時事問題の税法学 第16回 相続税の負担増加

NEW地方自治

2019.07.10

時事問題の税法学 第16回

相続税の負担増加
『月刊 税』2017年2月号

改正相続税法

 新年の仕事始めの日に、顧問先の先代社長の訃報を知らされたとき、思わず「何時?」と聞き返した。「旧臘27日!」という答えを聞いて、不謹慎という誹りを免れないが、ホッとした。平成27年の正月のことである。

 平成27年1月から改正相続税法が施行された。平成26年の年末頃には、「今年の大晦日は、死亡時間の攻防がある」と大学等の講義で、いわば放言していたが、基礎控除に関する大改正がもたらす影響は極めて大きい内容だった。

 相続税の計算は、相続財産から葬式費用や未払医療費などの債務、基礎控除を控除した残りの価額に課税される。例えば相続人が2名の場合、改正前は7千万円(1千万円×2名+5千万円)だった基礎控除が、改正後は4千2百万円(6百万円×2名+3千万円)と大幅に縮小した。

 国税庁は、平成27年分の相続税の申告状況について公表した。平成27年中に亡くなった人は、約129万人(平成26年約127万人)、このうち相続税の課税対象となった人数は約10万3千人(平成26年約5万6千人)で、課税割合は8.0%(平成26年4.4%)となった。平成26年より3.6ポイント増加したが、当然の結果といえる。

 改正前では相続税に縁がなかった家庭でも、課税ベースの拡大により、相続税の負担も身近な話となって来ている。首都圏はいうまでもないが、地方都市でも相続税を考慮しなくてはいけない家庭もあるようだ。

 相続税の申告が増えれば、いわゆる「争族」も頻発するかは明らかではない。相続税の申告や納税が必要な家族では、申告期限の10ヶ月という期間制限が時間的な歯止めになり、「争族」状態でも遺産分割が渋々ながら進むかもしれない。

遺産分割

 遺産分割といえば、最高裁が、遺産分割対象資産について、判例を変更した(平成28年12月19日大法廷決定)。従来の最高裁の判断は、分割できる財産は法定相続分で分割するべきであり、相続人らが協議する遺産分割の対象とならないから、預貯金は、法定相続分に基づいて自動的に分けるべきと判示していた。

 今回の事例は、2人の相続人が争った争族事案である。相続人は、被相続人の弟の子で被相続人と養子縁組をした者と被相続人の妹で被相続人と養子縁組をした者の子という2人である。複雑な人間関係にも見えるが、いとこ同士の関係だろう。

 遺産分割を求める相続人は、相手は生前贈与を受けているので預貯金を二等分するのは不公平であると主張したが、もうひとりの相続人は、預貯金は遺産分割の対象外だと反論していた。

 最高裁は、遺産分割の仕組みは相続人間の実質的公平を図るためのものだとしたうえで、現金のように、評価についての不確定要素が少なく、相続の調整に活用できる財産を遺産分割の対象とすべきだとの要請も広く存在するとして、確実かつ簡単に換金できる預貯金は現金と同種の財産と受け止められていることなどから、自動的に配分されるのではなく、現金同様に遺産分割の対象になる、と判断した。

 しかし、この最高裁の判断で、混乱が生じる危惧が指摘されている(12月20日日経新聞・朝日新聞)。死亡直後に遺族が、葬儀費用、生活費などのために、故人の預金を引き出す場合に、現在、引き出しに応じるかどうかは金融機関や支店によって異なる。トラブルを避けるため相続人全員の合意を求める金融機関は多いが、臨機応変に対応する金融機関もある。ところが、判例の見直しで個別の引き出しは難しくなる。遺族同士の話し合いや調停で家裁の審判が長引けば預金を引き出せない状態が続く可能性も出てくる。争族の火種にもなりそうな気もする。

 これを前提に、最高裁の共同補足意見は、解決策の一つとして審判よりも簡易な手続で銀行への仮払いを申し立てる制度の活用と運用に言及している。

 相続は、多くの人がわずかな財産と思っていても、相続税の課税対象となることもあるが、争族は財産の多寡に関係なく発生する。

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