政策課題への一考察 第89回 地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続に向けた一考察(上) ― ライフイベント視点の重視
地方自治
2024.05.14
※2023年8月時点の内容です。
政策課題への一考察 第89回
地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続に向けた一考察(上)
―ライフイベント視点の重視
株式会社日本政策総研理事長・取締役
(兼)東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
若生 幸也
(「地方財務」2023年9月号)
はじめに
地方自治体のより良いデジタル完結型の行政手続を指向するために利用者視点が重要であることは論をまたない。2000年の「eーJapan戦略」に端を発し、これまでも様々な電子申請システムが導入されてきたが、住民はおろか事業者でも使いにくいユーザーインターフェイス(UI)や個別性の強い認証システムなどのもと、電子申請利用率は低迷を続けてきた。今後自治体DXの取組深化を背景に、様々な形で地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続を指向する動きが出てくると見込まれるが、そのときに考慮すべき視点を2回にわけて整理したい。
1 ライフイベントの考え方
結婚や出産、子育て等のライフイベントは住民が行政手続を行うきっかけとなる。全ての行政手続を「デジタル完結」にすることは望ましいが、労力に比して住民の利便性向上には繋がりにくい手続があるのも事実であろう。このため、ライフイベントに関わる行政手続を先行させて「デジタル完結」の観点から将来的な業務フローを検討することが求められる。このためには、既存のライフイベントごとの行政手続を再整理する必要がある。ただしライフイベントの種類には様々な考え方がある。
このときに参考になるのが各自治体で進められてきたライフイベントごとに行政手続をまとめて取り扱う「総合窓口」の取組である。総合窓口とは対面を前提としているが、①転入、②転出、③転居、④出生、⑤死亡、⑥婚姻、⑦離婚の7つのライフイベント行政手続を可能な限りまとめて実施する。つまりこの総合窓口での手続をみれば、標準的に実施されるライフイベントごとの行政手続は明らかになる。
また、「デジタル・ガバメント実行計画」(2020年12月25日閣議決定)ではワンストップサービスの推進として、①子育て、②介護、③引越し、④死亡・相続が挙げられている。
加えて、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2023年6月9日閣議決定)では、「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続」を示しており、「b)住民のライフイベントに際し、多数存在する手続をワンストップで行うために必要と考えられる手続」が特に関連する行政手続といえる(図表1参照)。
これら「総合窓口」「デジタル・ガバメント実行計画」「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を踏まえると、おおむね以下がライフイベントと想定できる。
2 優先オンライン化手続内のライフイベント関連手続の相関分析
先に示した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続」として「b)住民のライフイベントに際し、多数存在する手続をワンストップで行うために必要と考えられる手続」が示されている。手始めにこの実施有無を手がかりにどの程度のまとまりを持って手続が行われているかを整理する。なお、2023年2月6日から全ての市区町村でマイナンバーカードを利用してマイナポータルから「エ.転出・転入手続関係」の1)転出届、2)転入予約は可能となったため、分析対象外としている。
2022年度末までの各市区町村でのオンライン申請の対応状況はデジタル庁「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続のオンライン化取組状況に関するフォローアップ調査」で示されている。
このデータを用いて、「ア.子育て関係」「イ.介護関係」「ウ.被災者支援関係」の各手続間の相関係数を出した(図表2参照)。数値の見方は各手続間で双方実施しているか否かが一致すれば一致するほど1に近づく。逆に片方しか実施していないことが多ければ0に近づく。ライフイベント関連手続をまとめて実施するという観点からは、全市区町村がオンライン申請を実施していない手続はないため、相関係数が高い方が望ましい。
以上の分野ごとの相関係数上位・下位5位からいえることは、図表3のとおりである。ライフイベント関連手続が総合化されている順に介護・子育て・被災者支援と整理できる。また、国・地方自治体を通じた政策的重点化が求められている子育て関係はまだまだ総合化途上にあり取組を加速すべきともいえる。オンライン手続の実施有無のみでは見出せないライフイベント総合化指数として位置づけることも可能であろう。
おわりに
今号では、地方自治体のより良いデジタル完結型の行政手続を指向するためにライフイベント視点の重視という観点から、ライフイベントの考え方及びライフイベント関連手続間の相関係数を整理することでライフイベント総合化指数として整理した。
次号では利用者視点の重視や現行法制との整合性確認・方向性検討などの観点を用いて、今後の地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続に向けた考察を進めたい。
〔参考文献〕
・「デジタル・ガバメント実行計画」(2020年12月25日閣議決定)。
・「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2023年6月9日閣議決定)。
・総務省「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書【第2.0版】」2023年1月20日。https://www.soumu.go.jp/main_content/000857916.pdf
・デジタル庁「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続のオンライン化取組状況に関するフォローアップ調査」。
https://www.digital.go.jp/policies/administrative_procedures_online/
・若生幸也「第5章情報化を基盤としたと事務事業の進化」宮脇淳・佐々木央・東宣行・若生幸也『自治体経営リスクと政策再生』東洋経済新報社、2017年。
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