『学校教育・実践ライブラリ』Vol.4 2019年7月配本 新学習指導要領の全面実施のタイミングは教師が成長するチャンス  山形大学教授 野口 徹

学校マネジメント

2019.07.31

子供の姿を適切に捉え、評価する

 今春に文部科学省から出されたものとして、「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について」という「通知」がある。これは、新学習指導要領の趣旨に沿って各学校が学習評価を適切に行うことに資するものであるとともに、新学習指導要領に対応した指導要録の作成のための参考となる視点も示している。

 この中に「主体的に学習に取り組む態度」についての説明がある。これは、新学習指導要領に示された資質・能力の三つの柱に対応する観点別学習状況の評価の観点として新たに示された「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点の一つである。「主体的に学習に取り組む態度」は「学びに向かう力・人間性等」を評価する観点である。これについて次のような表記が見られる。

「『主体的に学習に取り組む態度』については、各教科等の観点の趣旨に照らし、知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組の中で、自らの学習を調整しようとしているかどうかを含めて評価することとしたこと」

 つまり、「主体的に学習に取り組む態度」には、
A:知識及び技能の獲得、思考力、判断力、表現力等を身に付けることへの粘り強い取組(学習への意欲的な態度)
B:自らの学習を調整しようとしているかどうか(自らの学習を調整する意思)
の二本柱がある、としているのである。これらを評価するには、子供がそのような学習をしている姿が存在していなくてはならない。つまり、子供が上記のA・Bを表出しやすくなる環境を構成し、授業を展開していくことに教師は傾注する必要がある。子供が身を固めてしまって思考が止まっているような授業は論外なのである。

 むしろここにこそ、若い教師が最も志向するべき教師像の「ヒント」が見えてくる。それは、やはり「子供が主役」であることの再認識であり、そこに高次の思考が生まれる雰囲気を作り出すことである。そしてその「入口」となるのが、子供の姿を適切に捉えるために丁寧に迫っていくことである。

 「子供の姿」について考えたときに今回の改訂の中で特記すべきものとして、「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園・保育要領」の中に示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」がある。これは、「年長児」とされる5歳児がそれぞれの園を修了する時までに育ってほしい具体的な姿を資質・能力の三つの柱を踏まえて明らかにしたものである。「教科」の枠組みでの「授業」が展開されないこれらの園では、「遊び」を中心とする生活の中で、これらの姿が一体的に表れてくるように環境の構成を行い、導き出すことに力を注いでいる。保育者は子供の姿を丁寧に捉えようとする。子供の姿から情報を得ていないと、子供が次に熱中する遊びを予想し、支援することが困難になるからである。ここから日常的に子供の姿を評価する「力」を磨いていくのである。

 例えば、次のような取組がある。子供が没頭して遊んでいる姿を保育者は写真に収めておく。幾多の写真から選んだものを園舎の壁に掲示していく。その写真を見た子供が当時の自分の気持ちを思い出して言葉を添えていく。保育者がその言葉を書いたり、字を書くことを希望する子供は自らが書いたりする。これらが園舎の至る所に示されている。別の子供がそこに表されている情報を読み取って自分の遊びに反映していくこともある。極めてシンプルな取組であるが、保育者が子供の姿を適切に捉えている様が明確である。

 さらに、この掲示物は保育者が子供の姿を精緻に捉え直すための資料としても活用される。ある園では、2週間に1度の割合で掲示物を見ながら保育者が気付いたこと・感じたことなどを付箋紙に書き、それを「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の10の観点で整理するワークショップ型の研修会を行っている。これを定期的に行うことから子供の姿を適切に捉える「力」を保育者相互に高めていくのである。さらに、これらの記録を蓄積しておき、年3回の割合で印刷物にまとめて保育者間で共有するようにしている。このような取組を日常的に行うならば、子供の思考を深く読み取ることが可能となり、保育者は余裕をもって子供と関わることができるようになるのである。高圧的な口調など必要がない。もっと文化的な雰囲気に包まれている。子供は伸び伸びと思考を深めていく。「主体的に学習に取り組む態度」の礎はこういったことから生み出されていくのである。このような取組は、校種を越えて大いに参考になることであろう。

 子供の姿を適切に捉えることは、新学習指導要領においては必須である。ここからスタートしなくてはならない。逆に考えるならば、これからの学習指導要領全面実施のタイミングは、教師の力量形成に大いなるチャンスを与えてくれている。教師としての成長を目指すのであればチャンスを逃さず、まずは子供の姿を捉えることから始めるべきである。

著者プロフィール

野口 徹(山形大学教授)。専門は、生活科・総合的な学習。文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説総合的な探究の時間編」専門的作業等協力者、国立教育政策研究所学習指導要領実施状況調査結果分析委員会委員(中学校・高等学校総合的な学習の時間)。主な著書に、『シリーズ新しい学びの潮流3子どものくらしを支える教師と子どもの関係づくり』(ぎょうせい)、『総合的な学習の時間の指導法』(日本文教出版)など。

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

教職員・教育行政・研究者などさまざまな立場の方の声から、最新の教育課題を検討

お役立ち

学校教育・実践ライブラリ Vol.4特集 働き方で学校を変えるやりがいをつくる職場づくり

2019年7月 発売

本書のご購入はコチラ

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中