時事問題の税法学
時事問題の税法学 第15回 政治献金と寄附金控除
地方自治
2019.07.10
時事問題の税法学 第15回
政治献金と寄附金控除
(『月刊 税』2017年1月号)
政治資金規正法違反
平成4年から7年頃であるから四半世紀も前の話である。寄附金控除による所得税の不正還付に政治家が関与した事件が頻発し、マスコミ報道が過熱した時期があった。
所得税法、政治資金規正法違反で刑事事件に発展した事例では、平成5年2月に横浜市会議員(平成5年9月に懲役2年、執行猶予4年、罰金300万円の有罪判決)、同10月に元神奈川県会議員(平成5年12月に懲役2年、執行猶予4年、罰金500万円の有罪判決)が、それぞれ逮捕される事態が出来した。
神奈川県では、その後も平成5年10月に寄附金の水増し報告で、衆議院議員の後援会の幹部が逮捕される事件が起こっている。この衆議院議員が、TPP交渉で活躍し、その後、秘書の不祥事で大臣を辞任した人物であることを憶えている人は少ないかもしれない。
国会議員でも平成7年3月30日、所得税法違反、政治資金規正法違反に問われた衆議院議員に対して、名古屋地方裁判所は、求刑通り懲役1年6月、罰金500万円の実刑判決を言い渡した。平成7年4月27日、同じく所得税法違反、政治資金規正法違反に問われた衆議院議員に対しても、名古屋地方裁判所は、懲役2年6月、執行猶予5年、罰金1000万円の判決を下した。
平成7年にこの政治献金に対する寄附金控除は改正され、現行では支払った政党又は政治資金団体に対する政治活動に関する寄附金で一定のものについては、①支払った年分の所得控除としての寄附金控除の適用を受けるか、または②一定の算式で計算した金額について税額控除の適用を受けるか、いずれか有利な方を選択することができる制度となっている(租特法41の8①)。
寄付は第二の財布
この一定の寄附金とは、政治資金規正法第3条第2項に規定する政党及び政治資金規正法第5条第1項第2号に規定する政治資金団体に対する政治活動に関する寄附であり、政治資金規正法第12条又は第17条の規定による報告書により報告されたものをいう。ただし、①政治資金規正法の規定に違反することとなるもの、②その寄附をした人に特別の利益が及ぶと認められるもの、は除かれる。ところが、最近、かつての悪夢を思い出されるような話が出てきた。政治献金がらみの寄附金による税優遇に関して、政治家による疑惑が報道されたのである(朝日新聞平成28年1月24日)。
報道によれば、自民党と民進党の少なくとも5名の都議会議員が、自身が代表を務める政党支部に寄附し、税の還付などを受けていたという。年600万円の寄附で百数十万円を還付された都議もいるから驚く。政治家が自分の資金管理団体や後援会に寄附した場合には、前述した特別の利益が認められることから除外される。しかし、政党支部は政党組織の一部であるため優遇の対象となるという。政党支部の資金は、支部長たる議員の第二の財布と揶揄されることから、資金を移動しただけで税の優遇を受けると批判されている。記事によればこの5人の都議は氷山の一角であり、都議会のみならず国会議員や他の地方議員も利用している可能性を示唆している。そういえばこの報道の直後、教え子の披露宴で、同じく教え子である首都圏の市会議員と同席した。その実情と実態を聞くべきだった。
本来、この制度は、団体による政治資金を抑さえ、個人献金を促進することを目的としていたが、本末転倒といえる。やはり制度の悪用である。
この稿を書くため古い新聞記事のファイルを探していたら、締めくくりにふさわしいインタビュー記事を見つけた(朝日新聞平成5年8月7日)。「税法を制定する立場の人間が税逃れに腐心しているようでは、国民の納税意欲を著しく損なう」。東京地裁判事時代に脱税事件で初の実刑判決を下した税法学者、松澤智先生のコメントである。先生が逝かれて13年が過ぎた。