クレーム対応術

関根健夫

クレーム対応術 9 「聞いていない」と言われた場合の対処法

キャリア

2019.04.02

今さら聞けないクレーム対応術 9 『「そんなことは聞いていない」と言われ、毎回堂々巡りです……』

『ガバナンス』2014年12月号

聞いていない

メモを取っても効果がない人

 行政の仕事では、お客さまに制度や基準を説明し、ルールに則った手続きをしてもらうことが多い。最近は制度や基準が複雑になり、様々な状況に対応しなければならず、手続きも一様ではなくなってきた。

 そうした環境の中で、一部のお客さまから「そんなことは聞いていない(言っていない)」「話が違う」などと主張される場合がある。もちろん、こちらは「確かに聞いた(言った)」との確信があるが、お客さま側は、こちらの認識、見解とは異なった主張をしてくる。

 役所側では多くの場合、お客さまとの対応の記録を残しているはずだ。正式な記録をサーバーに保管する場合もあるし、メモをノートなどに残す場合もあるだろう。それをお客さまに伝え、相手方が結果的に主張を撤回すれば、それはそれでよい。

 しかし、こちらにメモなどの記録があるにもかかわらず「そんなことは言っていない」などと主張するお客さまもいる。クレームは、必ずしも苦情とは限らない。その人にとってみれば、当然の主張であり意見ということでもある。相手にも主張の自由がある以上、これはある意味で防ぎようのないトラブルといえる。

記録を取っても認めない人

 こちらには記録と確信があるにもかかわらず、それを認めない理由は二つ考えられる。

 一つは、その人が自論を主張するために、あいまいさを装っているケースだ。

 本人が自覚しているにもかかわらず「知らない」「聞いていない」「言った」「言わない」などと小さなウソをつく。この場合、所詮は虚偽を主張しているので、冷静に粘り強く突き詰めていけば、相手は言い分を撤回する可能性は高い。

 もう一つは、本人もそう思い込んでいる場合だ。

 これは、記憶の一部に錯誤を生じている場合が多い。本人は信じ切っているので、なかなか翻意はしない。しかし、冷静に議論ができれば、いつかはわかってくれるだろう。

 一方、最近では、認知症が疑われるような言動をする人も増えているという。比較的高齢者に多く、相手が聞いたこと(こちらが話したこと)、相手が話したこと(こちらが聞いたこと)を忘れてしまうそうだ。結果として、説明したという行為が無意味になってしまう。そうしたお客さまに、激しい感情を伴って「知らない」「聞いていない」などと何度も主張されると、担当者のストレスは相当なものになる。

主張を補完する要素を使う

 人が自分の意見を覆すことはあり得ることだ。一般的なコミュニケーションでも、「そんなこと、言った?」「あの時はそう思ったけど……」といった発言をするケースがある。そこで一般的には、大切な約束事には契約書や念書を作成する。さらに、これに反した場合には、何らかの罰則や負担が課されることを文書に盛り込むこともある。

 役所の窓口での説明でも、手引書や説明書などの書面を交付することがある。文書を利用した説明や意思確認は、トラブル防止の一つの方法だ。書面を使って説明し、それを相手方に保管してもらえば、いつでも見直すことができる。説明に伴い書面を交付したことを証明すれば、第三者にもアピールできる。

 しかし、現実には口頭での説明が圧倒的に多く、説明がすべて文書化されることはないだろう。したがって、相手方が前言を翻したり、約束を反故にしたりすれば、再度説明を試みて、その約束の履行を促すしかない。つらいことかと思うが、その努力が正義を貫こうとする誠意と言うべきだろう。

基本は粘り強さ

粘り強さを持つ

 虚偽を発言する人や思い込みを持っている人には、こちらも言うべき時は言わなければならない。クレームに対抗する有効な手段は、逆質問である。「その時は、何とおっしゃったのですか」「その時は、どのようにお聞きになりましたか」などと、逆質問を交えて、相手方への理解を示しつつ、粘り強く説明する。

 しかし、説明の努力も無制限というわけにはいかない。それでも翻意しない発言を繰り返す人については、いつかははっきりとした口調で、「この件については、○月○日にこの内容でお伝えしています」「こちらには、記録があります」などと、主張することも考える。

 その時の応対は何時何分から始まり、何時何分に終わったのか、前後にどのような内容の話があったのかまで記録されていれば、相手方に過去の事実を認めてもらうポイントになる。理解を示しつつ、時には毅然と、硬軟織り交ぜて自信や信念を感じさせるような口調で、はっきりと言うことが必要だ。

 この時「おかしいでしょう」「それはウソですよね」などと、こちらの証拠に基づいて論理的優位性を前面に出して話すと、感情的に反発され、喧嘩になってしまう可能性がある。こちらにはメモがある、証拠があるからといって、書類等に頼る雰囲気を感じさせることも、感情的な反発を生む。あくまでも、自分の見聞きしたことを基本として、信念を述べるようにする。

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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