市から396人を派遣中である(総務省資料より)。

 主な業務内容は、罹災証明の調査や発行、そして避難所運営が多い。私が、岡山県倉敷市の避難所を見た限りではあるが、被災自治体職員が様々な計画、相談、調整、来客対応に追われている一方、応援職員は物資の管理や掃除という作業的役割に従事するだけであった。

 対口支援ではまず、被災自治体の受援計画が重要である。自治体BCPの策定が重要と喧伝されるが、その中核となるのは重要業務の選択と受援計画である。避難所にせよ、罹災証明書の調査や発行にせよ、当初は受援職員と応援職員がペアを組みながら業務マネジメントを進め、将来的に応援自治体に業務を丸ごと移管するのが望ましい。

 この時、応援職員に業務経験があれば、地域に詳しい受援職員とペアを組んで、相談し合うことで効果的に業務が遂行できる。そこで、少なくとも発災当初は、当該災害対応業務経験のある応援職員を選抜することが大切である。そのために、神戸市は応援職員リストを業務ごとに作成し、更新を続けている。業務が多忙を極める時に、応援職員が指示待ちで手を空けるのは実にもったいない。

災害マネジメント総括支援員

 対口支援は、これまでの災害で事実上の実績の積み重ねがあったが、災害マネジメント総括支援員は初めての派遣になる。

〈災害マネジメント総括支援員の派遣状況〉
 style="margin-left:1em;text-indent:-1em;"・8月2日現在、被災3市町に対し、3県市から災害マネジメント総括支援員を派遣。累計で、被災10市町に対し、14県市から災害マネジメント総括支援員を派遣(総務省資料より)。

 災害マネジメント総括支援員の役割は、被災自治体首長の災害マネジメントを総括支援することであり、以下の3点が主要業務となる。

・災害対応のノウハウ
・推進体制の整備などの管理マネジメント
・総務省等との連絡・調整

 対口支援団体の代表としても活動するため、課長級職員以上とされる。相当な経験、知識、人柄が求められる。

 これまでの応援職員の災害マネジメント支援に比較すると、総務省の制度で派遣された立場を活用して、現場と国のパイプ役として早急な対応が期待できる。

 ただ、これまでの業務内容を見ると首長マネジメント支援というよりは、災害対応のノウハウを生かして相談役となったり、応援職員の確保を進めるなど、現場の業務支援にとどまっているように見受けられる。

今後の災害マネジメント総括支援構想

 これは災害対策本部の総括的マネジメントではあるが、首長級のトップマネジメントや、班単位での業務マネジメントも重要と考えている。災害マネジメントとは、上位から下位まで重なり合いながら、相互に状況を共有し、災害対応の全体最適を志向し、実現するものである。

 まず、トップマネジメントである。

 災害対策本部のトップは、全体状況を理解し、対策を判断、指示し、マスコミを通じて公表、説明をする任務がある。たとえば熊本地震、東日本大震災、大雨被害など、最近の大規模災害で被災した15人の市区町村長が共同でまとめた「災害時にトップがなすべきこと」のレベルである。

 トップマネジメント支援者は、災害対応経験があり、政治行政の機微を理解している首長及び経験者が望ましいが、それがかなわない場合でも被災自治体の首長に直言できる見識ある特別職、幹部職員及び経験者が必要である。

 次に、情報統括マネジメント支援である。現在の「災害マネジメント総括支援員」に想定されている役割である。いわば災害対策本部の作戦参謀である。発災当初は、数少ない情報の中から、被害概況を読み取り、トップマネジメントと業務マネジメントを補佐する。継続して情報収集、整理、分析を行い、関係者と情報共有し、優先順位を付しながら災害対応業務全体の進行管理を行う。また、遊軍的に縦割り所管の溝を埋めたり、重要業務の相談支援をしたり、警察、消防、自衛隊、医療、保健、福祉関係者との総合調整も任務となる。

 第三に業務マネジメント支援である。ご遺体、避難所、物資、応急危険度判定、救助法関連業務、廃棄物、被害認定調査、罹災証明などは、ほとんどの自治体対職員が経験したことのない業務である。しかし、どれも極めて重要業務である。この専門的な業務に関して十分な知識、経験があり、進行管理をすることが任務である。

 このように災害時のマネジメント支援は、重層的であり、一人の人物ですべてこなすことは時間的にも能力的にも不可能と思われる。総務省には、ぜひ、今回の災害マネジメント総括支援員から詳細な聞き取りを実施し、課題の抽出と改善策の検討を期待する。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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