議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第90回 誰のため、何のための「一般質問」なのか?
地方自治
2024.05.09
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年9月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
7月に「どうする?一般質問のトリセツ」(注)と題する勉強会にコメンテーターとして参加した。
グループディスカッションでは、一般質問の課題抽出と解決手法に分けて、意見交換が行われた。今号では、勉強会での議論をもとに、一般質問に関する私見を述べたい。
注 「輝け議会!対話による地方議会活性化フォーラム」主催
■一般質問の表層的課題
私が参加したグループでは一般質問の課題として、「持論を展開するばかりで質問になっていない」「地域要望に終始している」「数字を聞いているだけの質問」などの例が挙げられた。
たしかに、自己主張することを目的とした質問や、形式上は質問であっても事務的な回答を求めるに過ぎないものは、一般質問に期待される本来のものではないだろう。
■一般質問の本質的課題
そもそも議会の中心的議事日程と思われがちであるが、一般質問には法的根拠がなく、各議会の裁量で会議規則に定めを置いて行っているものに過ぎない。
実務上も本会議における議案上程から採決に至るまでの議事日程は、いずれも議決機関としての権限を行使するためのプロセスである。そこに議案審議に必須の質疑とは異なり、議案とは無関係な一般質問が一連の議事日程に挟み込まれるのは違和感がないだろうか。
それは、一般質問は議員活動の延長線上にあり、機関としての活動ではないことに起因する。俯瞰的には、議員個人にではなく、合議制機関の議会にのみ機関としての権限が与えられている、自治体議会の根幹的制度設計に拠るものであろう。
したがって、一般質問を議会として活かすには、機関としての議会活動に昇華させることが必要である。そのためには、その手法を各議会で確立することが前提となる。
■機関活動に昇華させるには
具体例としては、北海道別海町議会のように通告前に、議会として一般質問項目を集約して全体で議論する「一般質問検討会議」を設けていることや、北海道鷹栖町議会のように、住民にあらかじめ質問内容を広報するとともに、本会議当日には傍聴者に一般質問の質疑応答内容に「通信簿」をつけてもらう試みなど、多様な事例がある。
手法は様々でも、共通するポイントは、議員個人ではなく機関である議会として、一般質問を活用しようとしていることである。
先のような弊害が指摘されるのは、議員に一般質問を機関活動に反映しようとの意識が乏しく、議員個人のパフォーマンスの場と誤解している例が多いからであろう。
■一般質問による政策提案可能性
一方、一般質問を政策立案機能発揮のツールとしても活用すべきとの論もあるが、私は困難だと考えている。もちろん、執行部と水面下で調整してきた議会提案の政策を、最終局面でオーソライズするための手段としてはあり得る。だが、政策提案の局面でこそ機関としての合意形成が大前提となるため、一般質問が議員活動の延長線上にある限りは難しいだろう。
また、白紙の状態で、新たな政策を一般質問で提案してみても、質問者以外は全て反対するかもしれない一議員の提案に、執行機関の賛意を得ることは現実的ではない。予算やマンパワー確保の必要性からも、通告から答弁までの日程を考えると、政策提案手法としては明らかに不向きだと考えるからである。
第91回 『議長は「任命権者」ではなかったのか? 』 は2024年6月13日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。