
ガバナンスTOPICS【イベントレポート】
【早大デモクラシー創造研究所 年次シンポジウム】新しい民主主義を創造するために/イベントレポート
NEW地方自治
2026.06.20
目次
出典書籍:『月刊ガバナンス』2026年6月号
最新のイベント/会見レポートを毎月掲載中!

月刊 ガバナンス 2026年6月号
特集1:ひとりで悩まない 新年度3か月目の整え方
特集2:公務に役立つ! 「ちょうどいい距離」の文章術
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
詳細はこちら ≫
【ガバナンス・トピックス】
新しい民主主義を創造するために
──早大デモクラシー創造研究所が初の年次シンポジウムを開催
早稲田大学デモクラシー創造研究所(所長=日野愛郎・早稲田大学教授)は、4月11日に年次シンポジウムを都内で開催した。「デジタル技術の急速な発展が民主主義のあり方を大きく変えるいま、テクノロジーを単なる効率化の手段にとどめず、公共性を高め、信頼に基づく民主主義(デモクラシー)の創造に役立てる」ために、様々な視点からこれからの民主主義を考える場となった。
新たな研究所としてスタート
早稲田大学デモクラシー創造研究所は、同大学マニフェスト研究所、公共政策研究所の2つの研究所を引き継ぐ形で2025年4月に設立。「総合知による世界人類への貢献」を理念とし、日本の民主主義を創造していくために、「選挙制度」「地域経営」「パブリックリーダー育成」の3つの部会によって活動をしています。今回は、同研究所が設立されてから初めてとなる年次シンポジウムが開催されました。

講演「デモクラシー創造研究所の使命」
初めに、日野所長が登壇し「デモクラシー創造研究所の使命」と題し、講演。選挙や投票行動が専門の日野所長は、2024年の都知事選で選挙ポスターが様々な形で荒らされた事案に触れ、「民主主義は生き物のようなもの。退化することもあれば、更新すること、進化することもある。これまで研究をしてきた選挙が挑戦を受けているような気がした」と振り返った。
「デモクラシー創造」という新名称については、「新たな時代において虚心坦懐にデジタルの力も借りながら、様々な技術を活用してデモクラシーを考え直したい。研究としても実践としてもデモクラティック・イノベーションを起こすつながりを作るような組織にしたい」と、込めた想いを説明。その上で、「普通選挙が実現して100年の節目の2025年にデモクラシー創造研究所という新しい組織を設立することができたことは偶然かもしれないが、ある種の必然、そして使命のようなものを感じる」と述べた。

冒頭あいさつをする日野愛郎・早稲田大学デモクラシー創造研究所所長。
基調報告「ボートマッチのいまと未来」
続いて行われた基調報告では、日野所長も関わった同大発のスタートアップ「VETA㈱」取締役CSOで同大教授・同研究所研究員の山本鉄平氏が「ボートマッチのいまと未来」と題し、登壇した。
ボートマッチとは
「ボートマッチ」とは「選挙の際に、有権者が自分の思想・政策に関する意見に合った主張を掲げる政党や候補者を見つけることを助けるツール」のことで、英語の「vote(投票する)」と「match(一致する)」からくる造語。本来、英語では「Voting Advice Application(VAA)」と呼ばれる。典型的には、テレビ局や新聞社などのメディア・各機関団体が実施しているのが現在の日本でのあり方だ。
■政党・候補者に対し政策上の立場や思想に関するアンケートを実施
■提出された回答を元に、「マッチ先」のデータベースを作成
■同様の質問からなるアンケートに有権者が回答
■有権者と政党・候補者の一致度を計算して「マッチ度」として提示
──というのが一般的な方法で、マッチの度合いによって、どこの政党や候補者が自分の考えに一番近いかを判断する助けになる。
日本国内のボートマッチについて
日本国内では、2000年代から普及し、大手メディアが提供。2024年衆院選では10サービス、2025年参院選、2026年衆院選ではさらに増加し、活発化している。多くは国政選挙や都知事選のみで提供され、地方の首長選や議会選では一部メディアのみと限定的となっている。一方で海外では、オランダで誕生し、1990年代にインターネットで提供。2023年の総選挙では910万回利用(有権者1300万人)されている。ヨーロッパを中心に普及し、近年ではブラジルやケニアの選挙でも導入されているという。
山本教授は、国内のボートマッチについてさらに解説。日野所長が監修している「ボートマッチ(読売新聞)」、山本教授・日野所長らのVETA㈱が協力・監修している「VOTE MATCH(β版)(日本経済新聞)」、同研究所が設問・意見設定を監修している「政党との相性診断(Yahoo! Japan)」の3つのボートマッチで同研究所(メンバー)が大きな役割を果たしていることを紹介した。山本教授は、「3つのボートマッチはそれぞれの主体が独自の設計思想のもと運営されデータの共有などはしていない。ボートマッチには様々な仕組みがあり、それぞれに良し悪しがある。ユーザーとしては様々な選択肢の中で試し、アドバイスを受け、全体として自分の投票の役に立てるというのが望ましいのではないか」と会場に投げかけた。
また、従来型の一問一答形式ではなく、山本教授が開発した政策パッケージの選択による「コンジョイント型」のボートマッチについても紹介。主に関わっている「VOTE MATCH(β版)(日本経済新聞)」で実装され、2025年参院選、2026年衆院選で実施されたという。
ボートマッチの未来像
最後に山本教授はボートマッチの未来像について言及。「社会実装をしていく中で回答デザインの最適化やアルゴリズムの改良など課題が見えてきた。また、より中立で公平なボートマッチを研究所の場などを活用して、社会全体としてどうデザインしていけばよいかを議論し、実践していきたい」と展望を語った。
マニフェスト2.0を
パネルトーク「“マニフェスト”のゆくえ」
冒頭、モデレーターの山内氏が「マニフェストが提唱されてから20年。昨今では、政治と有権者の情報交換の舞台がSNSに移り、長々とした説明よりも、短く強いメッセージが注目を集め、拡散されやすい状況になっている。政策の背景や目的、根拠、裏付けとなる財源や実現までの道筋などの本来時間をかけて丁寧に説明し理解されるべき情報を現在の情報環境の中で政治の側からは届けていくか、そして有権者の側からすればそれをどのように受け取っていくかということを考えていくことが重要だ。次なるマニフェストを考える時間にしたい」とトークの趣旨を説明し、スタート。
長年「マニフェスト」を提唱してきた北川名誉教授は、衆議院議員や三重県知事時代の自身のキャリアをエピソードを交えて振り返った。また、初代所長を務めた前身のマニフェスト研究所時代の活動にも触れ、「地方から国を変えるローカル・マニフェストを提唱して社会運動をして自治の進展をさせたいという思いでやってきた」と語った。
日野所長は海外事例も交えながらマニフェストについて語った。「これまでの種々の取り組みでマニフェストが浸透してきた。研究として、マニフェストを集め、デジタル化し、政党の政策位置の推定や選挙など政治学の理論の検証をしてきた。現在は、実践としてマニフェストが作られ、それが有権者の目に届き、選挙時の判断材料になるところまで実現してきた」とマニフェストの広がりについて言及。その上で、昨今のマニフェストや選挙について「『実現すればいいな』というものが並んでいるが、どれも財源があるのか分からないものが多い。“あったらいいな”のウィッシュリスト化しているのではないか」と現状分析。公約の実現度合いの検証をする「マニフェスト2.0」の重要性について言及した。
そして、前半の基調報告も踏まえ、「色々なタイプのボートマッチがあることが日本の強みであり、それぞれの特色が出やすい。有権者主導のアジェンダ設定をするような動きがあってもいいのではないか」と提案した。
最後に北川名誉教授は、「長い政治経験から、民主主義は本当に脆いものだ。絶えずあらゆる角度からメンテナンスをしていかなければならない。学術とこれまでの実践が合体してほしい。これまで『理論なき実践は暴挙』『実践なき理論は空虚』と言ってきた。新たなデモクラシー創造研究所が日本のデモクラシーをリードするようなシステムの構築や運動主体になることを心から願っている」と期待を込めた。

「マニフェスト型選挙」を提唱してきた北川正恭・早稲田大学名誉教授を交えてこれからの「マニフェスト」を語った。
変わる若者の価値観
パネルトーク「Z世代の価値観の変容と新たな意見集約のあり方」
「Z世代の価値観の変容と新たな意見集約のあり方」のセッションには、同研究所事務局長の島田光喜氏とデジタル民主主義を進めている㈱Liquitous(リキタス)代表取締役CEOの栗本拓幸氏が登壇した。
若者の価値観の調査結果「若者の価値観が今どう変わっているのか?」
まず島田氏が、同研究所パブリックリーダー育成部会で行った「若者価値観の調査」の結果を踏まえ、「若者の価値観が今どう変わっているのか?」について説明した。
調査では2010年前半生まれの若者、約900人を対象にアンケート等を実施。価値観の変容などを調査した。結果から、
■「自己超越・自己実現・承認欲求」という高次の欲求を満たしたい志向が明らかに
■特に約30%弱の高校生が「自己実現欲求」を今後最も満たしたいと考えている。そのうち、男性よりも女性の方が高次の欲求(自己実現欲求・自己超越欲求)を満たしたいと考える傾向がある
■父母共に親の学歴が高い層ほど「自己実現」「自己超越」の比重が高く、低い層では「生理的欲求」「安全の欲求」の比重が高い。特に、母親の学歴の方が欲求構造との関連が明確に表れている
■若者に自己超越(利他的動機×内発的動機)が「ない」のではなく、自己実現欲求と自己超越欲求が接合されていない。自己超越は欲求として自然に生じるものではなく、行為と意味づけの往復によって自覚されるもの
──などの結果が出たことを紹介した。
また、インタビュー調査の結果も示し、自己超越の欲求を持つようになるには、
①自己実現と社会的意義が両立する行為を経験すること
②行為の社会的意味を事後的に言語化すること
③意味づけを翻訳してくれる他者と関係を持つこと
──と調査結果をまとめた。
調査結果を踏まえて
価値観が変化する中で、どのように若者の意見を集約し、政策に反映していくのか、調査結果を踏まえ、栗本氏がコメントした。「市民の声を効果的・効率的に収集し、政策に反映するための仕組み」を提供している同氏は、同社の様々な事業例を用いて説明した。多様な意見を政策に反映することと若者の価値観・欲求について触れ、「たとえば公共施設や公共交通のサービスのあり方を考える議論では、『今満たされていると思っているものでも、実はこれから満たされなくなるかもしれないのだ』ということをどう共有していくかが大事な視点だ」と話し、効力感を実感しにくいパブリックセクターへの関心を高めるための機会創出の重要性を語った。

変わる若者の価値観を知ることで、若者の意見をどう政策に反映できるかを考えた。
新たなアワードを創設
同研究所は2026年度から新たに「デモクラシー創造大賞」を実施することを発表した。「当たり前を変え、新しい価値観を生み出した取り組み」が対象。募集対象は、首長、議会、行政、住民、学校、NPO、企業といった「地域を支えるデモクラシーの担い手全員」。自薦・他薦は問わない。4月11日~9月15日まで同研究所HP(*)で受け付けている。
* デモクラシー創造大賞
https://waseda-idi.jp/award
授賞プロセスは、同研究所が開設した各地の事例を掲載する「デモクラシー創造広場」に投稿されたアイデアの中から、社会に広く発信したい優れた取り組みを基準に基づき選定する。「優秀賞」「特別賞」「グランプリ」を設け、選出するという。同研究所の中村健・地域経営部会長は「民主主義を成熟させることは、これまでの仕組みや構造にメスを入れること。それは泥臭いことかもしれないが、本当の肝なのかもしれない。世の中を変え、前に進めていくような取り組みを応援したい」とアワードへの期待を語り、シンポジウムを締めくくった。
(本誌/浦谷 收)
最新のイベント/会見レポートを毎月掲載中!

月刊 ガバナンス 2026年6月号
特集1:ひとりで悩まない 新年度3か月目の整え方
特集2:公務に役立つ! 「ちょうどいい距離」の文章術
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
詳細はこちら ≫





















